第89話 3月の状況

 まもなくローカル線が2本、森林鉄道が1本開通する。

  ○ ガナーヴィン西線 

   ガナーヴィン~メッサー(仮称)間 11離22km 単線

  ○ スウォンジー南線 

   スウォンジー~ラングランド(仮称)間 13離26km 単線

  ○ ラングランド森林鉄道

   ラングランド(仮称)~モールバン川出合~ピアズ石灰石鉱山下

   18離36km 単線(森林鉄道本線規格)


 このうちガナーヴィン西線とスウォンジー南線は8腕16m級の大型車両で運行する事にした。


 ゴーレムは操縦者の魔力と周辺に満ちている魔力が動力源。

 運行経費は車両製造・整備費用を除けば大型車両も小型低床車両も変わらない。

 そして速力と輸送力は大型車両の方が圧倒的に有利だ。

 より大型のゴーレムを使用可能だから。

 

 またダコタ=ナム線は大型車両に入れ替えが完了した。

 ガナーヴィン西線が乗り入れるし、将来的にはガナーヴィン北線や南線も乗り入れる予定。

 だから一足先に駅や車両を整備した訳だ。


 この路線は元々大型車両が入れるように作ってある。

 だから必要なのは駅のホームを改良するだけ。


 今までダコタ=ナム線で走っていた低床車両は路面鉄道へ回した。

 何せ路面鉄道区間、利用者がガンガンと増えている。 

 ガナーヴィン事務所長のトーマスによると、ガナーヴィン住民の意識変化が背景にあるそうだ。


「今までは2半3離1.5km位の距離は歩きを選ぶ人が多かったのです。乗合ゴーレム車は渋滞で遅いですし、料金も安くありませんから。


 しかし路面鉄道は待っていればすぐ来る上、渋滞に関係なく走る。しかも料金が安い。ですので路面鉄道を使える場所なら使った方がいい。住民の感覚としてそうなっているようです」


 なるほど、確かに納得出来る考え方だと僕は頷く。


 トーマスの話は続く。


「おかげで列車の混雑が無視出来ない状態になりつつあります。現在は車両の数がほぼ限界です。

 できる限り早期に車両の手配をしていただけると助かります」


 路面鉄道区間は旅客車5両+貨物車2両の7両編成が主体となっている。

 先頭から最後部まで全長36腕72mだ。

 道路上を走る関係上、これ以上長くするのは避けたい。

 

 つまりこれ以降の旅客増加に対応するには本数の増加に頼る他ない。

 ただし昼間は既に10半時間6分間隔で走っている。

 増やせたとしても1時間にあと2本、つまり12半時間5分間隔くらいが限度だろう。


 それでも現在は予備車両がほとんど無い状態だ。

 だからもう少し路面鉄道車両を増やす必要はある。

 そのうえ新線開業で大型車両も必要だ。


 そんな訳で技術部では新規車両をガンガンに製造している。

 ただ今回、車両部品についてはかなりの部分を下請けに出した。

 下請け先は元ゴーレム車を製造していた工房等だ。


 元々ガナーヴィンはゴーレム車が多く、それらを製作・修理する工房もそれなりに多かった。

 それらの工房に車両製造の一部を出した訳だ。


 勿論新型ゴーレムや魔術的安全装置は当商会で製造する。

 また大型車両の車体は大きさ的にゴーレム車両工場では製造が難しい。


 しかし車輪や台車、座席といった部品についてはそういった工房でも充分製造が可能だ。

 領内のゴーレム工房に仕事を与えるとともに、常に忙しいうちの技術部こと工房の仕事を少しでも減らす事が目的。


 更に僕関係で言わせて貰うと、森林公社も鉄鉱山も忙しくなっている。


 森林公社は特に忙しい。

 何せ新たにラングランド開発なんて業務が入ったのだ。

 石灰石鉱山の新規採石開始なんてのも含めて。


 最終的な開発規模は今までスウォンジーの奥でやっていたものと同じ規模になる予定。

 単純計算では森林公社の規模そのものも2倍になる訳だ。

 

 ただ鉄道がスウォンジーとガナーヴィンを結んだ結果、商会だけでなく森林公社や鉄鉱山も採用がしやすくなった。

 スウォンジーまで鉄道で1時間。

 これはガナーヴィン郊外から乗合ゴーレム車で移動してくるのとそう変わらない時間だ。


 またシックルード領立公社の人員採用をする為、ガナーヴィンに三公社共同の採用連絡所を設けたなんてのもある。


 そしてシックルード領立公社の待遇は当商会と同じで超ホワイト。

 給与は他商会や公社等の同様な職種と比べて3割~5割以上は高い。

 休日も週休1日の他、有給を年間20日以上取れる。


 結果ゴーレム操縦者だけでなく一般事務職に至るまで、応募者が一気に増えたそうだ。

 森林公社も鉄鉱山も。


「これでやっと鉄鉱山の方も定員が充足しそうです」


 そんな事をエドワルド副鉱山長兼鉱山長代理が言っていた。


 そんなこんなで商会だけでなく森林公社も鉄鉱山も忙しい。

 

 ただ商会の方はプロジェクトチームと新規・中途採用人員のおかげで少しずつ体制が強化されてきた。

 工房も新たに10人程、カールが何処からか引っ張ってきている。


 新線が試験運行を開始し落ち着いたら僕も一息入れることが出来そうだ。

 そして3月となれば春休み。


「御願いですから落ち着いたら最低1週間は休みを取って下さい。庶務係員の士気にも関わりますので御願いします!」


 庶務担当上長のゴードン君から強く強く言われている。

 そして休まなければならない理由も存在している。


『今度の春休みはブローダス子爵家で過ごした後、3月25日からローラと一緒にお兄様の屋敷にお世話になるつもりです。

 新作のお菓子を楽しみにしています』


 そんな手紙が来てしまっているからだ。

 菓子の請求でわかるとおり、パトリシアから。

 実家では無く僕の家でいいのか、疑問が残りまくる。

 既に冬休みをこの人員で過ごしてしまったけれども。

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