第2章 次は何故かケーブルカー
第5話 成功したが故の苦情
第12鉱区のトロッコ路線が開業して2週間が経過した。
今のところ全てが順調だ。
何せ1時間以上採掘した分の土砂と鉱石をゴーレム1頭で一度に持ち運べる。
かかった経費も3ヶ月程度で取り戻せそうだ。
よしよし、これで鉄道の有用性を示す事が出来た。
僕はそう思ったのだがそれだけでは済まなかった。
朝の定例幹部会議で、ゴーレム操縦者の管理をしているダルトン採掘管理部長からこんな話が出てきてしまったのだ。
「第12鉱区以外の採掘担当者から苦情が出ております。第12鉱区担当ばかり休憩が多くて不公平だと」
トロッコが整備された第12鉱区では、
① 鉱石や土砂を現場で積んだ後、
② 相棒のゴーレム操縦者に連絡して、
③ 途中の行き違い場所で交代して選鉱場まで行き、
④ 土砂と鉱石を降ろした後、連絡が来るまで休憩
という流れで採掘をしている。
交代から交代までおよそ1時間。
鉱区までの往復と積みおろしにかかる
しかし坑口近くの鉱区は
① 鉱石や土砂でゴーレムが満タンになった後、
② 現場で相棒のゴーレム操縦者と交代して、
③ 選鉱場で鉱石と土砂を降ろしたらそのまま現場に戻ると、
④ 相棒のゴーレムが土砂と鉱石で満タンになっているので即交代
という流れになっている。
つまり休憩時間分、第12鉱区が圧倒的に楽だというのだ。
「しかし第12鉱区の作業効率は他の鉱区と同等以上ですけれども」
「それならあの新しい鉄の道、線路と言いましたでしょうか、あれを使う道具を自分の鉱区にも採用して欲しいとの事です」
なるほど。
言いたい事はわかる。
何せ各鉱区は離れていても採掘するのは人ではなくゴーレム。
そして操縦者は同じ部屋でゴーレムを操っている。
他の鉱区の操縦者の状況も当然丸見え。
苦情を言いたくなる気持ちも良くわかる。
「しかし全ての鉱区に届くよう分岐を作るのも大変だろう。作っても複雑で運用が大変だ」
「それだけではありません。あの方法は第3や第9のように坑道の傾斜が急な場所には適さないのです。傾斜が急ですとゴーレムで引っ張るのも難しくなりますから」
それらの意見の通りだ。
しかしこのまま放っておく訳にもいかない。
士気の低下に繋がってしまう。
「とりあえず第3、第9、あと第6と第11は傾斜が急なので別の方法を考えましょう。他の鉱区については1時間に
おっとカール、いい事を言った。
確かにこの時間はこのルート、この時間はこのルートというように規則を決めておけばある程度は対処も可能だろう。
何なら
ただ第3、第6、第9、第11鉱区へ続く道は急傾斜だ。
これはゴーレムが引っ張って牽引するには向かない。
こういった急傾斜で使えるのは……アレだな。
専任が今までより余計に必要になるかもしれない。
しかし効率化と士気向上の為には仕方ないだろう。
「わかった。第3、第6、第9、第11鉱区以外は分岐をつけて線路を敷く事としよう。運用はカールが提案したように時間交代制で。
第3、第6、第9、第11鉱区については別の方法を考える。ただゴーレムを扱える専任が余計に必要になるかもしれない。その事は採掘管理部長からあらかじめ各ゴーレム操縦者に連絡しておいてくれ」
「わかりました。何か具体的な方法があるのでしょうか」
「ああ。定例決裁等の業務が終わった後、午後にでも技師長と詰める事としよう」
僕が思いついたのはトロッコと同様鉄路で動く運送機関。
ケーブルカーだ。
これなら牽引力次第でかなりの急傾斜でも対処出来る。
それでいてやはり効率は悪くない。
ただケーブルの巻き上げに動力が必要だ。
ゴーレムの出力で大丈夫だろうか。
他に何か動力源を考える必要があるだろうか。
その辺はカールと相談する必要がある。
◇◇◇
そんな訳で午後一番に工房へ。
「待っていたぞリチャード。どんな案だ。早く教えろ」
「その前に他の鉱区への敷設案は出来たのか」
「既知の技術に興味はない。だが仕事だから一応案は作った。
今、そこでサクスが試作品を作っている。試験結果が出たら量産して敷設に取りかかる予定だ」
うんうん、文句を言うけれど仕事は早いし正しい。
相変わらず有能だ。
なら次の課題をお願いするとしよう。
「実はこういうものを考えている。ケーブルカーと仮に呼ぼうか。今までの線路や鉄道と少し違い、線路の中央にこんな装置を入れておく」
僕が説明したのは勿論ケーブルカーだ。
単線で中間地点で行き違うタイプの。
これなら路線は各鉱区専用となる代わり、ポイントも行き違い施設も簡単にできる。
「なるほど、上から引っ張るのか。そうすればちょうど中間で行き違いも出来ると。片側の車輪が両方縁あり、もう片側が縁なしで広めというのも注目点だな」
その通りだ。
しかし実はこの案、懸案事項がひとつある。
「ただこの巻き上げる動力、ゴーレムで出来るだろうか。最低でも1時間に採掘出来る量は載せたいから」
「待て、計算する」
こういった実務的な事はカールに任せた方が速い。
筆算で面倒な計算をあっさりこなし、奴は頷く。
「問題無い。専用のゴーレムを作れば出来る。ただこんなゴーレム一般では売っていないから此処でフルスクラッチだ。その分の資材は頼む。
それにこれなら新たに人を雇う必要も無い。現有人員でどうにでもなる」
「どういう事だ?」
わからなかったので聞いてみる。
「これでどのゴーレム操縦者も2時間に
なるほど。
「なら必要な資材を計算して、あとで経理部経由で資材部に出しておいてくれ。根回しはしておく」
「ああ、任せろ。納得出来るものを作ってやる」
「あとケーブルカー以外の普通の線路も頼む」
「大丈夫だ。係員全員を徹夜させても作らせる」
何処からか悲鳴が聞こえたような気がする。
きっと多分気のせいだ。
そもそも此処の工房は選りすぐりの工作好き、細工好きが揃っている。
そういう人材をスカウトして配置したのだ。
だから聞こえたとしても嬉しい悲鳴だろう。
だから僕は工房を振り返らずに出て、後ろ手で扉を閉める。
さて、それでは根回しにいくとしよう。
とりあえず経理部と資材管理部だな。
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