⑳【LAST MISSION】
「めちゃくちゃ暑いっスね!」
「これでもカドミが頑張っているんやで」
「え? そうなんで……スか……」
振り返ったレオンがみたものは、まさしく滝の様な汗を流しながら“
「多分本人は余裕ないハズだから声かけるなよ、マジで。今あいつが魔法失敗したら、ここにいる全員カリカリベーコンだからな」
カドミは極炎の柱の周りに、円筒状に真空の壁を張り巡らせている。十数メートルの厚さの真空の壁。それでもサウナにいるような熱さを感じる位だ。
「魔法瓶ってやつだよ。多分あの中は彩層位の温度はありそうだな。一万度ってとこか」
「それは……軽く死ねますね。カリカリベーコンどころじゃないっスよ!」
「このまま焼き殺すって事ですか~?」
「まあ、それが出来れば手間ないんだけどさ。ルキフェル、目を凝らしてよく見て見るんだ」
「なるほど……動いてますね~。あの中で生きているとかおかしいでしょ~」
極炎の中でGデーモンは焼かれ、甲殻は剥がれ落ちる様にボロボロと崩れ始めた。しかし、剥がれると同時に強化再生され、それすらも焼け落ちるとさらにまた強化再生を繰り返す。灼熱の赤朱色と化してゆくGデーモンの甲殻。
最上位精霊であるイフリートを宿したサベッジ・ペガサスですら、本体装甲が赤くなっているのが見える。これも真空で囲った効果なのだろう。
〔ペガ……ゆるさねえ!ゆるさねえ!ゆるさねえ!〕
「はいはい。動けない中、一方的に殺される気分はどうっすか? G先輩?」
「ほんま、どっちが悪党なのかわからんセリフやな」
「他にも何かあったのでしょうか?」
「やっぱり女絡みっスかね?」
「いいんだよ、俺はアイツに何度も刺されて殺されたんだ……めちゃくちゃ煽って馬鹿にして後悔させてから殺してやる!」
涼子への未練なのか、それとも俺への恨みからか。原因は何であれG先輩の意識が覚醒したのが俺達の勝因だ。意識が戻ってなければ俺の煽りに付き合う事もなかっただろう。
何を言おうと迷わず向かってくる、言葉が通じない、ブラフが効かないままの方が格段に脅威だった。
「これでさよならです。もう、ストーカーはやめて下さいね!」
〔クソが……てめぇ、次は殺してやるよ。切り刻んでやる!〕
「次があると思ってんのか、このアホが。てめぇなんざ無限地獄に落ちやがれ」
……売り言葉に買い言葉。なんか皆が引いているのを何となく感じる。
「あ、そうそう。涼子は“心も体も”俺のなんで。残念っすね。このゴキブリ野郎!」
「……お兄さま、最後の最後にえげつないですわ」
「心も体も!!」
「キョウジそろそろやめとけ~。みんな引いとるで……」
♢
共進化細胞はひたすら生命維持の為だけに強化をくりかえし、やがて一万度の極炎の中でも耐えられるだけの甲殻を形成していた。しかし、その生命維持と引き換えに得た甲殻は“何かの卵”とでも言うべき黒い塊となってしまい、すでに見る事もしゃべる事も出来なくなっていた……。
絶炎に焼かれた影響はサベッジ・ペガサスにも出ていた。本体装甲がボロボロと崩れ始めている。それでもその程度で済んでいるのは、炎の最上位精霊、イフリートが宿っているからだろう。
このまま放置しておいても動く事は出来ず、やがて死に至る。だが、本体が死んでも意思が宿っている細胞が一つでも残っていたら? それは勝手に再生を始め“生きる塊”になってしまう可能性が高い。そしてもしそれが何らかの原因で甲殻の外に出るような事になったら、どんな災害を引き起こすか想像が出来ない。
――だから、どんな手段を用いても、この場で死滅させる必要があった。
燃え続けた絶炎は上昇気流を生み、やがて雨雲を発生させる。
しばらくすると、ポツポツと大粒の雨が降り始めた。
「ルキフェル、ディーン頼む。こっちは一旦距離を取る」
さすがに次の一手は、イフリートを宿したゴーレムでもかなりのダメージを負ってしまうだろう。いや、むしろイフリートだからこそ危険だともいえる。一旦、
「了解ですぅ~」
「任せてくださいっす!
彼等は二人がかりで“
「風呂って言うよりスチームサウナやな」
すでに筒の中は水蒸気で一面真っ白、視認するのは不可能だった。
「こんな時に不謹慎ですが……綺麗ですわね」
パティに限らず、皆がそう思っていたと思う。天空に伸びる真っ白い円柱。それは太陽の光に照らされ、乱反射する水蒸気が虹色に輝いていた。
そんな虹の柱の中から『ピシッ』『バキッ』といった音が聞こえてくる。一万度の絶炎に耐えた甲殻が割れる音だ。
次回! 第六章【be Still Alive】 -生きるための未来- ㉑Scream
是非ご覧ください。
※真空の壁に遮られた相手と会話できるの?という疑問をお持ちの読者様もいるとは思いますが、演出上のやりとりと割り切っていただけたら幸いです(/ω\)
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