⑰【切り札は、ニ枚ある!】
Gデーモンは左腕のスタンガンが封じられている事に気が付く様子はなく、必死でユナイト・ジョーカーに電撃を喰らわせようとしていた。少なくともその場における戦闘自体は有利に運び、このまま作戦通りに行けば倒すのも時間の問題だと思われたのだが。
しかしここにきて、Gデーモンの挙動が少し変わってきた。相変わらず俺を睨みつけてくるのは変わらないけど……
〔キョウ…ジィ……ペガ。てめぇ……リョーコを返せ〕
「返せって、アンタのものじゃ無いんだからさ。G先輩」
〔てめぇ、ペガ……なめた口きいてんじゃねぇぞ!〕
「アンタがいつまでもトロトロしてたからじゃないですか。まあ、アンタは臭いし嫌われていたから、告っても1000%爆死だけどな!」
わざとらしい笑いを混ぜながら、俺しか知らない情報をあえて混ぜてみた。奴の反応を見たかったからだ。
「ちょ……デーモン煽ってどうするんスか!?」
「まさかですわね……」
「会話ゆうか、痴話喧嘩やな」
「流石よね~、デーモンと女を取り合ったとかさ」
「セイラ、誤解されるような言い方するなよ。……いや、しないでください」
慌ててセイラの言葉を遮る。ったく、お前は事の顛末全部知ってんじゃねぇか。
「あ……でも、お兄さまの名前呼ぶという事は」
「あのデーモン、転生前の記憶が戻ったって事っスか?」
「それを確かめるために煽ってみたんだ。急に活舌が良くなったからもしやと思ってな」
いや、だからジト目で見ないでくれって。
「ホントだってば……」
それにしても、気が付いたら十メートルもの巨体になっていて、加えて眼下に知り合いがいるとか……どんな感覚なのだろうか? まあ、体験したいとは思わないけど。
〔てめぇはいつでもそうやってスカしやがって。入社した時は超陰キャだったくせによう〕
「キョウちゃん、陰キャだったの?」
「……記憶にございません」
あの野郎、記憶戻った途端“暴露話”かよ。なんか変な汗がでるわ。確かに軽くコミュ障な所はあったけどさ。なんかムカつくな。
「それにしてもG先輩、相変わらず足みじかいっすね~。こっちの世界でも女に縁がないんじゃないですか?」
〔てめ……ぶっ殺す!〕
「……デーモン煽る人、初めて見ましたよ~」
「歴史に名を残すかもしれないっすね」
なんか、ルキフェルとディーンが妙に後ろに下がっているじゃないか。まあ、巨大なデーモンと口喧嘩している奴がいたら俺でも距離とるな……うん。
「……さ、さあ、一気に押し切るぞ!」
「あ、また誤魔化したっス」
――ユナイト・ジョーカーはスタンガンの端子である二本の爪を両手で掴むとそのまま左右に“引き裂いた”。肘から先が真っ二つに割れ、真っ黒の血が飛び散る。記憶と共に人としての感覚が戻ったという事なのだろうか、痛みに唸り声をあげるGデーモン。
今までならかまわずにその破壊された腕で攻撃をしてきただろう。しかし今は左腕を庇いながら右手の鉈で攻撃を仕掛けてきている。これは明らかに“生物”としての本能であり、あの巨大なGデーモンに人間の意思と感覚が備わった事を示唆していた。
その左腕はというと、やはり共進化によって再生され始めている。そしてここに共進化攻略の糸口があった。
Gデーモンはユナイト・ジョーカーの頭を狙い鉈を振り下ろす。攻撃を誘発させるために右側に回り込み、更に、わざと動きを遅くして狙いやすくしていた。普通ならこんな見え見えの手に乗ることはまずないだろう。これは散々煽ってイラつかせておいたのが丁度良い布石になった様だ。
「あら、その行動は読んでおりましてよ!」
かなりの攻撃力があると推察していたのだろう、パトリシアは二枚の盾を重ね鉈を受け止める。共進化の末、恐ろしいまでの破壊力を得た鉈は一枚目の盾を事もなく砕き割り、二枚目の盾に刃が食い込んだ。
「セイラ、あれだ」
「言われずとも!」
頭上で砕け散ったパトリシアの堅土の盾。ユナイト・ジョーカーは細長い破片の一つを掴むと、Gデーモンの懐に飛び込み、再生し始めている左腕の爪と爪の間に押し込んだ!
左腕は“G先輩の意思”とは関係なく、破片を飲み込んだまま左腕が再生されていく。堅土は物体として具現化されている為、Gデーモンの細胞と融合する事がなく、はみ出たまま腕の中に取り込まれ、不格好な再生となった。
〔くそっ、何やしやがった! ペガ〕
「え~、言う訳ないじゃん。ま、言っても理解できる脳味噌ないっすよね~」
「お兄さま、煽り過ぎですわ……」
Gデーモンが取り込めるのは“生物だけ”だ。“意思とは無関係に吸収をする”つまり、そこに吸収できるものがあれば何でも飲み込んでしまうという事。
――ここが弱点だった。
「多分もう、左腕はまともに機能しないだろうな」
奴が立っている地面や石畳は吸収されていない。それは、少なくとも土や石は吸収出来ないという事だ。
「なるほど、こんな意外な弱点があったんですね~!」
「だが弱点はまだまだあるんだ!」
「マジっすか~」
ルキフェルとディーンが感心したように言う。そろそろ君らの出番だ、こき使うから覚悟しとけ。なんて口が裂けても言えないけど。
「そろそろ、動きが鈍くなる頃なんだが……」
「仕込みはバッチリよ!」
何度も何度も、執拗に関節部分に炎のナイフを撃ち込んでいた効果がそろそろ出る頃だ。関節を狙った理由の一つは少しでも動きを鈍らせる事。そしてもう一つは共進化の利用。ダメージを受けると、細胞が勝手に再生・強化する。それを繰り返したらどうなるか?
そう、動くために軟質であった関節部分がどんどん固くなり、やがて外骨格と同じ硬さにまで“勝手に進化”してしまうんだ。
次回! 第六章【be Still Alive】 -生きるための未来- ⑱Expession!!
是非ご覧ください。
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