⑩【door in the face】

「ええ? お兄さま、なんて約束を!」

「ま、まあ、大丈夫でしょ……きっと」

 

 なんか申し訳なくなって、受諾しなきゃならないような感じになっていたけど。冷静になってみればそんな約束する必要はなかったんだよな……。


「キョウちゃん、試合用にナイフ追加購入したいんだけど、十万G頂戴」

「なにいきなり……って無理だろ。いきなり十万Gって……」

「じゃ、中古品にするから二万Gでいいよ」

「しゃーねぇな。何で今言うんだ……」

 ったく、そういう資金はイギリス政府から出るんじゃないのかよ。


「……」

「ほら、受け取れって……どうした?」

「まだわからない? それなのよ」

「……なんだそりゃ?」


「“door in the face”っていう話術のテクニックよ。最初に承諾できない大きい頼みをしてわざと断らせる。その直後、小さい頼みをする」

「ふむ……」

「そうすると、最初に断っている罪悪感もあって、なし崩し的に“本命である”小さい頼みを受諾してしまうんだ。キョウちゃん、完全に相手の術中にハメられたわね」

「……マジかよ」

「それにこちらが勝った時の条件すら決めてないでしょ?」


「って事は……最初から狙いはセイラだったって事か……」

「どうかな? もしパティが行っていれば、また違ったんじゃない?」


 ……マジか、女なら何でもいいってか。あのエロじじいぃ~。


「ぜってぇ負けねぇ……容赦なくぶっ潰してやる!」





 試合開始五分前。両チームともフィールドに入り、準備を始める。俺達の作戦は当初の通り、歩兵を押さえ込んで一気にゴーレムを潰しにいく。相手方の布陣を見ると、鎧を付けているのが二人と、その後に四人。誰が誰だか名前は憶えてないけど、爺さん達全員、某刑事ドラマの役名つけていたな。


 なんかもう、無駄に観客席が盛り上がっているんだけど、聞こえる声援はセイラとパティばかり。……ふん、寂しくなんかないやい! 


 MCが試合前のマイクパフォーマンスを始めた。

〔美女と美少女の最強コンビ! 今日も華麗な体術を見せるのか! チーム、ディバイ~~ン・ベイ~~~~~ルッ!!〕

〔そして操るは、サベッジィ~・ペガ~サ~ス!〕


 なんだよあのMC。コンビにしてんじゃねえよ。ったく……とはいえものすごい声援だ。これだけの応援が後押ししてくれるのはかなりの力になるな。


〔対するは~、今が全盛期のベテラン戦士! チーム、オ~~ルド・バァ~~~~~~~~~!!〕

〔操るのは、ジキ~~ル&ハイ~~ド!!〕


「変わったゴーレム名やな」

「ジキルとハイドって、二重人格のゴーレムだったりして?」

 あれ? あのチーム、一回戦のときどんなゴーレム呼び出してたっけ? 印象が薄くて……う~ん、ま、いっか。それよりも……


「おい、じじぃども!」

「なんじゃ、こわっぱ」

「さっきはよくも騙してくれたな」

「はて? 誰か騙したかいのう?」

「それに、俺達が勝った時の交換条件決めてねえだろ!」

「お、おう、そうじゃったそうじゃった。で、どうするね? ワシが婿にでもいこうかのう?」

「アホか、いらねえよ」


 もう絶対にじじぃどものペースには乗らねえ。ガタガタ言う前に速攻で潰して終りだ。


「おいラッキョ、条件とはなんじゃ?」

「ああ、あの時は長さんいなかったのう。勝ったらほれ、そこの美尻の姉ちゃんをワシがもらうんじゃよ」

「なんじゃと? ラッキョだけズルいじゃろ。ワシも隣の娘欲しいぞ」


「ふざけんな。だれがやるか! それに何でじじぃにやるんだよ。孫じゃねえのかよ」


「あ? ワシの名前は孫兵衛ゆうてな。だから孫にやるんじゃ」


 うわ、なんかムカつく。つかそもそも顔と名前が一致してないから本名言われても意味がねえよ。くっそ、このじじぃ……どうしてくれようか。間違ってゴーレムで踏みつぶすか。不可抗力ならいいよね、いいとしよう。



〔さあ、盛り上がってまいりました! 本試合前の舌戦、これはチームOLD BARに軍配か?〕


 いらんMC入れるなって! ……こっちは盛り上がってねえよ。イライラするなあ。


「お兄さま、集中!」

 わかってます。わかってますよ。速攻で殴る速攻で殴る速攻で殴る……


 開始十秒前。速攻で仕掛ける為、早めに召喚を始める。この際多少の魔力ロスは目をつむろう。地面に魔法陣を焼き付け、炎の精霊を呼び出す。魔法陣の周りに竜巻状の炎が立ち上がり、中から赤とパールホワイトで彩色されたゴーレムが出現した。

 今回は腰にひと振りの剣を佩いている。攻撃時のリーチ補強の為に、新しく追加デザインしたものだ。

「ぶっ潰してやる……」


〔5〕

「兄ちゃん、まだまだ若いのう」


〔4〕

 相手陣地に魔法陣の光が発生する。しかしその光は……

「え? ……何で魔法陣が二つ?」


〔3〕

「行くぞよ、ラッキョ!」

「おうよ、長さん!」


〔2〕

「魔装じゃよ!」

「魔装じゃのう」


〔1〕

 敵陣の二つの魔法陣からそれぞれゴーレムが出現する。真っ黒のゴーレムと真っ白のゴーレム。黒は両手持ちの大剣を持ち、白はショートソードと大きめのラウンドシールド。明らかに役割を分けた二体だ。




〔――BATTLE START!!!〕




次回! 第三章【Existence Vessel】-魂の器- ⑪flying dish

是非ご覧ください!

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