⑲【オーバーコート】
「Expession《魔装》!!」
渦巻く炎を纏いながら出現したゴーレム。召喚と同時に前に飛び出ると、突進してくるGデーモンを正面から受け止めた。
「ギ……リギリだったな」
魔法陣の構築と召喚まで一瞬で出来たのは、我ながら奇跡に近いと思う。それでも、Gデーモンを抑える事が出来たのは、俺達から僅か五十メートル程の位置だった。
黒鉄色のフレームに漆黒の装甲、胸や手足にファイアパターンの模様が映える。燃えるような灼火色の目。全体のフォルムは間違いなくサベッジ・ペガサスであったが、装甲の端々が禍々しく尖っていて、全身凶器といった様相であった。
「なんやそのゴーレムは?」
「これ……だよ」
「お兄さま、それって……」
そう、俺が保持していて魔力を込められるもの。……それは常に左手にあった。
「黒武器に炎精霊ぶち込んでみたんだけどさ。上手くいったようだ」
「いや、上手くいったとかって話じゃないっスよ!!」
通常ゴーレムの召喚に必要なのは、魔法陣と魔導錬書、そして大量の魔力。精霊が宿った魔導錬書は変質し、そのままゴーレムとなる。つまり、左手に融合している黒武器に精霊を宿したという事は……
「キョウちゃん、あんた何やってんのよ……。左腕一本持っていかれてるじゃない!」
「タイミング外す訳に行かないからな……大丈夫、血はそんなに出てねぇ」
腕自体が千切れたという事ではない。それでも、腕と融合していた黒武器を神経ごと無理矢理引き抜いたようなものだ。……正直、死んだ時より痛い。
「ほんまアホやな」
「うむ、昔からアホじゃったのう」
こういう軽い悪態も、俺の気を紛らわせようとしてくれている皆の愛情なんだと、つくずく思うようになった。
「昔からだったんスか……」
「二度死んでも治らなかったみたいですわね!」
「でも、自己責任ってやつですよねぇ~」
「それにこのチームって、いつもこんな事やってるイメージっすよ!」
「でもそれがキョウジさんの……」
「お前らもうちょっと優しい言葉かけろよ……」
……愛はどこにいったんだよ!?
俺の足元からサベッジ・ペガサスに向けて、小さく色鮮やかな石が散らばっている。涼子とお揃いで買ったラップブレスレットが、無残に切れて飛び散ったんだ。左腕……彼女が守ってくれたんだな、きっと。
俺を殺せると思って意気揚々と走り出したはいいが、思わぬ伏兵に足を止められたG先輩は相当イラついている様子で怒鳴り始めた。
〔殺す……殺してやる……〕
「馬鹿の一つ覚えってやつですか? 聞き飽きましたよ、それ」
〔てめぇふざけるな。こいつをどかせ!〕
「どく訳ないじゃん。あんた臭いからこれ以上近寄らないでくれます?」
と、煽ってはいるが、正直動きを押さえるだけで精一杯だ。こいつのパワーはかなりヤバイ。少しずつだが、ズルズルと押されている。あとどのくらい止めておけるか……。
「仕方ない……このまま最終作戦に移ろう」
作戦開始を合図に、セイとイラは左右に分かれて走りだし……いや飛んで行った。どこからか持ち出してきたのかわからないが、大量の火薬をGデーモンの足元に撒き始める。身長十メートルもの巨体の足元を、身長一メートルほどの
セイとイラが離脱すると同時に、セイラはGデーモンの足元に炎の呪文“
〔はぁ? こんな程度で俺を殺せると思っているのか?〕
「なんだ? 自分が死なないとでも思ってんのか?」
〔死なねぇよ。この体は無敵だ。いくらでも再生するし、力がどんどん湧いてきやがる。ペガ、てめぇにイイカッコさせねぇよ。〕
「下らねえな。だったらその無様な左手を治してみろよ!」
確かに共進化細胞で回復してしまう身体は無敵に“近い”と言える。だけどそれは自分の意思で進化出来ればという条件付きだ。多分、G先輩はそれがわかっていない。
――だから、俺達がそれを解らせてやるよ。
「さあ、地獄の苦しみの時間だ!」
「セリフが悪役っすね!」
「というか……なんてもん召喚しているんですか、キョウジさん~」
ディーンやルキフェルが慌てるのも無理はない。レオンやパティ、セイラですらこの上なく真剣な表情になっていた。
俺は、サベッジ・ペガサスを召喚した魔法陣をそのまま使い、更に精霊を呼び出していた。一つの魔法陣で複数を呼び出すなんて、普通なら精霊同士が干渉しあってどちらもコントロールを離れて帰還してしまう。だが、今呼び出したのは“炎の最上位精霊・イフリート”だ。これなら先に呼び出した下位精霊を完全に支配下における。
そもそもイフリートの様な最上位精霊なんて、転生者の魔力程度では呼び出す事すら出来ない。仮に呼び出せたとしてもすぐに魔力が切れてコントロールを失い、自身が炎に飲み込まれてしまうだろう。しかし今は“地脈の交差”と“タクマの無限魔力放出”のニつが揃っていて、魔力が枯渇する心配は皆無だ。この条件なら呼び出して使役出来る。ただ、逆に言えばこれだけ御膳立てがないと呼び出す事が出来ない程の精霊だ。
――そしてこいつを、炎のサベッジ・ペガサスにオーバーコートさせる! 炎に炎を上乗せしたらどれだけの威力になるかわからない。……失敗すれば、この場にいる全員が瞬間的に蒸発してしまう可能性があるが、この一手でないと共進化細胞を死滅させる事は出来ないだろう。
セイラの放った“
俺の手の中に入っていた黒武器が“風属性”だったのも影響しているのだろう。渦を巻き、螺旋になった極炎が天高くまで吹き上がっている様だった。
次回! 第六章【be Still Alive】 -生きるための未来- ⑳LAST MISSIO
是非ご覧ください。
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