⑯【純水】
「洗う言うても……風呂にでも入れるんか?」
「お、それいいな。まあ、とりあえずは
「切り落とすとかじゃ駄目なんスか?」
「最初はそのつもりだったんだけどさ」
右腕を切り落とした後、取り込んだデーモン達の細胞が共進化して強化された腕になった。これを踏まえて最悪のケースを想定すると……
「もしかしたら今度は、切り落とした腕が自我を持って動いてくるかもしれないぞ」
それが一番怖い部分だ。右腕は腐ったトマトの様に潰れただけだったが、甲殻で強化されている左腕は潰れる事も無く、その中で独自に共進化を重ねて別の生物になってしまう可能性がある。
「まあ、現状で切り落とせるかどうかも怪しいけどな」
「マジっスか。あの手だけが動いてくるとか悪趣味すぎっスね」
「だから切り落とすのは厳禁だ。左腕を破壊し、再生する前に本体を叩く」
「ルキフェル、ディーン、君らの力も借りるぞ。それからカドミ、お前もちょっと手を貸せ!」
やることがなくて手持ち無沙汰だったのだろう、プリプリの二人は目を輝かせて即答してきた。
「任せてください~」
「いつでもいけるっすよ!」
「やれやれ、人使いが荒いのう。それで、何をやらせる気じゃ?」
「ああ、君ら三人には風呂の釜炊きをやってもらう!!」
指示は聞いたが理解がおいつかなかったのだろう、プリプリの二人は死んだ魚の目の様になって……
「は?」
「い?」
「……ワシ、柚子湯がええなぁ」
「流石キョウジ兄さんの旧友っス。ボケにボケを重ねるとか上級テクニックっスよ!」
ボケのテクニックとかレオンの口から出るとか、またタクマがいらん知識ぶち込んだな。
「まずはレオン、
「了解っス!」
「パティ、右腕の剣にだけ集中してくれ。
「わかりましたわ。丸投げですね」
ニコっと笑いながらセイラじみた皮肉を混ぜて来た……。身も蓋もねぇな。
――炎のナイフでつけた傷は十数秒で完治し、Gデーモンはまた動き始めた。徐々にではあるが体が慣れて来たのだろう、動くスピードが増してきている。重量のある『ドスンッ』という足音が、石床を叩き割る『バキッ』という音と混ざって聞こえてくる。
「セイラ、しつこく関節狙ってくれ!」
「OK、刺さらなくなるまでだね」
ナイフを投げると同時に、ユナイト・ジョーカー本体はGデーモンに直接攻撃を仕掛けた。これは意図的にスタンガンの間合いに入ることで、攻撃を誘発させる狙いだ。その誘導に乗ってきたのだろうか、Gデーモンの左腕から『バチバチッ……』と乾いた雷の音が響く。それは真昼の太陽の下でも、二本の電極の間に発生する光が見える程のものだった。
「レオン!」
「了解っス!」
レオンは水精霊に命令を下し、ユナイト・ジョーカーが全身に纏っていた水精霊を両手に集中させる。丁度“あんかけ”みたいなトロトロ感のある純水が、両手から肘にかけて集まり、水の鎧を形成した。
左腕を振り下ろすGデーモン。だがこれは、明らかに知能が働いていないと思われた。スタンガンとしての能力を使うのなら“先端”を相手に接触させる様に使うべきで、それ自体で無造作に殴るという使い方は普通しない。
とは言え、それはこちらからしてみればラッキーな事だ。振り下ろすだけの、あまりに読みやすい攻撃の軌道ゆえ、労せずに左腕を受け止める事が出来た。
「え……電気に水って、大丈夫なんすか?」
「ディーン、純水は電気を“通さない”んだぜ!」
「???」
ディーン達が疑問に思うのも仕方がない。通常、水に電気は最も危険なものとして考えられているが、その実、電気は“水に含まれる不純物”に対して通電するもの。つまり……
「水精霊が生み出す“一切の不純物を含まない純水”を纏っている以上、ヤツの電気は絶対に通らない。最も効果的で最も柔軟な絶縁体なんだ!」
「そうだったんスか。キョウジ兄さん凄いっス!」
「え? レオン……あなた、わからずにやっていたのですの?」
「そうっス!!」
「そんな自信たっぷりに返事するなって。パティが呆れているぞ」
「大丈夫ッス! 信じているので」
ありがたいが、少しは疑問を持ってくれ……
「ふむ……なるほど。キョウジ、そんな話よく覚えておったのう」
「ちょ、カドミ、それ今……」
「え、まさか……お兄さまの作戦ではなかったのです?」
「今のは、大学の頃ワシが酒飲みながら話した事なんじゃよ!」
……い、いや、それを応用するところが俺のいい所。ってシルベスタ、今回はフォローないんかい!
「え~、キョウジ兄さんの知識じゃなかったんスね……」
「さすがに引くわ~。有象!」
「これわないわ~。無像!」
ああ、皆の
次回! 第六章【be Still Alive】 -生きるための未来- ⑰切り札は、2枚ある!
あの堅い甲殻を破壊するには……
是非ご覧ください。
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