⑮【Arms race】

 人型生物本来の骨格では十メートルもの巨体を保持出来ない。その為、Gデーモンは外と内、つまり外骨格と内骨格の両方を形成しはじめていた。それにより巨体を維持しつつ、行動可能な身体に作り替えようというのだろう。

 俺もセイラも、Gデーモンが“ある程度の学習能力”を持っていると想定していたが、そのスピードは予想を遥かに超えて来た。


 その、形成されたばかりの外骨格に……炎の戦鎌は完全に防がれてしまっていた。 


 本来魔力で作り上げた武器は物理的な厚みが無い。しかしそんな鋭利な刃でも、Gデーモンの外骨格には傷ひとつつける事が出来なかった。言葉通り『刃が立たない』状態である。

 これはGデーモンの外骨格が“十メートルの巨体を維持する物理的強度を持つ”と同時に、抗魔法レジスト・マジック効果を併せ持つという事に他ならない。



「これはむしろ進化に近いのかもしれないわね」


 セイラのこの一言がかなり的を得ているのだろう。それも、この場合はただの進化ではない……


「取り込まれたハーフデーモン達が共進化している可能性はないか?」

「ああ、あれやろ? 殺虫剤撒いて生き残ったGの子孫には効果なくなるってやつや」

「攻撃を仕掛ける度に強くなるって事っスか……」


「つまり、進化よりも早く殲滅しなきゃならないって事ですの?」


 パティの言う通りのだ。それがベストの対処方法で、最も理にかなっていて……しかし最大級に困難な方法だ。


Arms race進化的軍拡競争ってやつじゃ」

「訳わかんないっス……」



 かなり厄介な話になってきた。奴の中に取り込まれた数十、数百のハーフデーモンの細胞までまとめて死滅させなければならないという事だ。

 ……折角どさくさに紛れてシルベスタの件をカドミに丸投げしたのに、また頭使わんとならんのか。



〔ベ……ガ……コロ……〕



「うるせー!! ぶっ倒してやるから待ってろ!!」

「お兄さま、やる気スイッチでも入りまして?」

「スイッチっつーか……。なんか俺の人生、こいつに二回も邪魔されてるのかって思ったらイライラしてきたんだよ!」


 パティは、俺がGデーモンに向けて立てた中指を見て『それはどういう意味ですの?』と聞いてきた。うん、マズった。少女の前でやる行動じゃなかった。『バカにするな。って意味なんだ』と誤魔化しておいたけど、本来の意味は流石に教えられないよな。ってこらこら……

「女の子がやるものではありません!」

 パティまで中指立て始めたから慌てて止めました。反省。


 ……おいセイラ、お前もやめろ。



「対策はどうしまスか?」

「闘いながら考える。流石に言葉が通じない相手だとブラフ効かないしな……」

「そう考えると、アレってキョウちゃんの天敵よね~」

Gって……なんか嫌悪感MAXすぎんか?」



 ――ユナイト・ジョーカーは一旦下がり、敵の武器が届かない間合いで臨戦態勢をとる。無計画に攻撃しても、Gデーモンの進化を促してしまうだけになるかもしれないと考えた為だ。少なくとも、一旦今のまま進化させてから次のアクションを起こした方が、敵の状態を把握しやすい。 

 右腕、右足から発生した外骨格が胸部や下腹部まで広がり、やがてGデーモンの身体全体を覆っていく。人間みたいな素早い動きは出来ないが、それでも自重で脚や身体が砕け潰れる事は無くなっていた。


「セイラ、“アレ”できるか?」

 

 タイミングを見計らい、ユナイト・ジョーカーは再び攻撃に出る。Gデーモンの右側に回り込むと見せ急に方向転換、先ほどよりも素早い移動でかく乱を狙う。それにはユナイト・ジョーカーの本体であるレークヴェイムの風精霊が力を発揮していた。

 肩や裾の排気口から、風を出して方向転換の補助を行う。また、ホバークラフトの要領で本体を浮かす事で、一歩一歩の移動距離が伸び、結果素早い移動に繋がっている。


「こっちでは無理そうね、浮いているから……」

「ああ、そうか。俺の方で微調整する」

 ホバー移動している分、慣性が働いて制動が難しく、狙った位置に投げるのはセイラでも困難の様だ。


 Gデーモンは左腕のスタンガンで攻撃を仕掛けてきた。しかしユナイト・ジョーカーは余裕を持って躱すと、Gデーモンの頭を跳び箱にして、片手で一回転しながら後ろに回り込んでいた。

 ユナイト・ジョーカーが着地した時には、手の中に炎のナイフが左右に五本づつあった。振り向こうとするGデーモン。しかしユナイト・ジョーカーは容赦なく膝裏、股間、手首といった“外骨格に覆われていない関節部分”を狙い、ナイフを撃ち込んだ!


「こういうの、昔の日本にあったんだ。介者剣法って言うんだけどな」


「かいじゃけんぽう? ……って何スか?」

「鎧を着た敵との戦い方だ。覚えておくとどこかで役に立つかもしれないぞ」


 魔法を撃ち込む要領で、炎のナイフの軌道を修正してみたのだが、二~三本狙いを外してしまった。これは許してくれ。俺はセイラみたいな本職じゃないんだ……。


「本当ならイメージ的に苦無クナイにでもしたかったけど、セイラはナイフの方が慣れているだろうからな。気分的に投げやすいだろ?」

「あら優しいのね~。と見せかけつつ、まだ作戦が思いつかないから誤魔化しているんでしょ?」

「なんだ、バレバレかよ……。でもまあ、関節狙うのは次の一手を考える為の実験みたいなものなんだ」


 もしGデーモンの進化が“共進化”であるならば、この一手は後で効果が出てくるはずだ。


「あら、何か思いついたのです?」

「いや、出かかっているんだけど……って感じ。何となく見えてはいるんだ。ただ、決め手というか、頭の片隅に引っかかっているものが……」


「お前心底優柔不断だな。顔洗って出直せ、有象!」

「むしろ極熱の味噌汁で顔洗え。無象!」


 ミニセイラズの悪態も慣れてくると可愛いもんだ。というか、ホント顏洗いたいわ。さっきからもう炎出したり氷出したりでこの辺り不快指数が高すぎる……。 


「あ、そうか……」

 

「お、なんや。戦術思いついたんか?」

「とりあえずGデーモンをさ……」


 ……そうだよ、この手があったじゃないか。ミニセイラズ、お前らナイスだ!


「洗ってみるか!」



「……はい? お兄さま、いったい何事ですの??」




次回! 第六章【be Still Alive】 -生きるための未来- ⑯純水

電気はこうやって防ぐのじゃよ!

是非ご覧ください


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