㉘【孤独】


 地球への転移に関しては、目途がついていた。この世界と精霊界を繋ぐ“召喚術”を応用することで、僅かな時間ではあるがこちらから地球に転移する道を開く事が可能じゃ。もちろんこれは、枯渇することなく吹き出る魔力があって初めて可能になるのじゃが。その点についてはラッキーじゃったと言える。


 ただしそれには、人が通れるだけの大きさの道を開く為のゲートが必要であった。物質としての大きさの概念がない精霊は、自身の魔力が通れるだけのゲートがあれば問題なく通れる。しかし人間が通るとなると、それ相応の大きさを開く必要が出てくる。

 手元にある魔道具アーティファクトはひとつ。つまり転移は一回のみ、という事じゃ。



 多分、この計画は



 具体的な方策が出来上がってから三日後、キョウジが消え、続けてタクマが消えた。これはこの先実行したであろう計画が遂行された為、未来で大量殺人をするより前に二人の存在が消えた事になる。


 しかし、いつまでたってもワシが消える事がなかった……。それはつまり、計画が完遂されなかったという事に他ならない。



 ――よくよく考えてみれば当然の話だ。 


 未来で実行したから過去の存在が消えたが、そもそも過去の存在が消えたら未来で実行するものがいなくなる。


 ……卵が先か鶏が先かという話。


 “実行する前に結果が出てしまった”これが唯一にして最大の誤算だった。結局ワシはこの場所で、年を取りそして若返りを繰り返さねばならなくなった。孤独はやがて人肌を求めてしまう。この世界でワシは結婚し、息子が生まれた。嫁はイギリス系転生者でワシのloopに関して理解を示してくれていた。


 そして我が子が三歳になる頃“それ”は起きたんじゃ。ワシらが王家に譲渡したライターや小型ライトの噂が世界中に広まり、それを求めて各国が戦争を仕掛けてきたのだ。『たかがライターひとつで』と思うじゃろう。 

 だが、文化が発展していないこの世界では、ライターも小型ライトもどれだけの犠牲を払ってでも入手する価値がある物と判断した様じゃ。

 加えて、ワシらが伝える技術や文化がこの領地を中心に繁栄し、結果として“遠方の地になるほど生活が困窮している現状”に対する妬みもあったと思われる。



 ワシはその時、よわい百歳を迎えようとしていた。かといって意識は転生して来た時と変わらず、ボケたりと言った事はなかった。しかし、体力の衰えは著しく、特に視力や聴力の衰えは顕著。

 その為周りの状況が把握できず、危険を察知した時には……妻が子供を庇って絶命していた。その時ワシは、悲しさや悔しさを感じると同時に、妻の魂が解放された事に安堵していた。周りにどのくらいの敵がいるのかわからず、必至で我が子を庇い、うずくまっていた。この衰えた身体では僅かな魔力壁バリアを作るだけで精一杯じゃった。


 意識がハッキリしているのに動けず、死が間近に迫っている。これほどの恐怖はなかった……。

 我が子の命が奪われるのも時間の問題と思われたその時、王家兵士の一人が助けてくれた。 


 以前、この若い兵士が咳をしていた時、たまたまキョウジの持っていた“のど飴をあげた事に対する恩返し”だったと判ったのはそれから数か月後、退行する事によって視力が回復した頃じゃった。



 ワシはloopの呪いが思いの外足枷あしかせになる事を理解し、その若い兵士に息子を託して……数名のローカルズと共に地球に転移させた。 

 キョウジ達が消えてから四年。この世界に転生してから六年。地球では第二次世界大戦終戦直後くらいじゃろう。地球に転移しても、とてつもない苦労が待っているのは目に見えている。それでも先の見えないこの世界に留まっているよりはずっとましだとワシには思えた。


 そしてまた……孤独になる。


 国は完全に滅び、街は放棄され廃墟になっていく。それでも魔力が吹き出す地である事と、行くあてもなく彷徨うリスクを考え、この地の廃墟城に潜む事にした。



 ――その後、数年たってワシの所に“創造主”が姿を現す。


 必至で懐柔……いや、懇願といった方が良いかもしれない。女性と思われる“創造主”から色々と情報を聞き出すことが出来た。


 我が子は若い兵士とイギリスに渡り、無事生活を営んでいるという事。各地に散らばったローカルズ達はワシの指示通りに動いている事。


 そして……数十年後“無事に”ワシやキョウジ、タクマが産まれるという“最低の”結果が待っている事。


 しかしそれは想定内であった。転移したローカルズの一人に『もしワシらが産まれたら殺してくれ』と頼んでおいた。そしてもう一つ“創造主”に懇願した事がある。地球からとある人物を、転生ではなく転移させてほしい、と。


 流石にそれは目の前の“創造主”だけでは判断が出来ない事だったらしい。当然その場で却下された。しかしこれは予定通りだ。無理な要求をし、次にそれよりも小さい願いを要求するという交渉の基本。

 結果としてワシは、二つ目のゲートを開く魔道具アーティファクトを入手した。


 


 ……そしてワシは機会を待った。地球に転移した我が子の血を、濃く受け継ぐ子孫が誕生するのを。






次回! 第五章【Destiny of the Evil】 -悪の運命- ㉙D-EVIL


是非ご覧ください!

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