④【ーパトリシアー】
――なんてことを。そんな事したら師匠は一生魔力を吸い取られ続ける事になってしまいますわ!
盗み聞きをするつもりはありませんでしたの。ただ、お姉さまの怒鳴り声が聞こえてきた部屋から、そう、会議室と書いてありました。医療従事者の皆さんが打ち合わせとかする部屋ですね。
怒り心頭、怒髪天オーラをまとったセイラお姉さまが、ドアを破壊するかの勢いで叩き閉めて出て行った後、中から数人、興奮した話し声がかってに廊下まで聞こえてきたのです。
「お姉さま”また”誰かを怒らせたのですか……」
(とにかく、どんな手を使っても石を手に入れるんだ)
(どんな手を、と言っても……懸賞金ではまだ不十分という事ですか?)
(私はキョウジ殿と面識がありますので、今から探りを入れてきましょう)
(くれぐれも気取られないように)
(わかっていますよ、魔力からエネルギーを生み出せれば、世界のエネルギー事情は一変しますからね)
(更に砕いて売るという方法もありますが?)
(それはダメだ。ひとかけらでも半永久機関になりうる魔力を持った石だ。売ったらそれ以上の利益が出ないじゃないか)
(そうですよ。利益は我々双方の国のみで分け合いましょう)
魔力を持った石とは、何をどう考えても師匠の事でしょう。誘拐して、そのまま一生奴隷として馬車馬……馬車石の如く使うという話ですね!
「これは……まずいですわ」
それにしても、なんでしょうこの、いかにも『悪役です』といった会話は。昔、母様が話してくれた“えちごのちりめん問屋物語”に似ていますわね
「パトリシアさ~ん、ここにいたのでスか!」
「お、嬢ちゃん、顔が青いで! 腹でも壊したか?」
「お、嬢ちゃん、顔が青いで! 腹でも壊したか?」
「ああもう。レオン、タイミング最悪ですわ」
「……え? 何が最悪っスか?」
話している暇はありませんの。部屋の中の人達が出てきたらアウトですから。中の声が筒抜けということは、廊下の声も中に筒抜けという事ですわ!
「病院で大きい声出すのは良くありません! 反省なさいな」
呆気にとられたレオンから師匠を奪い取り、置き去りにしてしまいましたが……後で話せば良いでしょう。話す機会があれば、ですが。
「行きますわよ、はちべ……師匠!」
「嬢ちゃん今、八兵衛言いかけたやろ? なんで八兵衛やねん! ワイはもっと男前やで!」
「嬢ちゃん今、八兵衛言いかけたやろ? なんで八兵衛やねん! ワイはもっと男前やで!」
「師匠、とりあえずうるさいですわ!」
「あい……嬢ちゃんに怒られたわ~かなしいのう」
「あい……嬢ちゃんに怒られたわ~かなしいのう」
一度隠れて様子を見た方が良さそうですが……こういう時は、必殺! 女性トイレです。
「なんやな~。ワイ、女性トイレに入っててええんか?」
「なんやな~。ワイ、女性トイレに入っててええんか?」
「今だけです。次は通報しますので!」
「理不尽や~不条理や~石差別やないか~!」
「理不尽や~不条理や~石差別やないか~!」
……最近はスルーという技も覚えました。師匠のおかげです。
コッソリとお兄さまの病室をのぞき込むと、先ほどの声の人がいました。どうやらお兄さまと同じ国の人の様ですね。しつこい位に師匠の事を聞き出そうとして嫌な感じがします……。となりの空室で”邪魔な人”が出て行くのを待ちながら、風の精霊を使役して部屋の会話を聞いていました。今度は盗み聞き現行犯です!
「嬢ちゃん、男同士の会話聞いてておもしろいんか?」
「嬢ちゃん、男同士の会話聞いてておもしろいんか?」
「……」
「わかった! あれやろ、BLってヤツだ!」
「わかった! あれやろ、BLってヤツだ!」
「BLってなんですの? ベーコンとレタスですか?」
「おしい、嬢ちゃんおしい! ブロッコリーとラディッシュや!」
「おしい、嬢ちゃんおしい! ブロッコリーとラディッシュや!」
「……ラディッシュの頭文字はRですわ、師匠!」
お兄さまに師匠を渡そうと思ったのですが『本調子ではない』と言っていました。動けない二人が一緒にいたら、むしろ危険ですわね。
「師匠、お兄さまと師匠に危険が迫っております。とりあえずわたくしに話を合わせてくださいませ!」
「ああ、嬢ちゃんに任せるで!」
「ああ、嬢ちゃんに任せるで!」
♢
「お兄さま、入ってよろしいですか?」
「え? ああ……」
何か考え事していたみたいですね。
「お話は終わりましたの? 何か、難しい顔をしていますが?」
「すまん、話しかけにくかったよな。大丈夫だったか?」
――やはり、お兄さまも何か察していますわね。席を外して戻ってきただけなのに、普通なら「大丈夫か?」なんて聞きませんもの。
「師匠からお笑いの稽古をつけていただいていましたわ」
「おう! やはり弟子一号はスジがええで!」
「おう! やはり弟子一号はスジがええで!」
お兄さま、かなり疲れている様に見受けられます。仕方ないですわ。昨日から色々あり過ぎましたもの。
「キョウジ、お前今二匹とか思ったやろ!」
「キョウジ、お前今二匹とか思ったやろ!」
「え?なんでわかった?」
「……マジか、ホンマそう思うたんか! ワイは悲しいで~!」
「……マジか、ホンマそう思うたんか! ワイは悲しいで~!」
「え? もしかして俺、鎌かけられたのか?」
「お兄さまも、たまには騙されるのですね!」
……ごめんなさい、わたくしも今から騙します。
「お兄さま、お疲れでしょうからそろそろお休みになった方が」
「そうだな、タクマはその辺りに転がしておいてくれ」
――今はそれが最も危険なのですわ。
「いつも以上に扱いが酷いやないか!」
「いつも以上に扱いが酷いやないか!」
「そうか? こんなもんだぞ、いつも……」
師匠との会話に気がいっていて、わたくしの魔法詠唱に気が付いていなかったようですね。やはり体力も精神力もかなり落ちているのでしょう。普段ならこんな睡眠魔法なんて絶対に効かないのに……
「おやすみなさい……」
お兄さまと師匠は、私が命に代えても守ってみせます!
「師匠、すこし騒ぎを起こしますわ」
「おー! やったれや~」
「おー! やったれや~」
会議室とは反対方向に病院の廊下を駆け抜け、看護婦さんを見つけてぶつかります。もちろん怪我しないように加減してますわ!
「ちょっとあなた。病院で走るなんて非常識な」
「あら、ごめんあそばせ。石はわたくしが頂きましたの!」
「はい? え、何? 石?」
首をかしげる看護婦さんを横目に走り抜けます。保険でもう一人二人くらい同じことをしておいて……。わざとらしく芸のないセリフなのは許してくださいね、師匠。
これで明日には髪の長い女の子が石を盗んでいったという噂が広まりますわ。お兄様の手元にないとわかれば、ひとまず危険はないでしょう。
――あとは逃げるだけです。
「さあ、走りますわよ!」
「爆走やで~。峠攻めるで~。イニシャルRや!!」
「爆走やで~。峠攻めるで~。イニシャルRや!!」
「それ、ラディッシュですってば……」
次回! 第四章【true this Way】 -人の在り方- On your Side:味方 ⑤卑怯×卑怯
ホンマ、卑怯やで~。 どこの国が裏におるんや?(タクマ談) 是非ご覧ください!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます