③【ーエクエスー】


 しかしアレは焦りました……


 無詠唱で何人もの人を浮かせて移動させてしまうとか……キョウジさん、いつの間にあんなことが出来るようになったのでしょう。一回死んだから? 生き返ったら魔力が上がるのでしょうか? だとしても自分で試そうとは思いませんけど。


 パトリシアさんの件で相談しようと病室に行ったのですが……。とんでもないものを見せられて入るタイミングを失い、廊下でうろうろしているところをキョウジさんに見つかっていました。 



「とりあえず状況を詳しく教えてもらえますか?」

「誘拐。というか持ち去られたのは本当の様です」


 とりあえずそこに転がっている椅子を起こし、座らせていただきました。流石に脚を貫かれていますから立ちっぱなしは容赦いただきたい。


「パティ、だろうな。あの連中もハースト家と言っていたし」

「はい。タクマさんが『高値で取引される』という噂がありまして。出所はわかりませんが、その話が関係しているのかもしれません」

「高値、ねぇ」

「パトリシアさんが窃盗したって、レオンなんてもう、落ち込んでしまって……」


 今までになく落ち込んでいる弟。あんな姿は初めて見ました。気持ちはわかるけど……ベタ惚れなのは観ていてわかるし。本人だけですね、気が付かれていないと思っているのは。


「高値って噂は本当だろう。日本かイギリスか、もしくはその両方が報奨金を懸けているんじゃないかな」

「それで今、部屋を物色していたのですね」

「今の連中は賞金を出している側の奴らだよ。それにしても、タクマの利用価値か。確かにこの世界ではどの国でも欲しがるだろうな」

「タクマさんが? それはどういう……?」

「順を追って話すとして、エクエスさん、先に急ぎの頼みがある」


 キョウジさんからの改まっての頼み。どんな内容なのかと恐ろしくもありましたが、ちょっと意外な内容でした。


「レオンを呼んでもらいたいんだ」

「わかりました、しかし……今は役に立つかわかりませんよ?」

「大丈夫。エクエスさん、弟の事だからって見る目がキビシ過ぎると思うよ。彼はあなたが思うよりもずっと強い」


 参りました。産まれてからずっと一緒にいた私よりも、ほんの十数分戦っただけの相手の事をそこまで評価できるとは。



 キョウジさんは『エクエスさんには、ちょっと大変だけどやってもらいたい事があるんだ』と、アッサリ言っていましたが……難易度高いですよそれは。まあ、成功させますが。レオンはレオンで喜び勇んですっ飛んでいくし、キョウジさんの人心掌握術は大したものですね。

 セイラさんは『まだまだ伸び代だらけだ』と評価していましたが、末恐ろしいとはこの事でしょう。かく言う私も、出来る限りの協力はしようと思っています。

 しかし、脚が不自由でなければ何のこともないミッションですが、この怪我では難易度がかなり高いですね。まあ、心臓と肋骨が再生中のキョウジさんよりはマシと言ったところでしょう。


 病室を荒らした人達や現在の情勢を鑑みての判断という事ですが、どこまで見通しているのか不思議ですらあります。


「日本政府とイギリス政府は多分結託している。それもつい昨日の話だと思う」


 ……なんか恐ろしい事をサラッと言われました。


「貿易の街でタクマが膨大な魔力を放出していたんだ。多分その時に、日本の外交官もイギリスの諜報員も隠れて観ていたのだと思う。そしてイギリスは魔力による集積回路を作り出している。魔力を記録し、放出する技術だ。そして、手先の技術を更に発展させるのが上手い日本人。更には世界的な電力不足」


「つまり、タクマさんの魔力を元にして電気を起こそうと?」

「今この世界でエネルギー生産関連を独占出来たらどれだけの利益になると思う? やり方次第では、利益どころか世界を牛耳れる可能性すらある」


「魔力そのものを電気の代わりにする可能性もありますね」

「いや、多分それはないだろうな……」


「何故ですか? 転生者の魔力をエネルギー源として使えれば、世界的なエネルギー不足なんてすぐに解消されるのでは?」

「だからなんだ。解消されては困る連中がいるんだよ。個々が魔力で生活に必要なエネルギーを賄ってしまったら、儲けが発生しないだろ?」

「あ……そうか……」


 そこまで考えが回っているとは、流石としか言いようがありません。私はまだまだこの人に追い付くことは出来なさそうです。


「だから、日本もイギリスもエネルギー不足を解消するカードを持っていても、それを出すことはない。自分たちが儲けるためにね。奴らの狙いは、タクマの魔力を電気化して高電圧の蓄電池を作り、それとセットにして技術や商品、インフラシステム等を売り込むとか……。そんなところじゃないかな」

「ひどい話ですね。両国が結託したのが昨日と言うのは?」

「多分最初のうちは、日本もイギリスも競ってタクマを入手しようとしていたはずだ。その為に、これは”多分”だけど、君達のリーダーを利用してデーモン騒ぎを起こさせた」


 まさか……


「結果はどう転んでも良かったんだ。俺達が全滅してからタクマを回収してもいいし、勝ってもご覧の通り満身創痍まんしんそうい。タクマを奪うのは容易たやすいと踏んだのだろうね」

「そうか、そういうことですか。タクマさんを投げた時に二つに分裂してしまった。その為両国は奪い合う必要がなくなり、結託して半分ずつ手に入れようとした。という事ですね」


 無限大の魔力なら半分にしても無限大。なんて事だ……自分達の利益しか考えていない人が、国をまとめているなんて。

 あの時は最終的に十数名の死者が出てしまいました。精神的に弱っていた観客にはデーモンの“Fear”は致命傷だったのでしょう。こんな……まったく無関係な人々を殺してまでやる事でしょうか。


「父が生前『もっとも残忍な生き物は人間だ』と言っていましたが、それがこんな形でわかるなんて思いませんでした」

「その辺りは、俺達が元々いた世界も大差はなかったよ。政治屋なんて所詮そんな奴らばかりだった……。まあ、こっちに来てまでそんな腐った連中を見る事になるとは思わなかったけどね」


 そうなのですね。私の両親も転生前にはそういう世界を見て来ているのですか……

 

「そうは言っても、今の話は半分以上推測なんだ。なのでエクエスさんには、ちょっと大変だけどやってもらいたい事があるんだ」


 それはいったい……?


「とりあえず、今の推測の裏付けをとってきてくれない?」




 またこの人は、なんて大変な事をサラっと言うのでしょうか……







次回! 第四章【true this Way】 -人の在り方- On your Side:味方 ④パトリシア

ごめんなさい。わたくしも今からお兄さまを騙します(パトリシア談) 是非ご覧ください!






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