第32話 冒険者ギルドの困惑
剣技試験官side
俺がヘナヘナと椅子にへたり込んでいると、ちょうど副ギルド長のクルゥがやってきた。
理由はわからんが、どっと疲れているようだ。
彼とは唯の同僚、部下と言う関係ではない。
俺がS級冒険者団に所属していた頃からの戦友だ。
だが、いつも沈着冷戦な筈の彼が、明らかに様子がおかしい。
俺自身も激しい疲労感に襲われていたが、クルゥを気遣い、声をかけた。
「クルゥ、どうしたんだ? 何か焦っているような様子だぞ、お前らしくない」
「ギルド長、今日、私は幻を見たのか、現実だったのか分からなくなってな」
あ!? これ、多分、あの少年絡みだ。
確か、彼は午後に魔法試験を受けていた筈だ。
「もしかして、あのアル君という入団希望者の件か?」
「あ、ああ。あのアル君という少年のことだ。私の20年以上の魔法の研究は一体何だったんだろうか?」
「はあ……」
思わずため息が出る。剣技だけでなく、魔法もか。
クルゥの様子で、何となく察しはついてしまった。
剣が頭おかしいレベルなら、魔法が頭おかしいレベルでも不思議はない。
「クルゥ、安心しろ。どうせアル君が頭おかしいレベルの魔法を見せたのだろう? 心配するな、彼は剣技も頭おかしいレベルだったぞ」
「ギルド長……それ、何の説明にもなってませんぞ。ギルド長もおかしくなっていますぞ」
うう。言われてみるとそうかもしれん。
俺は副ギルド長からアル君の魔法の件の報告を聞いた。
「3km先のラッキーラビットを……また非常識な……それにフレアアローを50本も用意するとか、ほぼバケモンだな」
「ああ、宮廷魔術士でもせいぜい5本程度だと思う。なあ、それにな、彼はその炎の矢を目標に向かって正確に誘導していたみたいなんだ。それも同時に何本もな」
「何だって!?」
魔法において、同時に多数の相手を攻撃することは最大の命題だが、それは人間の脳の限界を超えており、やむなくほとんどの魔法使いは広範囲攻撃魔法を使う。
攻撃魔法の弱点をあの少年は克服したと言うのか?
ちなみに、広範囲攻撃魔法より、単体攻撃魔法の方が着弾時の威力は大きい。
俺は更なる疲労感に襲われたが、クルゥが剣技試験のことを聞いてきた。
彼も察したのだろう、俺がクルゥに憂鬱に疑問を差し挟んだことに。
剣技で何をやったのか、詳しく説明する。
「そ、そんな……あの少年は錬金術でミスリルをアダマンタイトやオリハルコンに変えたのですか?」
「そうとしか考えられない。俺の剣は間違いなくミスリルの剣だった。間違ってもアダマンタイトとかオリハルコンの伝説の雷神剣じゃない」
「なあ、ギルド長、彼を冒険者になんてしていいんだろうか?」
「実は俺もちょっと、心細くなって来たんだ」
二人で落ち込んでいると、その時、受付嬢のエフィが駆け込んでいた。
「た、大変です! アル君の筆記試験がぁ!!」
一体、アル君の筆記試験がどうしたんだと言うんだ?
まあ、今更少しくらいのことでは驚かんが。
「アル君の筆記試験、全問正解だったんです!! そ、それに……」
「何だ、そんなことか?」
俺、ちょっとおかしくなってるよな?
今まで全問正解した新人冒険者はいなかったような気がするが、あのアル君だと不思議に思えん。
「いえ、問題はそこじゃありません!!」
「いや、もう勘弁してくれないかな? 未だ、何かあるのか?」
もう、これ以上は勘弁して欲しいです。
「魔法の学科試験の量子魔法学の問題。回答外に確率統計学を用いると簡単に解けるよ(笑)と書いてあって、例として、魔法素粒子の軌道計算式、確率統計学の公式を適用して解いてあったのですが、見事観測結果に一致……念のため、王立魔法学園に打診してみたのですが……今、今世紀最大の発見だと大騒ぎになっています!」
「はぁ?」
俺、もうやだぁ。
「ギルド長、これは、一ギルドには荷が重すぎる問題ですぞ。ギルド連盟長経由で、国王陛下にご報告をした方が?」
「た、確かにそうだな、エフィ君、試験結果と試験に関するレポートをまとめて、ギルド連盟長宛に国王陛下にご報告くださいと、至急魔法通信を送ってくれ」
俺は安堵した。
一時はどうすればいいかと思ったが、連盟長や国王に丸投げできそうだ。
「ギルド長……もしかしたら、私達は歴史の1ページの生き証人となったのかもしれません」
「うん? それは一体どういう意味だ?」
「……こ、これは……伝説の真の勇者の再臨ではないでしょうか?」
俺はクルゥの言葉に息を呑んだ。
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