第26話
「……ほう、こんなにも冷たい水で洗うのか」
「嫌なら私がするよ?」
驚いたように川の水に手をつけていた皇子に言うと、彼はふるふると首を横に振った。なんだか可愛い。
「私がする!」
まるで子どもみたいな彼が腕まくりをする。そして私に言われるがまま、ぎこちない手つきで服を洗っていく。
「……これで良いのか?綺麗になったか?」
一枚一枚丁寧に洗って、終わる度に私に見せてくる。何度も確認してから自分が洗った分を満足そうに見つめていた。
「──お前は毎日、こんなに大変なことをしていたのだな」
洗い終わった後、少し荒れている私の手を取って眺める。皇子の手もとても冷えていた。
「綺麗な手なのに、荒れたらもったいないよ」
そう言えば、皇子はきょとん、として
「この手はお前を守るための手だよ」
なんて訳の分からない胸キュン台詞を放っていた。
「……正直に言うと、お前には苦労して欲しくない。楽しいことだけ、してほしいと思う」
ポツリポツリと話し出した皇子は、とても言いにくそうにしていた。多分これは、皇子の本音だ。
「そのために、私はお前の望みなら何でも叶えてやりたいよ」
いつも彼は私を笑わせようとしてくれる。何でも叶えてくれようとする。皇子が私の気持ちを大切にしてくれているのが分かって嬉しい。嬉しいんだけど。
それは確かに“楽”かもしれない。でも、それかイコール“楽しい”ことだとは限らないと思うのだ。
「だから……お前がしなくとも良いことなのに、なんて思ってしまう」
皇子の気持ちは嬉しいけれど、決して苦なんかじゃないよ。
「──“私がしなくてもいいこと”っていうのはね、“私がすることで他の誰かが苦労しなくていいこと”の略だと思ってるの」
私の言葉に、皇子は少し不意を突かれたような様子で目を見開いた。
「…やはり良い女だな、お前は。私が虜になるはずだ」
またあの甘い笑顔で、全て洗い終わった洗濯物の入ったカゴをもう一度片手で担ぐと、空いている方の手を差し出す。
「──お手を、姫」
皇子は皇子。それは確かなのだけれど、やっぱり漫画の中に出てくるような皇子様みたいで。
「……はい」
私だって女の子だもの。一度くらいはお姫様になりたいって思うから。彼の大きな手のひらに、自分の手を重ねる。皇子はきゅっと握ってくれて、温かな気持ちが胸に広がった。
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