第7話

 そしてたどり着いたのは、これまた立派な宮殿。ここが洞窟だからか、広すぎて驚くと言うよりもその歴史を感じさせる建物に圧倒された。まるであの有名なヴェルサイユ宮殿のような。実際に見たことはないから、イメージでしか描けないのだけれど。

「ここが私の宮だ」

「……でしょうね」


 さっきまで私を包んでくれていたマントを靡かせて颯爽と歩く皇子に着いていくのが戸惑われる。だけど振り返った皇子が優しく微笑んでくれるから慌てて後を追った。


「おかえり、なさいませ……」


 先ほど湖で出会った黒い人──エヴァンだったか──が皇子の前で跪く。私を鋭い目つきで見据えると


「……お戯れはほどほどに、と申し上げたはずですが?」


 淡々とノア皇子に告げる。その冷たい声もさらりとかわす皇子は大したものだ。私なら恐ろしくて声も発せないほどの威圧感なのに、さすが皇子。その態度も失礼だと見なさないのは家臣との信頼関係が成せるものなんだろう。


「いや……月明かりに照らされた“これ”が、ひどく美しかったからな。思わず連れ帰ってきてしまった」

 皇子って気障なものなのだろうか。この噎せてしまうほど甘い言葉を堂々と発することができるのはある意味才能だと思う。


「……ノア様。物珍しさ故のお戯れも結構ですが、正室をはやくお迎えくださいませ。民も待ちわびておりますよ」

 胡散臭い微笑みを浮かべたエヴァンは、私へと向き直る。

「どうやってノア様に取り入ったかは知らないが──ここはお前がいるべき場所ではない」

 そう冷たく言い放った彼。恐怖から思わずビクッと身体を揺らした私。抱いていた子犬を抱きつぶしてしまいそうになった所を、皇子がそっと抱き寄せてくれたから抑えることができた。


「そんなにサラを怯えさせるな。それに、私の正妃になる女性は私が決める。誰よりも相応しい女が現れるまで、正妃は持たぬと言っているだろう?」

 ため息交じりに言葉を発した皇子は、私の顔を覗き込む。


「ああ……。顔色があまり良くないな。体が冷えてしまっている上に、慣れない環境に戸惑い、疲れているだろう?」


 紳士的な皇子は優しく気遣ってくれる。強張っていた身体から力が抜け、コクンと頷いた。恭しく手を差し出してくれる皇子に、自分の手を重ねる。

「エヴァン。しばらくの間、サラは私が預かる」

 有無を言わせない、その威圧感のある言葉にエヴァンはただ頭を下げただけだった。その表情には、不満しか現れていなかったけれど。

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