第6話
「ここは……?」
目の前には洞窟の小さな入り口。人ひとりがやっと入れるくらいだ。
「ここが我が帝国、アトレアだ」
皇子がエスコートしてくれて、恐る恐る踏み入れた洞窟。細い道を通っていけば、少し開けた場所に。
「え……」
目の前の行く手は大きな扉で塞がれている。その傍らには門番と思われる兵士が左右に二人。
さすが皇子、彼が現れた瞬間に深く頭を下げた。
「おかえりなさいませ、ノア様」
ノア皇子はそんな門番に「ああ」とだけ返し、ギギーッと音を立てて開かれる扉を進んでいく。彼のマントの陰に隠れて歩く私をチラリと見て、口元を緩める皇子。当たり前だけどとても堂々としていてカッコいい。
すれ違う人々が次々と頭を下げて挨拶していく。私を見ても驚かないのは、きっとこの人が女性を連れているのはそう珍しくもないということ。無意識のうちに、抱いていた子犬を撫でていた。くうん……と私を元気づけるように腕の中のその子が鳴く。
……これが噂の“お戯れ”か。
そんなことを考えていると、さらに大きく開かれた場所に出た。……いや、もはや開かれたという規模じゃない。目の前に広がるのはここが洞窟だと忘れてしまうほどの大きな町。店や家が立ち並び、多くの人で賑わう目の前の光景は目を疑うほどだ。天井なんて見上げてみても私の眼では確認できないくらい高い。
「……アトレアは、世界でも有数の地下帝国だ」
そう誇らしげに町を見つめる皇子はこの帝国を心から愛しているのだろう。優しい眼差しはこの人がとても良い君主になるであろうことを予感させるものだった。
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