第154話 役割分担②
◆
言われた皆は、何も言わず慎二の言葉を聞く体制に入った。
『………‥』
皆は知っているのだ、あのやる気に満ちた慎二の顔を、目を。
約半年間だが、慎二と生活していく中で皆は気付いた事がある。
慎二が何かを仕出かす時、無理難題を請け負った時、どんでん返しの言葉通り何もかもをひっくり返してしまう時……目付きが変わる事を。
今はその表情になっているから、皆は何も言わずに任せる事にした、それは信頼の証でもあり、信用をされている証拠なのだろう。
慎二自身はもしかしたら気付いていないかもしれないが、ここ1年「F」クラスの皆にはとても頼りにされているのだ。
その事を知ってか知らぬか、分からないが、どちらにせよ皆が自分の話を聞く体勢に入ってくれたと思い、慎二は口を開いた。
「まずは厨房班、料理をする人だね、さっき分かった限りだと……村上君・由紀・宮田君・多田君・石橋君・悠木さん、そこに僕と吉野さんが入った8人だね」
慎二に呼ばれたクラスメイトは頷いていた。
それを確認した慎二は話し出した。
「でも、やっぱり最低でも15人は欲しいところだね……今回は別に高尚な料理を作るわけじゃぁないんだ、それに下準備をしてくれる人がいるだけでも助かる」
「前田、質問だが、下準備って具体的に何をするんだ?」
一人のクラスメイトが慎二に質問をしてきた。
挙手をする事なく聞いてきたが今はそんな事を気にしている場合ではないので質問に答える事にした。
「横田君良い質問だ、簡単に説明すると下準備は………」
下準備とは要するに料理をする為の加工だ、簡単に説明すると、野菜を切ったり、お肉にした味を付けたりする事だ。
「………と、言う事でね」
そんな事をかいつまんで皆に説明した、慎二の説明で分かったのか大半のクラスメイトが頷いていた。
それは質問をしてきた横田もそうだった様で。
「何となく分かったわ」
そう言うと、慎二の話を再度聞く体勢に入った。
「下準備にはその他にもあるけど、そんな難しい事じゃない、だから誰か「料理をやっても良いよ!」って人はいないかな?文化祭までの期間は約1週間はあるから簡単な事ぐらいは教えられるからさ!」
『………‥』
そう言われてもやりたくないのか、あまり進まないのかほとんどのクラスメイトは難しい顔をして無言になってしまった。
(うーん……説明はしたけど皆乗り気じゃないな、皆を動かす為の最終手段はいくらでもあるけど、無理矢理押し付けるやり方は好ましくないからねぇ………)
慎二はそう考えても、誰も何も発しない状況は好ましく無いので、もういっその事、最終手段……「真実の目」を使った脅しをして料理経験があるクラスメイト達を指名するかと思った時……珍しい人物が慎二に助け舟を出した。
「………まったく、お前らはこんなにも前田が頼んでいるんだから少しは協力しろよな、色々恩だってあるだろ?」
誰も喋らない中、椅子から立ち上がるとクラス中を見渡して声を上げた。
その人物は………
「村上君」
村上だった、慎二は意外な人物だと思いながらも、助け舟を出してくれた彼に嬉しそうな表情をすると村上の名前を呼んだ。
呼ばれた村上自身も照れ臭そうにそっぽを向いたが、そのまま話し出した。
「別に前田の為じゃねえよ……どっち道今日中に出し物をゴリに伝えにいかなくちゃいけねぇんだし、早く決めるには越した事はねぇだろ?」
「そうだけど……村上君が助けてくれるのは意外でさ」
慎二は包み隠さず自分の本心を伝えるのだった。
話を聞いた村上は「はっ!」と鼻を鳴らすと話し出した。
「意外かぁ、まぁ、そうかもしれないが……俺達だっていつまでもただ指を咥えて前田の話を聞いて、指示を待つだけじゃ駄目だろ?そんなのはただの指示待ち人間だ。自分から何かを主張しなくちゃな。だからお前達も嫌がってばかりじゃなくて自分を主張しろや!今のお前らなんてこけしでも出来るわ!!」
村上は慎二ではなく、今も尚何も発する事なく行く末だけを見ているクラスメイトに啖呵を切った。
それを聞いていた皆は「前田ならまだしも村上に言われるのは納得がいかない」と思ったのか口々に反論をしだした。
『さっきから言いたい事ばかり言いやがって、お前は何様だ!』
『そうだ、そうだ!今のお前はただの前田の金魚のふん状態だぞ!』
『本当だ、このう○こ野郎!』
『オタク!』
『口調キモいんだよ!!』
『男がツンデレとか需要はねぇんだよ!!帰れ!!』
「そこまで言うかお前ら!?」
他のクラスメイトが騒ぎ出したと思ったら、村上の悪口を口々に言いっていた。
それを受けた村上は悪口の集中砲火を受けながらも、反論をしていた。
(……この状況はまずいのでは?こんな状況じゃ逆に何も考えられないでしょ……村上君には悪いけどやっぱり「真実の目」を使うか………)
逆に油を注いだ状態にしてしまった村上の光景を見た慎二は、内心でそう思うと村上に伝えようと思った。
が、村上に目で「大丈夫、俺に任せろ!」と言われた様な気がした。
以前海に行った時も同じ状況があり、あの時は悪い方向に進んでしまったから「どうするか?」と少し考えたが、あの時とは村上も変わったはずだと思い、任せる事にした。
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