第146話 観察者
◆
さぁ、この中から出し物を決めるかと思った時「♪〜〜〜よいこの皆さんは、早くお家に帰りましょう」と夕方6時を告げるチャイムが流れてしまった。
夏も終わり大分日も落ちるのが早くなっているのだ。
慎二達も今がそんな時間になっていた事に気付かなかった、教室内に付いている掛時計を見たら本当に午後6時を針が示していた。
「あちゃー……もうこんな時間になっちゃったわね。流石にこれ以上長居しても他の先生に煩く言われるだけだから今日は解散かしら」
「そうだね……もう遅いし決めるのは帰ってからでも良いんじゃない?」
「帰ってから?」
慎二が今口にした事を理解出来ていないのか、そのまんまの言葉を疑問符を添えて美波は返してきた。
「うん。候補も三つ出た事だし帰ってからでも一つを選ぶ事が出来ると思ってさ」
「そういう事ね……三つから一つを選ぶくらいは子供でも出来るし……高校生のアンタ達でもそのぐらい出来るわよね?」
美波はそういうと少し煽てるというかバカにした様にクラスメイト達の方を振り向いた。
言われた皆は………
『出来るに決まってるだろ!』
『バカにするな!!三つどころか四つの中でも選べるぞ!!』
『なんなら今ここで赤ちゃんプレイをしてやろうか!』
ふざけているのか怒っているのか分からないコメントを次々と返してきた、美波はそんなクラスメイト達に「はいはい」とおざなりに対応していた。
ただ、その中で慎二だけはもしかしたらまたあの変な事を言う奴が現れるのではと思いその時を待っていた。
『前田、俺と一緒に赤ちゃんプレイをしないか?』
(っ!!来た!!)
クラスメイトの声の中に一人だけ慎二に伝えてくる言葉があった、集中して聞いていた慎二はその声の出所を確かめたのか………
「気色悪い事を言うのはぁーー、お前かぁー!!」
慎二はそう言うとさっきから変な事ばかり言っていた生徒に向けて助走を付けるとそのまま飛びかかるのだった。
美波含める他のクラスメイトは突然の慎二の行動に驚いていた。
「やっと捕まえた!君は………」
その人物の顔を見た慎二だったが、言葉を途中で止めてしまった。
だって………
「君は……誰?」
本当に知らない男子生徒だったのだから。
慎二が今わかるのは、取り押さえている人物は「F」クラスの生徒ではない事は分かった。
慎二自身クラスメイトを全員覚えている訳ではないが、こんな筋肉ムキムキの生徒など流石に見たことない。
いや、本当に誰だよ、まずうちのクラスじゃないでしょ……君………
その男子生徒を慎二が訝しげな目で見ていると何故か頬を赤くした。
「………前田、嬉しいがそんなに誘うような目を向けてこないでくれ、おもわず襲っちゃうだろ?」
「ゲェッ!?」
男子生徒の言葉を聞いた瞬間、慎二はその場を直ぐに離れた。
身体にゾワゾワと何か恐ろしい悪寒がしたからだ。
「なんだ……そんなに早く離れなくても良いのに」
そんな事を言いながらその生徒は慎二が触った場所を愛おしそうに撫でていた。
その光景を見た慎二は「……うぇ………」と何か悍しいモノでも見たような表情をすると自分の身体を摩っていた。
そんな事をしていた慎二と謎の男子生徒の元に横から美波と優奈が歩いてくると慎二が警戒している男子生徒に話しかけた。
「あら?西田じゃない、アンタなんで「F」クラスにいるのよ?」
「そうだよ、西田君は違うクラスだよね?」
知り合いなのか2人は男子生徒の名前を「西田」と呼んでフレンドリーに話しかけていた。
そんな3人を慎二は驚きながら何が起きているのか分からないという顔をしながら様子を見ていた。
2人が話しかけると西田と呼ばれた男子生徒はその場で跪いた。
「はっ!吉野様と悠木様は前田と同じクラスでしたか、なんとも羨ましい事ですね!……と、今は俺がここにいる理由でしたか?それは……勿論前田を近くで観察する為です!」
慎二も他のクラスメイトもいきなり男子生徒、西田が跪いて「慎二を観察する」と言った事に驚いていたが、何よりも驚いたのが2人の事を「様付け」で呼んでいる事だろう。
ただ「様付け」で呼ばれた2人も恥ずかしかったのか講義の言葉を西田に言っていた。
「ちょっと!ここはいつもの場所じゃないんだから普通の知り合いとして名前を呼びなさいよ!慎二に変な勘違いされるでしょ!!」
「そ、そうだよ!ここには他の人達もいるし……慎二君もいるんだからやめてよ!変な女の子だと思われちゃうよ!!」
2人はそんな事を言っているがもう遅い、最初から慎二は2人の事を変な女の子だと認識している。
ましてや恐ろしい存在だとも思っている。
村上への態度や慎二が今まで行われてきた事を思いい返せばそれは当然のことだろう……でもこの二人はまだ大丈夫だと思っているらしい。
「す、すみません!いつも通りの対応をしてしまいまし……したな、悪かった今は吉野と悠木だったな」
理解力が早いのか直ぐに立ち上がると西田は2人に謝り、さっきから慎二と話していたように普通に喋り出した。
「そうよ、それで良いのよ」
「うん、変な事は言っちゃダメだからね?」
「あぁ、心得ている」
そんな話を3人で話し合っていた、でも話について行けない慎二達は頭に「?」を浮かべながら見ている事しか出来なかった。
ただ、その中でも慎二は何やら3人の話ぶりで自分の事が「関わっているのでは?」と感じたのかまずは西田が誰なのか聞いてみる事にした。
「そ、その!3人で話が完結しているところ悪いけど、結局西田君?は誰なの?何でこの教室にいるの?」
話を慎二本人に振られた西田は嬉しかったのか目を輝かせると慎二の近くに寄ってきた、その分慎二は後ろに下がっていたが。
「おぉ!前田が俺如きを気に掛けてくれたのか!ありがたい!!」
「い、いや、何でそんな過小評価なのさ君は………」
そんな自分の事を過小評価をする西田に慎二は少し引いていた。
「それはそうなるさ!だって「西田?」……んん……ふぅー、すまん興奮していた」
何かを慎二に伝えようとしていた西田だったが、美波の一言で落ち着きを取り戻したのか一度深呼吸をしていた。
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