第117話 奇跡と軌跡③
慎二はそう言うと2人だけの時間を作ろうと思い部屋の外に鈴村と一緒に出ようとしたら……千鶴に止められた。
「待って、渚ちゃんが言っていたから、恐らく君は慎二君と言うんだよね?」
「………そうです、僕は前田慎二と言います」
「前田慎二君覚えたわ、引き止めてごめんなさいね…どうしても……最後に君に言いたい事があって、さっき君の声が聞こえたと言ったけど……本当に聞こえてたのよ?正一さんからの手紙を読んでくれていたのも覚えてるわ……貴方はこの手紙を読めたの?」
千鶴はそう慎二に聞いてきた。
どう答えようかな……僕はよめます?それとも嘘をつく?………勿論決まっている。
「僕には読め………」
慎二は読めますと言おうとしたら一陣の風が目の前を吹き荒れた様な気がした。
さっきまで病室内の窓は開けていたが風など全く吹いていなかったのにカーテンが揺れる程の風が吹いたのだ。
慎二は特に気にせず話の続きを言おうとしたが……千鶴含めて渚達も慎二の背後を驚いた顔で見ていたので慎二も振り向いてみたら………
そこには優しそうな顔をした半透明の男性が立っていた。
(なっ!いつの間に僕の後ろに?それよりも半透明な姿って……幽霊なんじゃ………)
幽霊かもしれないと思い動けないでいると千鶴から驚きの言葉が出た。
「………もしかして、正一さん?」
「………え?」
その言葉に嘘だろ、と思ったが目の前の半透明の男性は少し頷いたと思ったら声は出ていないが口パクで何かを伝えてきた。
その言葉はなんとなくだが慎二にも分かった、その言葉は。
『愛し てる そして ありが とう』
(愛してる、そしてありがとうって言っていたよね?)
慎二が心の中で思っていると、伝える事を果たしたと言う様に徐々に薄くなっていき最初から何もいなかったかの様に消えてしまった。
誰もが何も言えずにいる中、千鶴が慎二に伝えてきた。
「本当に奇跡ってあるのね……私がまた目を覚ましたのだけでも奇跡だと思ったのに、最後に良い思い出が出来るなんて……もしかしたら前田君は今みたいに正一さんに一度会っているから手紙の内容が分かったのかもしれないわね……色々聞きたかったけど、今の現象を見たらスッキリしちゃったわ」
千鶴は全く違う解釈をしていたが、慎二はそれで良いと思った。
「そうですね、千鶴さんが思っている通りだと思いますよ………」
「そうね、きっとそうなんだわ。最後になるけど前田君、私達をまた合わせてくれて、手紙を届けてくれてありがとうございます」
千鶴はそう言うと慎二に頭を下げてお礼を言ってきた。
「当然の事をしたまでです。それに、この世に届かない手紙なんてないんです。伝えたい思いと、届けたい気持ちは必ず届くと信じてるので」
慎二はそう言い今度こそ本当に鈴村と一緒に病室の外に出る事にした。
◆
時間はそんなにもう残されていないかもしれないけど、後悔しない様に最後は十分と話し合って欲しいな、僕が出来るのはここまでかな………
慎二は邪魔者は早く撤収でもしようかなと思っていたら、一緒に病室の外に出た鈴村に声をかけられた。
「前田君、今回は本当にありがとう。医者の私が言うのも何か違うけど、生きるって言うのを実感させられたよ、今日の出来事はこの先一生忘れられないだろうね」
そんな事を伝えてきた。
だが、それは慎二も一緒で一生忘れられないだろう。
「そうですね、本当に諦めなくて良かったと思います、それでは夜も遅いので僕はお暇させて頂きます」
「ああ、本当にありがとう、また渚君に会いに来てあげてくれ」
「わかりました」
照れ臭そうにそう言うと慎二は哲也が待っている場所に戻る事にした。
「お待たせしました、哲兄、全部上手く行きました」
慎二がら声をかけると気付いてくれたのか笑顔を向けてくれた。
「なら良かった、じゃあ帰ろうか?もう夜も遅いからな」
「はい、きっと美味しい夜ご飯を用意してくれています、そうだ哲兄も寄ってって下さいよ、皆喜ぶと思いますよ?」
「断るのも悪いからお言葉に甘えさせて頂こうかな?」
「そうして下さい」
話が纏まると慎二を乗せたバイクは夜道を静かにかけて行った。
遅くなった慎二達は千夏達に物凄く心配されたが、無事人助が終わった事を伝えたら皆喜んでくれた。
夜も遅い為哲也は泊まる事になり夜ご飯を食べたりしていたら疲れたのか直ぐに慎二達は寝てしまった。
翌日、哲也と別れた後渚から連絡があった。
その内容は千鶴さんが息を引き取ったという内容だった、でも慎二は悲しくは無かった、だってこんな話を聞いたのだから。
『お婆ちゃんは亡くなってしまったけど、最後はしっかりと僕が未来を見た通り穏やかな顔で旅立って行ったよ、それにねあの後色々話せたんだ、だから僕はもう悲しくない前を向くよ』
と、渚から電話で聞いたからだ。
その後は慎二も参加して少ない人数で千鶴さんのお葬式を開き皆でしっかりと弔いをした、その時にもう渚は泣いていなかった。こ
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