第116話 奇跡と軌跡②


 そんな中、慎二は………


(ふざ……ふざけるな!何で、何で渚さんが既に諦めているんだよ!僕だって……クソッ!諦めるか……諦めれるものか!)


「………渚さん、言われていたタイムカプセル探して来ましたよ、きっとこれを見れば千鶴さんも「もう無理だよ!」………っ!」


 慎二の言葉に被せるように今まで聞いた事が無い強い口調で無理だと言ってきた。


「慎二君も分かってるんでしょ?僕のお婆ちゃんはもうここには……居ないんだよ……奇跡なんて……起きないよ………」


 だが慎二は悲観して泣き崩れている渚に優しく声をかけた。


「渚さん…奇跡とは起きるのを待つものではありません……軌跡は自分で起こすものですよ……それを僕が今、証明します」

「何を………」


 何をしようとしてももう無理だ!と伝えたかったが、慎二の目を見て何も言えなかった。


 だってあの目は何も諦めていない、それよりも何かが起こると信じる目だ、そんな目をしていたら何も言えないじゃないか……と思ってしまい渚は口を噤んでしまった。


 慎二はゆっくりと渚の祖母、千鶴に近付くと優しく話しかけた。


「汐留千鶴さん初めまして、僕は前田慎二と言います、まだ短い期間ですが渚さんとはとても仲良くさせて頂いています、渚さんにはよく話で聞きました、千鶴さんはとても優しいお方だと」

「………‥」


 慎二がそう言ってもやはり何も反応が無かった、でもそれでも慎二は辞めない。


「渚さんはまた貴方と会いたがっています、意識は無くても魂はまだここにある筈です。なのでもし聞いてるなら最後に渚さんにお別れの挨拶だけでも聞かせてあげてください……僕も貴方に聞かせたい事があるので」

「………‥」


 慎二がそう言うとさっきのように千鶴は無言だったが、少しだけ腕が動いた様な気がした。


 その様子を確認した慎二は内心驚きながらもタイムカプセルを渚達の目の前で開けると中からしわくちゃで古びた便箋の様な物を出した、恐らくこれが手紙だろう、もう読めなくなっているが慎二は読み始めた。


 普通の人間では読めるはずがないが「過去」を見れる慎二にはその内容が分かる。


 「真実の目」を使い続けての朗読だった為、随時身体の痛みが慎二を襲っていたがそんな物関係ないと表情に出さず、これは奇跡を起こす為には必要な事だと思い読み始めた。



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『      最愛の妻へ


 俺はあまり人とは喋るのも接するのも得意じゃないが、そんな俺にも大切でこの世で1番大事だと思える人と出逢えた。


 それは本当に奇跡の様な瞬間だったと今も思う。


 結婚して……家庭を作って……家族と暮らし……老後を一緒に穏やかに暮らす……そんな風にこれからは色々な事を一緒に分かち合うだろう。


 時には楽しくも、苦しい時だってあると思う、でも君となら何だって出来る気がする、千鶴、俺の側にこれからも一緒にいてくれてそしてこれからもいつまでも俺を支えてくれて……ありがとう。


 言葉足らずで悪いが……最後にこの言葉を君に贈りたい……俺の事を好きになってくれてありがとう………死んでも君を愛し続けている            汐留正一 』


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 慎二が手紙を読み終わるとその場に座り込んでしまった。


すすり泣く声が聞こえる事からここにいる人全員が泣いているのが分かった、勿論読み手の慎二も泣いていた、でも何かがおかしい事に気付いた。


 この場には3人の人間しかいないのに4人目の泣き声が聞こえるのだから。


 それが何なのか耳を済ましてみたら………


「正一…さん……私も貴方を愛しています………」


 そんな言葉を千鶴がかすれた声で言ったので渚と鈴村は直ぐ様に千鶴に近寄って様子を見たら……千鶴は泣きながら渚達を見ていた。


 そんな千鶴の様子を見た渚は驚きながらも話しかけた。


「お婆ちゃん!?意識を取り戻したの!僕だよ、渚だよ、わかるかな?」

「………わかるわよ……私の大事な……渚…ちゃんじゃないの………」

「良かった、お婆ちゃん!もう亡くなってしまったと思って僕は……僕は………」


 渚は千鶴が意識を取り戻した事に安堵していたが、そんなに上手く行くはずがなく。


「合ってるのよ、私は一度亡くなったわ……それに自分の死期ぐらいわかるわ………」

「そんな………」

「でもね男の人の声が聞こえるの……今一度だけで良いから目覚めて孫と別れの挨拶をしてくれって……その声が聞こえてきた時……暖かい気持ちになったと思ったらそこの彼の声が聞こえていたの……貴方が呼んでくれたの?」


 千鶴は慎二にそう聞いたが。


「多分、違います。恐らく千鶴さんに話しかけたのは神様じゃないかと思いますよ、この世界には神様がきっといると信じているので」


 慎二がそう言うと。


「そうね、きっとそうだわ……でもね貴方の声が聞こえたから目を覚ましたのは……本当よ?」

「………そうですか……そうだ、千鶴さんにこれを渡します、もう読めなくなってしまってるかもしれませんが、汐留正一さんからの手紙です」


 慎二はタイムカプセルから出した手紙を千鶴に渡す事にした。


「あり……がとうね…本当に……ありがとう………もうこの手紙が見れないと思っていたわ」


 千鶴は慎二から渡された手紙を大事そうに受け取ると涙を流しながらお礼を言ってきた。


「慎二君、僕からもお礼を言わせてくれ本当にありがとう、もう見つからない物だと思って僕は諦めていた、そんな時君が探してくれた、ありがとうね」

「僕は……いえ、お二人の言葉受け取ります、貴方達を助けられて……良かった。後はお二人で詰もる話もあると思うので最後まで……お時間をお過ごし下さい」


 本当は皆のおかげと言いたかったけど、この空気では言えなかったな……でも僕は分かってる………皆のおかげで今回も人助が出来たのだと。

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