第107話 似たもの同士①

 

 渚から鈴村に聞いていた話は全て本当だと言われた慎二は下を向いて苦虫を噛んだ時の様な顔になってしまい、何も答えられなくなってしまった。


 そんな慎二に渚は苦笑いを浮かべると口を開いた。


「そんな顔しないでよ、慎二君」

「だって、それはあんまりにも……」


(酷いじゃ無いか!なのになんで、渚さんはそんな悟った様な顔を出来るんだよ……)


 その言葉を口に出したかったが、言えなかった。


「慎二君もこの状況を酷い、可哀想だと思うかい?」

「当たり前……じゃないですか」


 他にも何かを言ってあげたかったが、その言葉しか出てこなかった。


 そんな慎二の言葉を聞いた渚は自分の右手で握り拳を作ると自分の想いを伝えた。


「だよね……僕もそうさ、なんで自分だけこんな目に合うのか、救いさえないのかと泣き叫びながら癇癪を起こした事は何度もあった……そんな事をやっても自分の状況が何一つ変わる事など無いとわかっていたんだけどね………」

「………‥」


 慎二は話を真剣に聞き漏らさないように聞いていることしか出来なかった。


「でも、そんな気持ちも今はもう随分前に吹っ切れてしまったよ、だから今はただ何も考えず生きているだけだと思っていたけど……君と出会ってからは少し、変わったんだ」

「………何か変化があったのですか?」

「うん、慎二君が僕の事を友達と言ってくれた時から生きるって言う事が楽しいんだ、それに恥ずかしい話だけど、慎二君が初めて対等に話せる友人なんだ」


 渚はそういうと本当に恥ずかしいのか照れた様に頭を掻く仕草をしていた。


「今までは友人は出来なかったんですか?渚さんは友人が沢山いると思っていましたけど……」

「それは的外れだね、慎二君がこの町に来るまで友人という物は1人もいなかったさ、こんな体だから上手くコミュニケーションが取れなかったというものもあるけど……生き物はね自分達と違う考えや形をしていると自分達と違うと認識してしまい爪弾きしてしまうんだ、勿論それだけが友人が出来なかった理由じゃないけどね」


 何か他にも理由がある言い方だったので聞いてみた。


「他にも、何かあるんですか?」


 慎二がそう聞くと渚は苦い顔になってしまい、言うか言うまいか考えていた様だが慎二なら大丈夫か、と思ったのか話してくれた。


「………僕はね「嘘つき」なんだ、だから今も昔も僕の周りには誰も集まらない」

「………嘘つきですか?僕には渚さんが嘘つきなんて思えないですよ」


(そうだよ、渚さんは雰囲気でわかる、嘘なんて付くような人じゃ無い、まだ会って少しだけど何となくわかる)


 慎二がそう言うと、嬉しかったのか「ありがとう」と言ってくれた、だがその後に信じられない言葉を言って来た。


「他の人も初めは皆そう言ってくれるんだよ、でも僕の話を聞いても嘘つきだと君は言わないかい?」

「それは、内容にもよります……」


 慎二がそう言うと渚は少し間を開けてこう伝えてきた。



「………僕はね「未来が見える」んだ、こう言っでも君は僕を信じるかい?」

「ーーーっ!……」


 今……渚さんは「未来が見える」と言ったよね?もしかして僕と同じなのか?1度探ってみるか……


「やっぱり信じないよね?こんな出鱈目な話……」

「いえ、信じますよ」

「なっ!?……未来が見えるんだよ?そんな事普通の人間が出来るはずがないでしょ……」


 渚がそう言い下を向いてしまったが、慎二はそんな渚に自分の秘密も話す事にした。


「だって僕も「未来が見える」ので」

「えっ?」


 渚は今何を慎二が言ったのか頭で理解出来ず聞き返してしまった。


 そんな驚いた顔を向けてくる渚に再度言葉を掛ける。


「もう1度言いますよ?僕も未来が見える「真実の目」というものを持っています、なので渚さんの事を嘘つきなんて馬鹿にしないですよ?」


 これが「全てを見通す目」を持つ少年と「未来が見える」男性の出会いだった、この2人が出会った事で今まで止まっていた歯車が動き出した様な気がした。






 慎二から言われた言葉が信じられなかった渚は慎二にこんな事を言って来た。


「………君を疑っている訳じゃないけど……その力が本物なのか今証明してよ?それが証明出来るなら僕は君を信じるよ」

「良いですよ?なら何か頭の中で考えて見て下さい、それを当てるので」


 渚は「どうせ冗談だろう」と思っていたが慎二から自信満々にそう言われてしまった為、頭の中で自分が好きな花の名前を考えて慎二に聞いてみることにした。


「………じゃあ、今僕が考えてる事を当ててくれ」

「はい…では……「スイッチオン」!」


 慎二がそう言うと頭の中で


 {好きな花 百合} と出た。


「………その「スイッチオン」という掛け声はなんだい?」  


 うっ!やっぱりそこを突っ込んでくるか………


「その、僕の力を使う時の合図みたいなものですね、それにもう渚さんが今頭の中で考えている事わかりましたよ?」

「………じゃあ、答えて見てよ」

「はい。……好きな花の名前で、百合ですよね?」

「………驚いたな……」


 慎二の言葉に本当に驚いているのかそんな事を言って来たが、まぐれかもしれないと思い何回も聞いてきたが、全て間違う事なく慎二が答えてしまった。



「………認めるよ…君は特別な力を持っている…僕と同じ……いや僕より凄いね」

「信じてくれてありがとうございます、その、渚さんの「未来が見える」力はどんなものなんですか?」

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