第106話 再開と後悔③
◆
教えてもらった通り病院内の通路を歩いていたら「汐留渚様」というプレートがある部屋が見えたのでその部屋まで慎二は歩いて行った。
「………着いたけど凄い緊張するよ、渚さんの話を聞いたからか一層入り難くなってしまったな……」
慎二が部屋の前でどうしようか悩んでいたら、中から渚の声が聞こえてきた。
『誰か僕の部屋の前にいますか?』
「………‥」
何か喋らないと、反応しなくちゃいけないのに……声が出ないよ。
慎二がなんとか声を出そうとしていると中からこんな事を言われた。
『もしかして……慎二君がいるの?』
「………えっ?、僕だってわかるんですか?」
突然のその言葉に驚いたが、慎二はようやく声を出せたので何故わかったか聞いてみた。
『やっぱり慎二君だったか……わかったのはなんとなく、かな?それより外なんていないで入って来なよ?ここまで来たって事は色々聞いてきたんでしょ?』
「はい……渚さんの事を聞かせて頂きました、では、入りますね……」
慎二は渚から部屋の入室の許可を取った為「失礼します」と言い中に入る事にした。
「………‥」
部屋の中に入った時の慎二が思った事はとてもシンプルな部屋だと感じた事だ。
入院している部屋は仮部屋の為、シンプルな事には特段変わりは無いのだが、渚が入院してからかなりの年月をここで過ごしているというのに、置いてある物は簡素なベッドとTVだけという寂しい部屋だった。
それに人にもよるが部屋の中の物は何かしらその人の個性が出る物だが、慎二が部屋を見回しても何も渚の事を知れる様な物は存在しなかった。
慎二が部屋の中を見て何も言えないでいるとベットに腰掛けている渚から話しかけられた。
「やあ、慎二君。また会うって約束果たせなくて……ごめんね……」
「………いえ、渚さんは入院してるんですから会えないのが当たり前ですよ、それに僕の方こそ以前会った時に連絡先を交換しとくべきでした」
「まあ、今会えたんだからこの話はもう終わりにしようか……僕達に辛気臭い雰囲気は似合わないからね………」
「そう、ですね」
少し暗い雰囲気が部屋を包んでいたが、渚のその言葉でいつも通り話せるようになった。
「それで、慎二君は何処まで聞いたのかな?」
渚に聞かれた為自分が聞いた話を教える事にした、もしかしたら何かの間違いだと思いながら……
「はい、渚さんの昔の事、今お婆さんと二人暮らしの事、そのお婆さんはもう寿命が少ない、事……それから渚さんがウェルナー症候群という病にかかっていて、もうその病気が治らない事を……鈴村先生に教えて頂きました……」
渚さんはなんて答えるだろうか、それは嘘だよ?それとも本当の事か……
何を言うのかと思っていると、渚はカーテンが開け放たれている空を見ると。
「そう…か……鈴村先生が教えてくれたのか……ならそれは全部本当の話さ。僕はもう……長く生きられないんだ」
少し悔しそうに渚は伝えてきた。
運命はどうしようもない程に非情だった。
慎二が今一番聞きたく無い言葉が渚の口から紡がれてしまったのだから。
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