第105話 再開と後悔②





 教えてもらった通りの道を走っていたら遂に目当ての病院が見えてきた、あと少しだと足に力を入れてその病院まで走り抜けた。


「はぁ…はぁ…やっと……着いた……ここが渚さんがいる病院か」


 その病院はとても大きな病院だった。


 ずっと見ていても意味が無いと思い、病院内に入り、受付の人に聞き渚と面会が出来ないか聞いてみる事にした。


「すみません、ちょっとお聞きしたい事があり来ました」

「はい、診察カードと保険書を提出お願いします、初めての診察でしたら保険書だけで大丈夫ですよ」


 慎二何話しかけるとマニュアル通りなのか受付の人はそう返してきた。


 僕の聞き方が悪かったか、今日は診察じゃ無いんだよ……


「違くてですね、今日は診察とかでは無く汐留渚さんという方を探していまして、ここに通っているか入院していると思うんですが出来たら面会出来ないでしょうか?」

「………少々お待ち下さい、今担当の先生に聞いてみますので近くのソファーにお掛けください、分かり次第呼びに行きますので」

「はい、わかりました」


 慎二は受付の人にそう言われた為近くのソファーに座って待つ事にした。


(渚さんの名前を出した時あの受付の人は少し動揺した様にみえた……それにこの病院にいないんだったらお待ち下さいなんて言わないよね……)


 慎二は頭の中でそう考えていたが、どうなるかわからない為静かに待つ事にした。


 20分程経った時、先程の受付の人と共にいかにも医者の先生といった白衣の格好をした人物が慎二の元に来た。


 年は50代ぐらいだろう、慎二は立ち上がるとどちらとも無く挨拶をした。


「始めまして、私は鈴村健一と言います。今は汐留渚君の病気の担当を任せて頂いています」


 病気の担当……か………


「ご丁寧にありがとうございます、僕は前田慎二と言います、この町に来たのはつい一昨日ですが、そこで渚さんと会い、友達になりました」


 慎二が「友達」と言った瞬間、鈴村と受付の人は驚いた様な顔になってしまった。


「………君は本当に彼、渚君と友達になったのかい?」

「え?…えぇ、本当に友達になりましたよ?」

「そうか…君が彼の………」


 どうしたのだろうか?それに僕が渚さんのなんなのだろうか?


 どうしたのか慎二が考えていると優しい笑みを向けてきた。


「わかった、君を信じるよ。でも渚君と会う前に彼の事を君に教えよう……君は何も知らないのだろう?」

「そうですが……そんな軽々しく教えてしまって宜しいのですか?」


 この病院の前に会った女性との会話を思い出した慎二はそう、鈴村に聞いてみたが……


「渚君の友達になれた君なら大丈夫だよ、それに渚君はこの頃ある人物と会ったことを楽しそうに話している所をよく見るんだ、名前は教えてくれなかったけど恐らく君の事だろう」


 と、言ってきた。


(渚さんは僕の事話していたのか……)


 そう考えながらも教えて欲しいと思い渚の事を聞く事に決めた。


「わかりました、僕に渚さんの事を教えて下さい」

「わかった。だが、流石にこの場所では話せないから違う場所に移ろう、私個人の部屋があるからそこで君に話すよ……松田君、呼んでくれてありがとうね、仕事に戻って良いよ」

「はい、では私は受付に戻りますね」


 受付の人、松田に鈴村は「戻って良いよ」と言い、早速慎二を連れて部屋を移す事になった。


「前田君と呼ばせて頂くよ、私の後を着いて来てくれ」

「わかりました!」


 慎二は返事を返すと歩き出した鈴村の後を着いて行った。


 少し歩いたら病院の中にある1つの個室に案内されたので、鈴村の後からその部屋に入る事にした。


「前田君はそこの椅子に腰掛けていてくれ、私はここに座って……じゃあ渚君について話すとしようか?」


 鈴村も椅子に座り、今から話すと言うので慎二も聞く体勢に入った。


「お願いします」

「あぁ、まず初めに、彼はとても不運な子供だった……」


 鈴村はそう前置きをして渚について教えてくれた。


 渚は生まれた時から不治の病と言われるものに侵されていてその時からすでに病院生活をしていたという、それだけでも運が悪かったのに渚が5歳になった時両親が交通事故で亡くなってしまった。


 その後は親戚にたらい回しにされそうになっていたが、父方の祖父祖母が引き取ってくれることになりそこからは少しだけ幸せな生活が続いた。


 だが、渚が14歳の時に祖父が病気で亡くなってしまった、そこらかは今まで祖母が1人で渚を育ててくれた様だが、その祖母もこの頃寿命なのか衰弱してきていて医師に診察してもらった時にはもう生きられてもあと少しと余命宣告をされてしまったらしい。


「………と、こんな事があってね渚君はお婆様が亡くなってしまったら天涯孤独になってしまう」

「そんな………」


(僕も昔は運が悪いと思っていたけど……そんなのはあんまりじゃ、無いか………)


 話を聞いた慎二は何も言えなくなってしまった。


 それでも鈴村は渚の話をしてくれたので慎二は真剣に聞いた。


「それに渚君は小さい頃から病院生活をしていたからか中々他の人に心を開く事がなくてね、私も渚君としっかりと話せるようになったのはついこないだなんだよ?そんな渚君は君に直ぐに心を開いた、これはとても凄い事なんだよ」


 凄いのかな?……


「そうですか……僕は最初から渚さんはとても話しやすい人だと思っていました、気付いたらお互い名前で呼ぶ様になっていて直ぐに友達になれたのが嬉しかったです」

「そうか、だから今後も仲良くして欲しいと言いたいところだけど……それも、叶わないのかもしれない………」


 なんで……叶わないの?


 そう思った慎二は聞いてみる事にした。


「どうしてですか?」

「それはね、始めに言ったかもしれないが渚君には生まれつき病に侵されていたのが理由なんだよ、その病気の名前が……ウェルナー症候群という」


 鈴村は慎二に渚の病名を教えた。


「ウェルナー症候群……ですか?聞いた事が無いですね………」


 僕も未来を入れればかなり生きてるけど、そんな病気の名前は聞いた事が無いな。


「普通の人はわからないのが当たり前だと思うよ、普通に生活をしていたら聞かない病名たがらね。今からどんな病気なのか教えるよ……」


 鈴村はそう前置きを置くとウェルナー症候群について詳しく話してくれた。


 ウェルナー症候群とは1904年に見つかった稀な遺伝病だという、昔は近親婚も認められていた地域が多く、血縁が濃くなる人にその病気は現れやすかったという、最近では近親婚とかは関係なく発病している人もいるらしく未だに謎の奇病と言われている。


 ウェルナー症候群になってしまうとどうなるのかというと、何故か思春期を過ぎる頃に急速に老化が進み、20歳になった時には既に白髪になったり脱毛、両目の白内障、筋肉の衰えなどが引き起こるという。


 若いうちから老化が進む事により早い人では40代に悪性腫瘍や心筋梗塞で亡くなってしまう例が多いという、今は治療法の進歩で寿命が50歳〜60歳まで引き延ばされる人もいるが結局普通の人より早い段階で亡くなってしまうのだという。


「………これがウェルナー症候群についてだね……」


(そんな病気があるのか……でもまだ渚さんは21歳と言ってたはずだ、なら間に合うのでは無いか?)


 そう思ったから慎二は聞いてみた。


「まだ渚さんは20歳前後と聞きました、なら、今なら治療法も進歩していると言っていたので治る見込みがあるのでは無いのですか?」


 慎二は大丈夫だと思ったが……現実は思っていたよりも残酷だった。


「私も最初はそう思ったさ、なんとしても彼を助けたいと最善を尽くしたが治らなかった。それも渚君のウェルナー症候群は今までの人の例とは違かったんだ……老化の進行が早すぎた、普通だと思春期を迎えてから現れる症状が渚君の場合10歳の時に現れてしまった、それが原因で渚君の体の至る所に早い段階で悪性腫瘍が見つかり……気付いた時にはもう手が施せない状態になっていた………」


 悔しそうに話す鈴村に冗談だと思った慎二は聞いてみた……が。


「嘘……ですよね?」

「これが嘘だったら、どれだけ良かったか……神は不公平だ。今まで報われなかった人からあと、どれだけの物を奪えば気が済むんだと恨んださ……」


 鈴村はそういうと本当に悔しいのか目元に涙を溜めて、自分の不甲斐なさに押し潰されている様な顔をした。


 でも、それでも鈴村は話を続ける。


「だが、彼は、渚君はどうしても諦めなかった。自分が生きた証を残そうと動くのも生きるのも辛いのに今を彼は精一杯に生きようとしている……私はその姿を見て……普通だったら絶対安静なのに、彼の行動を私は止められなかったんだよ……」

「………恐らく僕が先生の立場だったら、同じ事をすると思います。だって頑張っている人をどうして止める事が出来るのか……」


 頑張っている人は報われて欲しい、たとえそれが何も意味をなさなくても………


 やって後悔するより、やらないで後悔するよりは断然良いのだから。



「君もそう言うか……だから、そんな優しい君だから渚君は心を開いたのかな……」

「そうだと……嬉しいです」

「私が話せるのはここまでだね、後は渚君に直接会って聞いてみてくれ……君ならきっと……どうか彼を最後まで1人にしないであげて欲しい」


 鈴村は頭を下げながらそう言ってきた。


「1人になんてするわけないじゃないですか、僕達は友達なんですから」

「………そうだったね」


 その後は、鈴村から渚が入院している部屋を教えてもらうとさっきまでいた部屋を後にして早速向かうことにした。


 正直慎二自身も渚の話を聞いてどうしたらいいか色々と考えていた、考えてたが結局何も良い案が出なかったので直接会って話す事にした。

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