第104話 再開と後悔①
◆
「へぇー、由比ヶ浜先生はこの頃帰省してなかったから雪達が宗一郎さん達の海の家を手伝っていたこと知らなかったんですね〜」
「そ…そうね……」
慎二はさっきの事が何もなかった様に千夏と話していた。
勿論顔中にタンコブやアザを作りながら。
(………えっ?あの後大丈夫だったかって?……ボコボコにされたよ?大丈夫、大丈夫、人は簡単には死なないからさ、多分!)
あの後は慎二の誤解が村上の冗談だったと言う事で無事解けたが、その時には見るも無残に慎二は千夏と雪の手によってボコボコにされていた。
その後は直ぐに千夏と雪は慎二に謝って来た、それを慎二は軽く許す事にした。
自分は一応何も悪くは無いと慎二自身も思っていたが、こんな事で関係が拗れてしまっても嫌だと思ったからだ。
なので今は普段通り話している、ちょっと千夏と雪の反応が鈍いが。
「この貝美味しいですね〜ほら、雪も食べなって、美味しいよ?」
「ん……それより、慎二、本当にさっきはごめんなさい………」
「いいって、あれぐらいじゃ僕は怒らないからさ、いつも通り話してくれた方が僕はいいかな?」
「………慎二がそれで良いなら…わかった」
雪は一応納得してくれたのか慎二に勧められた貝をモキュモキュと慎二の隣で食べていた。
そんな時、村上が慎二の近くに来ると謝まって来た。
「その〜前田?……さっきはごめんな?」
「………‥」
無言を貫く慎二。
「ほら、拗ねるなって、な?今度お前の言うこと何でも聞くからさ、俺も旅行でテンションが上がってたんだって!もうやらないからさ!」
(どの口が言う!……と普段なら言ってやりたかったが、今何でもやるって言ったよね?………なら)
いい事を聞いた慎二は内心悪い顔になりながら村上に向き直った。
「………わかった、こんな事で僕も許さないのは大人気なかったよ……でも何でも聞くって言ったよね?その約束は守ってもらうからね?」
「お、おう!男に二言は無いぜ!」
「うん、じゃあ明日お願いするね!」
「………結構早いな。まあ、早い方が忘れないからいいか……」
一瞬、村上は嫌そうな顔になったが、渋々了承してくれた。
(うん、きっと村上君は忘れない思い出になるよ……逆の意味で!)
慎二達はしっかりと皆元の状態に戻れた為、宗一郎達が用意してくれた料理に舌鼓をした。
宗一郎達と海の家で色々な話をして過ごしていたら、気付いたらかなり時間が経っていた、流石に長い間ほとんどの店員が1つの場所に集まってるのはまずいと思い今日は解散となった。
慎二達は同じ所に泊まっている為全員で帰ろうと思っていたが、慎二だけは明日の村上にやってもらう事の下準備があった為皆と別れる事にした。
その時に千夏に「道はわかる?」と聞かれたが、しっかりと覚えている為無事1人の時間が作れた。
そんな慎二は下を向きながら肩を震わせていた。
「………ふふふっ、はははっー!バカな村上君だ!僕をここまで追い込んだんだ、ただで終わらせる訳が無いじゃないか……明日が楽しみだよ!」
そう言った慎二は来る前に宗一郎から借りたサバイバルナイフを持ちながら歩道から離れてある物を探しに森の中に入っていった。
1時間ほど森の中を探索した慎二は御目当ての物が手に入った為、それを持っていた黒色のケースに入れて明日の村上の泣き叫ぶ顔を思い浮かべながら歩いていた。
そのまま宗一郎の家に帰ろうと思っていた慎二だったが、一昨日渚と出会ったテトラポッドの近くに女性が立っているのが何故か気になった。
もしかしたら渚の知り合いかもしれないと思い話しかける事にした。
「すみませーん、ちょっとお聞きしたい事があるのですが……今大丈夫ですか?」
「………私かしら?……別に大丈夫よ?」
「ありがとうございます!」
慎二に声をかけられた50代ぐらいの優しそうな女性は慎二の声に反応してくれた。
そんな女性に慎二は渚の事を聞いてみる。
「もし、知っていたらで宜しいのですが、以前ここで白髪の男性と会いまして今度また会おうと話していたのですが……結局会えなくて……何か知っていたら教えて欲しいのです」
「………白髪の男性……」
慎二に聞かれた女性は少し考えていたが、わかったのか顔を上げた。
「ああ、もしかして汐留君の事かしら?」
「そうです!渚さんと意気投合しまして今度会う約束をしていたのですが、全然会えなくて、それも連絡先を交換していなかった為連絡をする手段も無いのです」
「そうだったのね……でも珍しいわね、あの汐留君が心を開く子がいたなんて」
あの汐留君?何か言い方がおかしい様な………
少し女性の口振りが気になった慎二だったが、今は一旦渚が何処にいるかを聞いたみた。
「その、渚さんは今何処にいるか知ってますか?」
「………知ってるけど……教えるのはちょっと………」
「そこをなんとかお願い出来ませんか?この町で出来た初めての友達なんです!」
最初は言いたくなさそうな顔をしていた女性だったが、真剣にお願いしてくる慎二に負けたのか教えてくれる雰囲気になり。
「………そこまで言うなら教えるわよ、本当は人の事を簡単に教えちゃ駄目だけど、君はあの子の友達みたいだから特別よ?」
「あ、ありがとうございます!」
やった、何処に住んでるのかな?近かったらいつでも遊びに行けるし皆にも紹介出来るな!
慎二はそんな楽観的な考えをしていたが、目の前の女性の次の言葉でその考えが粉々に砕け散ってしまう。
「汐留君はね今、病院にいるのよ」
「………病院ですか?渚さんは何処か悪いのでしょうか?」
会った時は白髪以外に特に悪そうな所は無かったけど………
「聞いてないのね……いえ…友達になったあなたに直ぐに言えるはずが無いわよね、ここから先は汐留君に会ってあなた自身で聞いて見なさい。私の口からは言えないわ」
「わかりました……教えて頂き、ありがとうございました………」
慎二は女性と別れる前に渚がいる病院の行き方を聞き、直ぐ様向かう事にした。
「ここから渚さんがいる病院は近いけど……何か胸騒ぎがするんだ、早く行かないと!」
慎二はそう言うと千夏に帰るのが少し遅くなるかもしれないと連絡を入れてから教えてもらった方向に走り出した。
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