第93話 閑話 私達の青い鳥①
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これは私達がまだ慎二君と出会う前の話だ、私達は彼に、前田慎二君に助けられた。
「カフェ・ラッキーバード」のマスター馬場洋二はつい2ヶ月前の事を思い出していた。
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私は馬場洋二という、妻と2人で喫茶店を営んでいた、いたというと過去形に聞こえてしまうが始めは小さな喫茶店だったが、ある日このままじゃあ喫茶店を続けてはいけないと思った時ある少年が現れ、その少年との出会いで私達は救われた。
私と妻は25歳の時に出逢った、2人はウマが合いお互いに話す様な間柄になってから結婚するまではそう時間がかからなかったと思う、始めは2人共普通に働いていたが、いつか2人で喫茶店を経営したいと考えていてその為にも頑張っていた。
私達は子宝には恵まれなかったが50歳間近という時に念願の喫茶店を持つ事に成功した。
それからは色々な困難はあったが自分達なりによく喫茶店を経営出来ているのではと思っていた、近所ではあの喫茶店のコーヒーが美味しいと言われることもあり、長い年月美味しいコーヒーを入れる為に練習したのが功を成した瞬間だった。
だが楽しい日々も長くは続かなかった……ある日自分達が経営している喫茶店の近くに有名なカフェが出来てしまった、別に出来ただけなら良かったが、今までうちに来ていたお客がこぞってそのカフェに行ってしまったのだ、常連客は何名か通ってくれていたが、それ以外のお客は誰も入ることが無くなってしまった。
やはり人という生き物は流行には敏感な様でやれクレープやマカロンなど巷で有名な物が取り入れたお店が出来てしまうとそっちに行ってしまうのだ。
喫茶店の経営は楽しかったが、どうしてもお客がいなければ商売が出来ない、そもそもお客がいてこその商売なのにそのお客が誰も居ない状態でどうすれば良いというのか、一応自分達なりに人に呼びかけたりビラを作りはしたが特に変わらなかった。
いつしか昔あった喫茶店をやるという情熱は消え、もうこのお店を畳むしか無いかと思っていた時……ある少年がふらっと私達の喫茶店に入って来たのだ。
最初は近くにあるカフェとうちを間違えたのでは無いかと思い聞いてみたが。
「君、お店を間違えているのでは無いかい?」
「僕はこの喫茶店に入ったんですよ?あのカフェ?も良いかもしれませんが、やっぱりこういう落ち着くレトロな雰囲気な喫茶店の方が僕は良いと思うんですよね〜」
その少年はそんな事を言ってくれた、今時若い子がレトロな物を好きなのは珍しいと思ったが、そういう子もいるのかと思い、お客様はお客様なので注文を聞く事にした。
「お客様、注文はどうしますか?ちょっと今は経営状況が悪くてそちらのメニューにあるオリジナルコーヒーセットしかご用意出来ませんが……宜しいですか?」
正直今言った通り経営状況が悪くて1つのメニューしか出せない状況だった、このせいで今まで通ってくれた常連客も離れていってしまった。
なので、この少年も流石にメニュー1つじゃ出て行くかと思っていたが……
「全然大丈夫ですよ?僕はゆっくりこの喫茶店の雰囲気を眺めながら待つのでこちらのオリジナルコーヒーセットを1つお願いしますね!」
「は、はい!只今、用意しますので少々お待ち下さい」
私と妻は少年の言葉を聞き直ぐに用意をする為に取り掛かった。
正直嬉しかった、絶対に嫌な顔をされて店を出て行くばかりと思っていたのに、優しい笑顔を向けて私達を気遣う言葉を投げかけてくれたのだ、そんな少年に渾身の一杯を入れる為に今までの経験を生かしコーヒーを入れてホットサンドを作り、サラダを乗せあの少年の前に出した。
「お待たせ致しました、こちらがオリジナルコーヒーセットです」
「ありがとうございます、美味しそうですね、じゃあ頂きます」
少年がそう言うとまず初めにコーヒーの香りを嗅ぎ美味しそうに一口飲んだ、その状況を間近で見ていた私達に苦笑いを向けて来た。
「このコーヒー美味しいですね、何かほっとする気持ちになります、でもそんなに見られると少し恥ずかしくて飲みづらいですね……」
「も、申し訳ありません!久々のお客様なので反応が気になってしまい!」
「別に怒ってるわけとかでは無いですよ?だからそんなに謝らないで下さいよ」
笑いながら私達がやってしまった失礼な態度を軽く流してくれた。
その後は私達は厨房に行きバレない様に遠くから少年を見ていたが、本当に美味しそうにコーヒー、ホットサンド、サラダと平らげてくれた、もうお皿は空になっていたので回収をしにいく事にした。
「お客様、お済みのお皿は回収致しますね」
そう言い回収して戻ろうとしたが、少年に話しかけられた。
「本当に美味しかったです!また今度も来ますね!」
少年がそう言ってくれて嬉しかったが、その「また」がこれからあるかわからなかった為、正直にこの優しい少年に伝える事にした。
「お客様、そう言って頂けるのはありがたいのですが、先程も伝えた通りこの店は経営状況が悪く、お恥ずかしい話ですが近々に店を畳もうと思っています。なのでまたお客様が足を運んだ時には、もう……」
馬場は自分でもわかっていて口に出したが、考えていた事と口に出すのでは全く違く、悔しさが心から湧き出してしまいそれ以上喋れなくなってしまった。
「あなた………」
そんな洋二を妻も心配そうに見ていたが、店の経営状況を聞いた少年はこんな事を伝えて来た。
「そう…ですか……でも勿体ないですね、この味を、マスター達の優しさをこの空間を他の人が知らないままお店が無くなってしまうのは」
「すまないね……私達も色々やったのだけど、上手くいかなくてね……やっぱりいくら美味しいコーヒーや食べ物を作れても時代に追いついていけないね……」
「その、言い難いのですが、このお店は直ぐに畳んでしまうのですか?」
少年は洋二の話を聞いていたが、気になったのかこんな事を聞いて来た。
聞かれた洋二は「この子だったら教えてもいいか」と思い話す事にした。
「本当はこう言う話をお客さんにはしないけど、人もいないし君に教えるよ……恐らくあと数日で辞めてしまうだろうね」
「そうですか……話を聞かせて下さりありがとうございます」
少年は話を聞くと少し考え込む様に下を向いたと思うと小さな声でぶつぶつと言っていた。
何を言っていたのか聞こえなかったがどうしたのか聞こうとした時その少年は顔を上げたが、先程より顔付きが違っていた、上手くは言えないが先程まで人懐っこい顔をしていたはずなのに今は何かを決心したのか真剣な顔で洋二達を見てきていた。
「………どうかしたのかい?」
「決めました」
「ん?何をだい?」
何を決めたのかわからなかった為聞き返したが耳を疑う様な事を言ってきた。
「僕がこのお店を潰させない、美味しい料理がありこんなに居心地がいい場所はそんなにありません、なのに経営状況が悪いだけで辞めてしまうなど勿体無いじゃないですか?」
「だとしても、もう我々にはどうする事も出来ないんだよ……君にもわかるだろ?そう言ってもらえるだけで嬉しかったよ」
わかってる、そんなの何度も考えたさ、この少年は親切心で言ってくれてることが目を見ればわかるが、引き際という物が何処にでもある、それが今だっただけに過ぎないんだよ……
そんなことを考えている洋二に少し煽る様に少年は伝えて来た。
「もうマスター達は諦めているのですか?自分達が頑張って夢だったお店を持てたのに?ただ、経営状況が悪いだけで何もかもを終わりにするおつもりですか?」
「ーーーっ!」
少年の話を聞いた瞬間頭に血が上り「そんな事わかってる、他人の君が何も出来ないのに口を挟まないでくれ!」と言いそうになったが、言えなかった。
目の前の少年が今言った事は全て事実なのだから、でもこの心の奥底に無理やり押し込んだ気持ちが胸から溢れ出すのを止められなかった。
「なら、君は、こんな状況をどうにか出来ると言うのかい?無理だろう?……出来もしない事を言わないでくれ、頼むからもう放っておいてくれ……」
ついに言ってしまった……相手はお客様だ、なのに私はこんな言葉を口にしてしまった……この少年も私達の元から去っていくのかな………
そう思っていたが………
「………ありますよ?簡単な事です。このお店が昔の様に繁盛すれば良い、いや、昔より繁盛させる、その為の策なんて何個ももう思いついてますよ」
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