第92話 閑話 海の家前夜②


 棒読みで何故か下着姿の戸田が部室のソファーに座ってそんな事を言って来た。


「ちょっ、戸田さん!?なんで何も着てないの!」


 戸田の下着姿を見てしまった慎二は直ぐに明後日の方を向き聞いた。


「暑いから脱いだだけですよ?」


(脱いだだけって、それも全然恥ずかしそうにしてないし……)


「それにどうやって部室に入ったの?職員室に「ヒポット部」の鍵あったよ?」

「ああ、スペアキーですよ」


 戸田は当たり前のことの様に脱いでいた制服を着直すとその制服のポケットからスペアキーなる物を取り出すと慎二に見せて来た。


「勝手に作らないでよ……」

「別に作ってませんよ?元々ここの教室は鍵が2つあったみたいですよ?」


(………本当かなぁ?あまり疑うのも悪いからこの話は辞めとくか)


「わかった、そう言う事にしとくよ、それで、時間もそんなに無いから触るなら触って良いよ」


 慎二がそう言うと上に着ていたYシャツを捲ると戸田に腹筋が見える様にした。


「前田さんは中々大胆ですね、俺の腹筋を舐める様に見て触ってくれなんて、キャ!」


 戸田は態とらしく、それも恥ずかしそうに顔を手で覆っていた、指の間からガッツリと慎二の体は見ていたが。


「誰もそんな事言ってないわ!それに俺なんて言葉一切使ってないし……戸田さん巫山戯て無いで早くしてよね……」

「むう、つれないですね……じゃあお言葉に甘えまして、触らせて頂きますね」


 戸田は慣れている手付きで慎二の腹筋をさわさわと触り出した、慎二は少しくすぐったかったが少しの辛抱だと目を閉じて我慢していた。


 戸田が慎二の腹筋を触り出してから5分ほど経とうとしていた、流石に長く無いか?と慎二も思い目を開けたら……顔を真っ赤に染めた戸田が慎二の体を涎を垂らしてながら弄っていた。


「戸田さんその顔NG案件だよ!ほらもう十分触ったでしょ…だから…やめて……って力強!?」


 戸田を体から引き離そうとしたが想像以上の力の強さで慎二の腰辺りに抱きついて来て簡単に離れてくれなかった。


「まだ、まだ私は堪能してません!もっと!あなたの!体を隅々と!!」

「ヒィー!やめてそこ舐めないで……ちょっ………アッーーーー!?」


 大事な所は死守したが、男の尊厳を守れなかった様な気がして、燃え尽きた様に慎二は椅子に項垂れて座り込んでいた、逆に戸田は顔が艶々で、今日会った時より元気になっていた。


(女子って謎だわ………)


「十分堪能出来ました、これで明日からも戦えます!前田さん今日はありがとうございました」


(一体何と戦う気だよ……)


「まあ、喜んでもらって良かったよ……約束通り謎のメイドの正体はバラさないでね」

「それは当然です、約束を守りましょう、それではまたこんな機会が訪れる時を楽しみにしています」

「うん、機会があればね」


(もう絶対嫌だよ!)


「あっ、戸田さんスペアキーはどうするの?」

「しっかりと元あった職員室に戻しますよ?」

「それだったらどうせ僕も職員室に行くから一緒に返してくるよ、戸田さんは女の子なんだから遅くならないうちに早めに帰ったほうがいいよ」


 慎二は当然の事を言っただけだったが、戸田は違う捉え方をしていた。


「ふふっ、前田さんはそうやって女子に優しくしてるんですね?私は大丈夫ですが、そんな前田さんにころっといってしまう方もいるかもしれないから、そう言う言い回しは控えた方が良いですよ?」


(ん?別に普通の事を言っただけだけど……女子の戸田さんが言うならそうしとくか)


「あんまりわからないけど、今後はあまり言わないようにするよ」

「そうした方が良いですよ、突然後ろからブスッと刺されたら嫌ですもんね、ではこのスペアキーを一緒に戻しておいて下さいね」


 戸田は最後に不吉な事を言って去っていってしまった。


「はは、刺されるってそんなアニメみたいな事起こるわけ無いじゃん、戸田さんも冗談言うんだね」





 慎二は完全に冗談だと捉えて気にせずそのまま職員室に鍵を戻しに行った、その帰り道に以外な人物と遭遇した。


「あら、前田くん奇遇ね?今日は部活でもあったのかしら?」


 話しかけて来たのは風紀委員長の東雲真衣だった。


「東雲先輩こんちには、今日は部活では無くちょっと野暮用がありまして、さっき終わったので帰ろうとしていました、東雲先輩はパトロールですか?」

「そうね、夏で日も長いから暗くなる前に悪さをする生徒達が多いのよ、だから私達風紀委員で見回っているのよ」


 こんな暑い中本当にご苦労様です。


「そうなんですね、熱中症にならない様程々にしてくださいね……それと僕のペットの件事理事長に直接言って下さりありがとうございました!」

「しっかりと水分補給はしてるわ、お礼なんて別に良いわよ、貴方が言ってたでしょ?助け合いをしようってね、また何かあれば助けるわよ、その…ゆ……友人ですもの!」


 東雲は友人という言葉に慣れていないのか少し恥ずかしがっていたが前みたいに否定せず今回はしっかりと言ってくれた。


「そうでしたね……そうだ、あの時東雲先輩は直ぐに何処かへ行ってしまったから聞きそびれましたが、連絡先交換しときませんか?」


 そう言うと東雲はニターと悪そうな笑みを作り慎二を見て来た。


「あらあら、前田君ったら私の連絡先を知りたいのかしら〜?どうしても知りたいなら教えるけどなぁ?」

「その、教えて欲しいですが、嫌なら大丈夫ですよ?」


 慎二は東雲が連絡先を知られるのを嫌がってると捉えたのかそんな事を言った為、東雲は少し不機嫌になってしまった。


「もう!前田君は鈍ちんね、嫌なわけが無いでしょ、ほらスマホ貸して!」

「あっ、ちょっと!」


 慎二が連絡先を教えてもらおうと出していたスマホは東雲に取られてしまった、慣れた手付きで連絡先を交換すると慎二にスマホを返して来た。


「ほら、これで私といつでも連絡が取れるわよ!」

「ありがとうございます」


(中々強引だったけど、東雲先輩も連絡先を交換したかったんだね)


「あと前田君1つ言っておくとスマホのロック機能は付けといた方が良いわよ?今は私が勝手にスマホを見たからあまり言えないけど、見られたら嫌な情報とか、盗まれるのも軽減してくれるから」

「そうですかね?僕はそんなに見られても恥ずかしい事は無いので気にもしなかったですよ」

「はぁ、それはそうかもしれないけど、用心はしといた方が良いでしょ?」


(それもそうか、後で設定するかな)


「わかりました、でも東雲先輩だったら見られても全然良いですよ?」

「ば、バカな事言わないの!ほらもう時間も遅いから帰った、帰った!」

「わ、わかりましたよ」


 東雲は少し顔を赤くすると慎二の背中を押して強引に帰らせた、そんな東雲を不思議に思ってはいたが、自分も明日の準備の最終確認をしなくてはいけないので早めに帰る事にした。


「明日から6日間海の家でのアルバイトかぁ、なんでだろうなぁ、こういうのってなんでこう行く前とかこんなに楽しみになるのかな?……出来るだけ良い思い出になると良いなぁ〜」


 慎二はそう呟くと帰路についた。


 その後は明日どこに集まるか千夏から連絡が入り、家に帰ってからも持っていく荷物の最終確認をして早めに寝る事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る