第88話 高校とバカと下着泥棒と⑧


 雄二のそんな言葉を背に慎二は猫の元に向かった……慎二が少し近付くと何かに気が付いたのかさっきまでトランクスに夢中になっていた猫が慎二の顔を見て声を上げた。


「にゃ?」


(うわぁ〜こっちずっと見て来てるよ、近くで見ると結構可愛いな……でも油断はしないよ、いつ何をされるかわからないからね……)


 パンツを盗んだ野良猫はよく見たらかなり可愛かった、恐らくトラ猫と呼ばれる種類だとは思うが、少し汚れたブラウンの地色にブラックの縞模様が入っていて円な瞳で見てくる姿はとても魅力的だった。


 慎二と猫は一切その場から動く事なく見合っていた。


(これからどうしようか?声出して逃げられでもしたらまた探すのに大変だから今はこの猫に警戒されない様注意しないと……)


 慎二が心の中でそう思った直後さっきまで動く気配が無かった猫が突如慎二に向かってジャンプして来た。


 その行動を予測出来なかった慎二は情け無い悲鳴をあげてしまった。


「にゃーー!」

「うひぃぃーー!?」


 ジャンプした猫はその跳躍力で慎二の顔に張り付いて来た。張り付かれた慎二はその場で尻餅をついてしまい、このままじゃやられると警戒したが何も出来ない為目を瞑り危機が去るのを待っていたが……猫は何もやってくる事は無く、ただ、ただ慎二の顔を舐めていた。


「これ、どういう事なの?」

「ペロッ、ペロッ」


 猫に聞いても答えてくれるはずも無く慎二の顔を舐める音だけがしていた。


 そんな時間が5分ほど続きこの猫は自分に敵意を向けて来ていないと思い猫にトランクスの件を聞いてみる事にした、わからないと思うが……


「結構猫の舌ってざらざらしてるんだね、嫌じゃないけどくすぐったいな……ねぇ君はこのトランクスを盗んだのかな?」

「にゃにゃ?」


 慎二がどうせわからないだろうと思いながらもそう聞いたらさっきまで慎二の顔を舐めていた猫が舐めるのを辞めて慎二の言葉に反応した。


「えっと……わかるかなぁ、君が集めていたパンツ……この布切れを何処かから盗んだのかな?」

「………にゃ、にゃ!」


 慎二が近くに落ちていたトランクスを見せて聞くと猫は声に反応して頷いてくれた。


「理解…してるの?……じゃあ、この布切れ返してもらって良いかな?」 

「にゃ!」


 おお、頷いてくれたよ、この猫意外と賢いのでは?


「じゃあ、返してもらうね?、ごめんね騒がしくしちゃって、僕達はこのトランクスを返して貰えれば何もしないからね、ただ今後は盗まないで欲しいと助かるよ」

「にゃーー!」


 慎二の言葉に猫は体を伸ばすと大きく鳴き頷いてくれた。


「じゃあ僕はもう行くね」


 慎二はそう言うと盗まれていたトランクスを両手で持ち雄二達の元に戻ろうとしたが、、後ろから猫が付いて来てるような気がしたので振り向いたら……


「にゃっ?」


 案の定猫は慎二の後に付いてきていた。


「どうしようか、これ……」


 慎二が今の状況をどうするかその場で考えていたら様子を見ていた雄二達がもう大丈夫だと思い近づいて来た。


「なんかその猫付いて来てないか?」

「そうなんだよ……僕も分からないけど、トランクスは返してもらったよ後はこの猫をどうにかするかだね」


 雄二の言葉にそう返すと付いてきた猫の目線に合わせて顎の下を掻いてやる事にした。


「ごろ、ごろ♪」

「気持ち良いのかな?」


 猫は気持ち良さそうに目を細めると喉からごろごろ音を鳴らし仰向けに寝転がってしまった、慎二はチャンスだと思ってお腹を撫でていたら服部から話しかけられた。


「慎二君もしかしたらその子君に懐いたのかもしれないよ?さっきまで君のトランクスの匂いを嗅いでいたから君がその匂いの持ち主だと気付いたんじゃないかな?」

「僕に懐く?……流石にそんな上手い話あるかなぁ……」


 服部に言われた事を鵜呑みにせず猫本人に聞いてみる事にした。


「君は僕に懐いてるの?」

「うにゅーん!」


 慎二がそう聞くと仰向けになったまま甘えた声を出して返事をしてくれた。


「これは確定みたいだね、慎二君は1人暮らしだから飼えるんじゃないか?この猫も首輪とか付いていないから飼い猫とかでは無いと思うし」

「僕も飼いたいけど……どうしようか」


 慎二は少し考え込んでしまった、昔(27歳)から動物は飼いたいとは思っていたが嫌われていた為断念していたが、今は違う、飼おうと思えば飼えるけど慎二は今1人暮らしでは無いため一緒に住んでいる結菜達にも聞いてみないと駄目なのだ。


 もし結菜さん達が猫アレルギーとかだったらいきなり連れて行くのは悪いし……今直ぐは答えは出せないよね……


「………少し、考えるよ」

「今直ぐには難しいよね……でも出来るだけ早く決めてあげたほうがいいと思うよ」

「それはどうして?」

「今はまだ5時30分になるけどこんなにもまだ暑いからね、この先ももっと猛暑日は続くだろうから早めにと思ってね、野良猫だから大丈夫だとは思うけど」 


 そっか、この暑さはキツいよね……


 慎二と服部が猫をどうするか話し合っていたらいきなり村上が声を上げた為そちらを見てみた。


「おぉー?この猫メスじゃねぇか?」


 この子メスなのか……よく見たら男の象徴が無いね。


「なんだ村上いきなり声なんてあげて、お前は人間関係なく猫にも欲情するのか……」

「するか!違くてだな、前田は人間関係無くメスだったら何にでもモテるのかと思ってな……」


 モテる?これモテてるわけじゃなくて懐かれてるのでは?


「村上君、別に僕はモテてないけど……」

「………は?嘘つけ、だってお前「村上少し待て」……なんだよ木村?」


 慎二が変な事を言うから村上が何かを伝えようとしたら雄二に止められた、その後はまた慎二だけ除け者にされて雄二達は集まり話し合ってしまった。


「またこれか……良いもん僕には君がいるからね!」

「ふみゃ〜」


 慎二は雄二達がまた除け者にするから猫を撫で撫でして癒される事にした。


 その頃雄二達は………


(木村、前田から離れた場所に来てどうすんだよ?)

(ああ、ちゃんと理由がある、お前にも慎二について話しておこうと思ってな、まず初めに慎二はモテる……だがあいつはそれに気付いていない)

(はぁ?マジかよ……お前達は知ってるんだろ?前田に教えてやったりしないのか?)

(それはな……)


 雄二は村上にこの間慎二の恋愛の件で話し合った事、自分達は見届けるだけで変な事をしない事を決めたと話した。


(ふーん、まあ、俺達が横から何か言っても本人が気付かなくちゃ意味ないもんな〜でも、前田はモテるとは思っていたが想像以上だな、嫉妬すらしないレベルだし、逆に哀れに見えてくるぞ)

(まあ、そう言う事だ、だから俺達は何もしないってわけよ)

(理解したわ)


 雄二達は話がついたのか慎二の元に戻ってきた。


「雄二達は話が終わったんだね〜僕はチルに癒されてるよ〜なぁチル?」

「にゃーーお〜」


 慎二を見ると猫の耳の付け根の後ろを掻きながら緩んだ顔をしていた、それも何故か猫の名前を「チル」と呼んでいた。


「こっちは終わったが、大分その猫に骨抜きにされてるな……それも「チル」なんて名前付けて、どうすんだ?飼うのか?」

「うん、このまま放置するのも可愛そうだし飼う事に決めたよ」


 さっき雄二達が話し合っている時に結菜達に連絡を入れたら、皆猫のアレルギー無いって言ってたからね。


「そうか、大切に飼ってやれよ?」

「勿論!これからよろしくなチル?」

「にゃあっ!」


 慎二が猫改めてチルにそう聞くと元気に返事を返してくれた。


 時計を見たら6時に差し掛かっていた為他の部活が終わる前に慎二達は無事下着泥棒の犯人が見つかり盗まれたパンツも見つかった事を伝えに行った、その際に盗まれたパンツもしっかりと返す事が出来た、パンツを盗んだのが猫と知ったみんなは、猫ならしょうがないかとなり皆許してくれた。


「前田君達すごいね、こんな直ぐに事件を解決してしまうとは……君達に依頼して良かったよ」 


 慎二達は最後に依頼主の相川の元に訪れていた、今まであった経緯を話したらお礼を慎二達に言ってくれた。


「ありがとうございます、今回は皆が頑張ってくれたから直ぐに解決出来ました、また何か困りごととかあれば部室に顔出して下さいね!」

「うん、そうさせてもらうよ、本当にありがとうね!」


 そう言って慎二達は別れることにした、別れた後は自分達も今日は帰ろうとなったが由紀が慎二にチルの名前の由来を聞いてきた。


「慎二君、なんでその猫の名前を「チル」にしたの?別に変な名前じゃないけど、気になっちゃってさ……」

「ああ、それはね、猫のおやつにチャ○ちゅーるってあるじゃん?僕はあれを猫にあげたくて、そんな事を考えていたらちゅーる?……ちる?って連想しちゃってさ、つい口に出したらチルが反応してね、嬉しそうに鳴いたからこの名前に決めたんだ」

「そうなんだ、ちゅーるか、なんかわかる気がするな、動画とか上がってるよね〜僕もたまに見るけど可愛いよね」


 由紀は分かってくれるようだなあの可愛さを!


 その後は慎二と由紀がしていた話に雄二達ものってきたので話しながらそれぞれの帰路に着いた。

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