第62話 高校とバカと体育祭と②


 体育祭は始まりはしたがこれといって特に慎二達に出番は無かった。


 「あの先輩がカッコ良かった!」や「綱引きは俺達が勝てると思っていたのに!」など他の生徒の話が聞こえるだけで、特に何かが起きるわけでもなく体育祭は進んで行った。


「体育祭って結構暇だね〜もっと盛り上がるものだと僕は思っていたよ〜」


 慎二は暇過ぎてついつい口に出してしまった、周りの皆も思っている事は一緒のようで口々に言い出した。


「まあ、これはこれで良いんじゃないか?つまらん授業を聴いてるよりはマシだとは思うが」

「雄二君、君はわかっているね!授業など無くて良いんだよ、やったとしても何に使うのか……それにこの体育祭は見るだけでもとても目に良い……学生らしくて良いと思うよ!」


 またハトケンの奴変な事考えてるよ、、


「ハトケン君、授業嫌いだもんね〜なんか最後の方は本音というか心の声が漏れてた様な気がするけど……」

「それはわかる、ハトケンさっきから女子が競技で動く度にスマホで写真撮ってるもんね、それもう盗撮とかいうレベルじゃないと思うよ」

「ち、違う、これは記念にと思って撮ってるだけだよ?特に邪な感情などないさ!」


 「じゃあその鼻血を止めてから言え」と言いたかったがやめといた。


 いつもの事だから。


 そんなバカな事を話していたらさっきから女子にナンパ紛いの行為をしていた村上が慎二達の元にやって来た。


「お前ら暇そうだな、やる事が無くても俺みたいに探せば良いだろ?」

「とか言っててさっきから女子に振られまくってるじゃないか……」


 そう、さっきから可愛いと思った女子に村上は声をかけていたのだが誰も相手にされていなかった。


「ふ、ふん!今まで声をかけた女子は所詮男を見る目が無かったんだよ!」


 粋がっている村上を慎二達は白い目で見ていた。


「俺の話はどうでも良いんだよ!それよりもお前らさっきの生徒会長の走り込みの時揺れていた胸と由比ヶ浜先生のジャージを押し上げるはちきれんばかりの胸見たか?あれはたまらんかったな!」 

「………村上……そういう所だぞ?周りの女子を見て見ろ、全員ドン引きしてるだろうが」


 そんな雄二の言葉を聞いたからか、村上の発言が気持ち悪かったのか、周りにさっきまでいた女子はクモの子を散らすように自分の胸を隠すと逃げていった。


「あの女子達の侮蔑の目も堪らん」


 そんな村上の言葉に慎二達もドン引きしていた。


 いつかこいつは本当に何かをしでかすのではないかと。



『只今より1年女子リレーを始めます、走る方々は指定の位置まで集まって下さい!』


 そうこうしている内に生徒会の愛田さんの放送が流れた。


 「F」クラスは女子が2人しかいない為美波と優奈が走る事になっている。


「おっ、丁度今から吉野と悠木が走るみたいだな、慎二、手でも振ってやれよきっと喜ぶぞ?」

「そんな事はないと思うけど……」


 雄二がふざけて慎二にそんな事を言って来た。


 喜ぶとは到底思えなかったが一応友達だし手を振ってみる事にした。


 慎二が手を振っている事に気付いたのか優奈は少し恥ずかしげに胸の前で手を振り、美波は「任せろ!」と言うように親指を上に向けて来た。


「な?喜んでるから良かっただろ?」

「ううーん?喜んでいるかは分からないけど気付いてくれて良かったよ」


 喜んでくれたというか友達だから対応をしてくれただけだと思うんだけど……


 そんな話をしていたら走る準備が整ったらしく女子達が走り出した。


『おおーと、1年「F」クラスの吉野さん早い、早すぎる!他の人の追随を許さんと言わんばかりの走り込みだー!』


 5人で走る事になっていたが、結果は美波が1位でそのまま終わると思ったその時。


『凄い!吉野さんはまさに何も「抵抗」が無いようにゴールしたー!』


「ふっ」


 司会の愛田の放送を聴き、慎二は抵抗が無い=美波の胸が無いから速いと連想してしまい少し笑っただけだった。


 でもそれがいけなかった。


『おおっーと?これはどういう事だー?吉野さんはゴールのテープを切ったはずなのにそのまま走り続けてる!その先は………1年「F」クラスの待機場所だ!』


 司会の愛田が話したあと、美波がこっちに向かって来てる様な感じがした。


「………ん?なんか……吉野さんがこっちに走って来てる感じがするんだけど、雄二はどう思う?」

「………‥」

「雄二?……」


 聞いてみたが何も反応が無かったのでさっきまで隣にいた雄二を見たら……いなかった。


 というか慎二以外誰もいなくなっていた。


「………嘘でしょ?……いや流石に僕の所に来る分けあったわー!?」


 既に美波が憤怒の表情で自分に向けて走って来てるのがわかった。


「慎二ーーーー!○す!」

「ちょ、何も言ってないじゃん!?」


 そんな事を言っても聞いてくれるわけが無く……


「わかった!こうしようじゃないか?何でも言う事を聞こう、どうだい?魅力的でぐでばっ!?」


 最後まで言わせてくれず慎二の顎に向けて助走の入ったドロップキックをお見舞いして来た。


「アンタが私の言う事を聞く事なんて当然でしょこのカス!それに私の何かを見て笑ってたのは見えてんのよ!」


 何さこの子口悪!それも目良すぎじゃない?


「ま、まあ?当然かは分からないけど今度時間があったらね……それに何も笑ってないさ」

「………本当でしょうねぇ?」


 美波は慎二の言葉に不審がっていたが、信じてみようと思っていた。


 慎二自身もそんな美波の様子を見て「言い訳でこの状況を乗り越えられる!」と思ったのか、希望が見えてきたのでそのまま無かったことにしようとしたが。


 現実はそんなに甘く無く。


「吉野、前田の話を聞く前にまずはこの録音を聞け。これを聞けばある人物の本音が聞けるぞ?」


 何故か村上が近づいて来てそんな事を美波に言うと、持っていた録音機をかざして来た。


 そこから流れてきた内容は……


『………なんだあの吉野さんの胸、まるでまな板だな!草生えるんですけど!お前の胸なんて洗濯板にしか使えないわ!』


 という、誰かが美波の悪口を言っている録音の内容だった。


 その声は何処となく慎二の声質に似ていた。


 ま、まさか!!村上貴様、さっき女子が見向きもしなかったから腹いせにそんな事をするのか!


 その録音を僕が言っていたと捏造する気か!


 直ぐに村上の陰謀だと気付いた慎二は美波にその事を伝えようとした。


「待って!これは陰謀だよ!その録音僕の声じゃ…ぐぇーー!?首…そっちに曲がらない……から!」


 が、美波の方が一歩動きが速く、慎二は首を締められてしまった。


「そう、そうだったのね!慎二は私の胸がまな板にしか見えなかったって言うのね!?」


 全然僕の話聞いてくれないじゃん!待って死ぬ!本当に死ぬから!?


 そんな時、村上が助け舟を出して来た。


「まあ、吉野、それぐらいにしとけよ?後は俺らで教育しとくからさ、走って疲れてるだろ?少し休めよ?」

「………それもそうね、こんなバカの相手なんてしてる暇なんて無かったわ……ふん!」

「ぐえっ!?」


 そう言うと美波は慎二に腹パンを1発入れて飲み物を飲みに行くためにその場を去っていった。


 理不尽過ぎない?


 ダメージが抜けない慎二は地面に寝っ転がりながら今の出来事を考えたいた。


 そしたら、今回慎二を嵌めた張本人がニヤニヤと笑いながら話しかけてきた。


「どうだ前田?お前が女子とイチャイチャするからこうなるんだ、俺達はいつでも見ているからな?」


 そう言って来た村上に何か言い返そうかと思ってたが、周りを見たら「F」クラスのクラスメイトがいて「ザマァ!!」とでも言いたそうにニヤニヤと慎二を見ていた。


「先生ー!ここでいじめが起きてます!」


 そんな事を校庭中に聞こえるぐらいの大声で叫ぶのだった。

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