第48話 高校とバカとヒーローと①





・雄二&由紀サイド


 少し時間は遡り慎二が桜田警察署に向かっている頃、雄二と由紀は指定されていた駅の路地に「女装」姿で来ていた。


「まったくこれで本当に誘拐犯が来なかったら慎二をどうしてやろうか……由紀の方はどうだ?「女装」は慣れたか?」


 雄二は気になって自分と同じ「女装」姿になっている友人にそう聞いてみた。


「そんな簡単に慣れるわけないよ……思っていた以上にスースーするし、僕達今下着も女性物付けてるじゃん?これって意味あるのかなぁ……」


 雄二と由紀はさっき慎二に言われた事を思い出していた。


 自分達は初め男性物の下着を付けていたが、慎二がいきなり「バレたらどうするのさ!」と言って何故か吉野達が持って来ていた女性物の下着を付けさせられた。


「………止めようこの話は考えない様にするぞ、頭がおかしくなりそうだ」

「そうだね……」


 そんな話をしていた雄二と由紀は今何時なのかとスマホで時間を確認したら、丁度6時30分になっていた。


 「本当に誘拐犯が来るのか?」と再度思い始めた時、遠くから黒のバンが雄二達に向かって来た。


「おいおい、本当に来たぞ!由紀、あの車が誘拐犯の物だったら手筈通りに行くぞ!」

「わかってるよ雄二君!」


 話を少ししていたら、本当に自分達の目の前に車が止まった。


 中から大人が2人出て来て雄二達に何も言わさず無理やり車の中に押し込んできた、その際雄二と由紀は少し抵抗したが直ぐに辞めて車の中に押し込まれた。


 車は雄二達を載せてそのまま走り出した。


(一応今の所は慎二が言ってた通りになったな、この後は犯人のアジト?に行くんだよな……俺は声を出したら1発でバレると思うから交渉とかあったら由紀に任せるしかないか)


 そう思い雄二は由紀にアイコンタクトをとった、由紀も気付いてくれた様で小さく頷いた。


 そんな事を雄二達はやっていたら、今まで一言も喋らなかった誘拐犯達は雄二達について話し出した。


「今日は運がついてるな、こんないい獲物が入るとは……「田村」さんに褒められるな!」

「今はあまり喋るな、いくら今日捕まえた女達が「商品」だからと言っても外に広められたら厄介だ」

「わかってるわ!」


 そんな事を男達は話していた。


(今「田村」って言ってたよね?慎二君が言ってた名前と一緒だ、それに僕らの事を「商品」か……他にも捕まってる人がいたら助けてあげないと……)


 由紀はそんな事を思い、雄二は今どんな気持ちなのか見てみたら今でも誘拐犯に飛びつきそうな顔をしていた。


(クソが!俺達はわざと捕まってるが本当に色んな女性が捕まってるんだもんな、辞めさせたいが今動いても何も出来ないからな……)


 雄二と由紀は何も出来ない状況に自分達の不甲斐なさを痛感していた。


 そのまま30分ぐらい車に揺られ、ようやく目的地に着いたのか車が止まり男達に「早く出ろ!」と言われ車の外に出された。


 周りを見回して見たら林に覆われている廃ビルが何軒か建っているのがわかった。


 その中の1つに雄二達は案内された。


「ここが今日からお前達が住む場所だ、お前達は「商品」としてこれから売られる事になるから手は出されないと思うが、下手な真似は起こすなよ?まあ何かやっても地獄を見るだけだと思うがな」


 そう男は言って雄二達を廃ビルの中にある独房みたいな場所に押し込んで入れた。


 しっかりと雄二と由紀が入ったのを確認したら鍵を閉めて男達は何処かへ行ってしまった。


 その光景を見ていた雄二達は男達が視界から居なくなったのを確認して独房内を確認する事にした。


 独房内には年齢は別々だが沢山の女性達がいた、その女性達の殆どに共通する事が目に生気が見れない事だ、ここにいる人達は助けなど来ないと絶望しているのだ。


(想像以上だな……慎二にじっとしてろとは言われたが……何か行動を起こしたいが俺にはこの状況を覆す様な事が出来ねぇ、早く来てくれよ慎二……)


 雄二は自分に今出来る事は慎二を待つ事だと思い、直ぐにでも動ける様にじっと待つ事にした。


(これは……予想以上だよ、あんなに小さな子まで捕まっているのか!それに泣いているじゃないか!)


 由紀が独房の中を見て思った事が、小学生低学年ぐらいの少女までもが捕まって親と離れ離れになってしまったからか泣いている事だった。


 その光景を見て何かしなくちゃと思い少女の元まで向かった。


(泣いてる女の子の元に来たは良いけどなんて声をかければ良いだろうか……)


 そんな事を由紀が考えていたらある女性から声をかけられた。


「貴方達がさっきこの独房みたいな場所に入れられた女の子達よね?……いきなり声をかけてごめんなさいね、私は工藤静香と言うの、よかったら貴方達の名前を教えてくれないかしら?」


 そんな事を言われた由紀は喋っても大丈夫かな?と思ったけど、今は「女装」をしているから大丈夫かと思い自分も返事をする事にした。


「私は木之下由紀と言います。一緒に捕まった子が私の友達の木村優子ちゃんです、ちょっと優子ちゃんはこの状況にまだ慣れていないのか怯えてるので私が受け答えしますね」


(ナイス由紀!俺は喋ったらアウトだからなその設定で慎二が来るまで通して欲しいわ……ただ、言いたい事もある。偶々だと思うが今由紀が言った偽名が俺の母さんの名前だわ……)


 雄二が由紀のファインプレーに助かったと思いながらも複雑な気分になっていた時。


 話しかけて来た女性が申し訳なさそうに伝えてきた。


「ごめんなさいね、そうよね捕まった直ぐですものね、配慮が足りなかったわ」

「私も優子ちゃんも大丈夫ですよ、それより聞きたいことがあるのですが、ここにいる人達は逃げ出そうとか助けが来るとか思っていないんでしょうか?工藤さん以外の殆どの人がこの状況に何処か諦めている感じがするのですが……」


 由紀は気になった事を目の前の女性、工藤に聞いてみる事にした。


「ああ、その事だけどね私も含めて捕まっていた人は初めは逃げ出せるチャンスも助けに来てくれる人もいると思っていたの、でもねここ1週間何も無かった、私達が見ていたのは目の前で誰とも知らない男に買われていく女性を見る事だけだったの」

「ーーーッ!……そんな事があったのですね」

「それにね、私達の中でもここから逃げ出そうと計画を立てていた勇気ある女性がいたのよ、でもね、その女性はここの代表の「田村亮二」に逃げ出そうとしているのが見つかり、拳銃で撃たれて亡くなってしまったの、そこからはもう何も行動を起こす人なんて現れなかったわ」

「なっ!拳銃ですか!?そんな物日本人が普通に手に入る物じゃありませんよね……それに人が亡くなってるんですね……」


 思っていた以上の危機的状況に由紀は何も言えなくなってしまった。


(拳銃だと!?おいおい慎二の奴大丈夫か?流石に拳銃の事は知らないだろうし何かで知らせたいが、さっきここに入れられた時スマホを取られたしな……スプレーは小さかったから見つからなかったみたいだが……でも「田村亮二」がここの代表って事は慎二が言ってた通り、ここ最近起きていた誘拐犯達で確定みたいだな)


 拳銃と聞いて雄二と由紀はそれぞれどうするか考えていた。


「そうね法律で拳銃なんて普通の人は持ってはいけないのよ、でもね「田村亮二」はかなり裏の世界と繋がっているらしくてそこで拳銃を手に入れたみたいなのよ、だから貴方達も妙な真似はしない方が良いわよ?」 


 そう工藤に言われたが助けに来てくれる人がいると言おうとした時、先程の男達ともう1人装着品を沢山付けている男が独房に近づいて来た。


「ヘェ〜かなり上物を捕まえて来たじゃんお前ら!これは売れるねぇ!」

「ですよね!「田村」さん俺達だってやる時はやるんですよ!」


 そんな事を言い合い上機嫌に雄二と由紀を見に来ていた。


 恐らくこの男が「田村亮二」だろうと思っていたがまだ慎二は来ていないだろうから何もしなければ直ぐに何処かへ行くと思い2人はジッとしていた。


 本当に雄二達を見に来ただけみたいで直ぐに帰って行くと思っていた時、それは起きた。さっき由紀が泣いている子がいると言っていた子がこの状況に耐えられなくなったのか大声で泣き出してしまったのだ、それも「田村亮二」が見に来ているという最悪なタイミングでだ。


 雄二と由紀は直ぐ動き泣いている女の子の元に行こうとしたが、「田村亮二」の苛ついた言葉が聞こえた為動けなくなってしまった


「おいおい、ウルセェなぁ〜早くそのガキ泣き止ませろ!そのガキが泣き止まなくちゃ連帯責任でここの全員処分するぞ!?」


 そんな事を言ってきた為、雄二達は少女を何とかして泣き止まそうとしたが一向に泣き止まなかった。


「はぁーーーもう良いよ、そのガキは俺が殺すから、今の状況もわからないガキなんていても意味ないしな!」


 自分で誘拐しといて「田村亮二」は理不尽な事を言いだすと、今直ぐにでも持っている拳銃で少女を殺そうとした。

 

 その時、雄二と由紀が少女を庇った。


「君達何してるの?いくら君達が可愛くてもそんなガキを庇うんだったら一緒に殺すよ?変えは捕まえてくれば幾らでもいるんだから、もっとお利口に生きないとこの業界は生きられないよ?」


 そんな事を「田村亮二」は苛つきながら雄二達に行っていたが、そんな声は聞こえないと言うように由紀が泣いてる少女の目線まで屈むと優しく声をかけた。


「君、大丈夫?……いや泣いているんだから大丈夫じゃないよね、私の名前は由紀って言うんだ、君の名前を教えてもらえるかな?」


 優しく聞いてくる由紀に少し泣き止んだ少女は顔を向けて少しずつ喋り出した。


「………グスッ…私の名前は……恵奈って言うの、お母さんとお出掛けしていて気づいたらここにいて……もうお母さんと会えないの?」

「恵奈ちゃんって言うんだね!ちゃんとこの状況で名前が言えて偉いね!それに大丈夫だよ?必ず、絶対、君はまたお母さんと会える。だって……僕達を「ヒーロー」が助けに来てくれるんだからね!」


 由紀は少女にそんな事を言った。


 周りで聞いていた女性達は「そんなものがいるわけがない」と、思っていた。


 ただ、この場だけ凌ごうとこの少女は妄想を話しているだけかと思っていだが、聞いていた少女は違かった。


「本当?「ヒーロー」さんが私達を助けに来てくれるの?」


 さっきまでの泣き顔が嘘の様に、「ヒーロー」と聞いた瞬間、顔を輝かすと由紀に聞いてきた。


 そんな少女に笑顔を絶やす事なく向けながら、安心させる様に由紀は伝えた。


「うん、本当さ。その人はね「僕」の友達でとても頼りになるんだ、いつも無理難題を必ず解決してしまうんだ、それにね彼は助けを求めている人は悪人以外は誰だろうと救ってみせんるんだ、だから安心してよ!」

「分かった!お姉ちゃんのこと信じる!」


 少女、恵奈が由紀にそう言った時。


 さっきまで自分を無視している由紀に「ギャーギャー」と言っていた「田村亮二」達だったが少し違和感を覚えた。


 今までこの由紀と言う少女は自分の事を「私」と言っていた筈が「ヒーロー」が来ると言った時には「僕」と言っていたのだ。


 だが気付くのが少し遅かった、もうその「ヒーロー」は直ぐ近くに来ているのだから。


「たっくよう、遅いんだよこっちはずっと喋れなくて待ちくたびれたわ、でもしっかりと約束を守ってくれたみたいだな慎二!」


 今まで怯えてて何も喋れないと思っていた長身の少女は「男」の声で喋り出したのだ。


 もう自分が我慢している事はない、だってもう慎二が来ているのだから。


 雄二の声を聴き、捕まえた女達は「男」だと「田村亮二」達も気づき出した。


「お、お前ら、男だったのか!?おい、なんでしっかりと調べなかった!後でどうなるか分かっているんだろうな?」

「男なんて気づかなかったんですよ!?」


 そんな事を「田村亮二」達は仲間割れのように罵りあっていたが、ここでは不釣り合いなバカにした様な声が直ぐ近くから聴こえた。


「やあやあ!どうだい犯罪者諸君?今日も元気に暮らしてるかい?まあもうその生活もおさらばだけどね!本物の独房の中にこれから入るんだからな!」


 と、無防備にも部屋の真ん中で両手を前に出して陣取っている慎二の姿があった。

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