第40話 高校とバカと救い




 少し歩くと由比ヶ浜先生の家に着いたのか、足を止めた。


「ここが私が住んでいるマンションだよ!」

「へぇー、かなり大きいマンションに住んでいるんですね」


 そんな事を慎二に言われた由比ヶ浜先生は、少し苦笑いをしていた。


「………本当はね私も家賃が安いアパートに住もうと思ったんだけど、1人暮らしをするならセキュリティがしっかりしてる所の方が良いって勝手に両親が契約しちゃってね」


 先生の親御さんは娘思いらしいね。


「良い事じゃないですか?由比ヶ浜さんみたいな綺麗な人が1人で住むならやっぱりセキュリティは大事ですよ」

「もう、また前田君はそんな事を言って!ほら、もう私の部屋に行くよ!」


 そんな事を顔を赤くしながら言う先生の姿を見て、「他の人にもかなり言われるでしょ?何照れてるのさ」と思いながらも無言で先生の後ろに着いて行く。


「ここが私の部屋だよ!ちょっと散らかってるかも知れないけど気にしないでね!」


 いや気にするよ、変な物が落ちててそんな物見てしまったら後で何言われるかわからないじゃないか、そんな事を慎二は思っていたが、先生がそれで良いならもう自分は何も言うまいと部屋に入る事にした。


 部屋に案内された慎二は部屋の中を見回していた。


 あまり物を置いていない部屋だったので少し不思議に思っていたら、話しかけられた。


「それで?何か私に聞きたかったんでしょ?何でも相談して良いよ!」


 「何でも」と言う言葉には反応せずに自分の聞きたい事を説明する事にした。


「その、僕達は「人助」を目的とした「部活」を作ろうとしているんですが、「顧問」の先生がまだ決まっていなくて、もし由比ヶ浜さんが手が空いていて、尚且つまだ何処の「部活」の「顧問」にもなっていなかったらお願いしたいのですが、どうですか?」


 慎二の話を聞いていた由比ヶ浜先生は申し訳なさそうな表情を作った。


「ごめんね!こんな所まで連れてきて断るのは申し訳ないんだけど……私にもちょっと事情があって今はあまり動けないの、それが解決したらで良いなら良いんだけど……いつ解決するか分からなくてね」


 先生にも色々あるもんね、これは他の先生に当たった方が良いかもね。


 でも……なんか由比ヶ浜先生の話がどうも気になるんだよね?久々に使うか……


「スイッチオン」


 何かが気になった慎二は「真実の目」の合図の言葉を紡いだ。


 小声で唱えたら……


(これはアタリかな?)


 慎二は由比ヶ浜先生が何か悩んでいるのでは無いかと思い「真実の目」の力で由比ヶ浜先生を「見て」みたら赤く光出したのだ、それも悩んでいる事!と考えて先生の事を「見たら」こう出た。


{両親の借金があり 好きでも無い男と婚約させられてる}


 悩みごとは出た為、解決方法を「見て」みた。


{相手の悪事を暴き借金を帳消しにする 「慎二」が婚約破棄をさせる}


 前回とは少し違うパターンで出てきた。


 なんか、僕が婚約破棄する事になってるんだけど……なんで名指しなのさ「真実の目」!?


 ………ま…まあ?内容は分かったから聞いてみるか。


「由比ヶ浜さんわかりました「部活」の件は落ち着いてからで良いです、ただ、逆に僕が聞きたい事があるのですが、由比ヶ浜さんはこの頃何か悩んでいませんか?さっき言ったように僕は「人助」を目的とした「部活」を作ろうとしているように何か悩んでいる人がいるならその人を助けたい、誰かに相談するだけでも安心する物ですよ?」

「悩みはあるけど……でも、前田君は「生徒」だし流石に私の事情に関係ない人を巻き込む訳にはいかないの」


 先生は優しいな、僕を巻き込まない為に言ってくれてるのがわかる、でもね、助けられる人が目の前にいて動かないのは僕じゃない。


「由比ヶ浜さん言っていたじゃないですか?ここはもう「高校じゃないから生徒と先生では無いと」……なら知り合いの人間が貴女を助けようとしているだけです。それに人を助けるのに理由なんていらないでしょ?やるかやらないか、その二択です」


 その言葉を慎二が言った時、本当に自分の事を真剣に助ける為に考えているのだと由比ヶ浜先生は感じたのか、、今まで悩んでいた事を教えてくれた。


「………と、こんな事があって本当は大の大人が前田君みたいな学生に話すのなんて恥ずかしい事だけど、前田君の言葉を「信じて」見ようと思ったらスラスラ口から出て話しちゃったよ」


 由比ヶ浜さんが話してくれた内容はこうだった、御両親は会社を経営しているそうだがそれがあまり軌道に乗っていない時期がありどうするか悩んでいたそうだ。


 そこにつけ込むように「田村亮二」と言う男が近寄ってきて「困っているようならお金を貸しますよ?」と言ってきたようだが、流石に見ず知らずの男性にお金を借りる事は出来ないと御両親はその話を断った。


 だが、日に日に苦しくなって来る状況に御両親は折れてしまい、お金を借金するという形で契約書を書き借りてしまった。


 初めは「利子もそんなに付けないで期間も設けてませんからいつでも返してくれたら良いですよ」と優しく対応してくれた為「信頼」していた、御両親の会社も段々と持ち越してきてお金を返そうと思ったその時「田村亮二」は本性を現した。 


 「そんなお金じゃ足りるわけがない」と言ってきた。御両親が持ってきていたお金は当初借りたお金と寸分の狂いもないはずなのにだ、御両親も「それはおかしい!?」と反論したそうだが「貴方達がしっかりと契約書を読まないから悪い、良く見て下さいよ?ここに利子はこちらの良い値でつける事と書いてあるでしょ」と言われてしまった。


 良くしっかりと見てみたら、目を凝らさなくては見えないような小さな字で書かれていた。


 御両親が唖然としている中、「田村亮二」は尚も窮地に立たせてきた、「それに初め利子もそんなに付けないと言っただけで、貴方達があの時いくら利子が付くのか聞いて来なかった事が悪い。世の中そんなに甘い話がある訳ないでしょ?」と、笑いながら話していたそうだ。


 ただ、ある条件を飲めば当初のお金だけで済ませると言ってきた、その時に出た言葉が「貴方方の娘を私の婚約者にしてくれれば言い」と言ってきた。


 「田村亮二」の本当の目的は由比ヶ浜さんを手に入れる事だったのだ。


 御両親は由比ヶ浜さんと相談して苦渋の決断だが「今は」一応婚約者とする事にした、その話を聞いた「田村亮二」は「別にそれでいい最後に手にはいればこちらの勝ちだ」と言い、取り引きは成立してその場は落ち着いた。


 今、由比ヶ浜先生が1人暮らしをしている理由も少しでも「田村亮二」と離れられればと思った為らしい。


「………そんな事が、そんなの詐欺というか、騙されただけじゃないですか?」


 「見た」けどそんなにも最悪な状況だとは思っていなかった。


 でも、まだ間に合うかもしれない、だって解決方法が僕が「婚約破棄をさせる」という事になっているのだから。


 僕がこの話に関わった時点で解決する「未来」は決まっているのだから。


「そうだね、騙されてもいたしこれは詐欺かもしれないの、でもね、もう契約書に書いてしまったことは何かが起きない限り簡単に覆す事は出来ないの」


 何かが起きない限りか、そんなの簡単じゃないか、僕が動けば良い。


「それにこんな事、前田君じゃ解決出来ないでしょ?話を聞いてくれたのは嬉しいけど後は何とか自分でしてみるよ、大丈夫、もし結婚する事になっても二回りぐらいしか年齢は違い無いし…無いし……」


 強がりを見せながらも、由比ヶ浜先生は泣きそうな、どうしようもない様な表情になってしまった。


 そんな表情を見た慎二は。


 そんな諦めたような顔をしないで下さいよ……でも自分でもわかっているんですね……このままじゃ「田村亮二」と結婚してしまうと、まだ先生は僕の「未来」の時よりも若いんだ、そんな誰にも祝福されない結婚なんて合って良いはずがない。


 考えが纏まった慎二の動きは早かった。


「由比ヶ浜さん、僕がこの状況を覆せると言ったらどうします?別に「信じて」欲しいなどと言うつもりはありません。現に裏切られてるのだから、僕はね、どんな困難があろうと諦めない、諦らめきれない、生意気なガキと思うかもしれないけど関わらないでと言うかもしれないけど僕は辞めない。だって、目の前に助けを求めている人がいるんだから」


 由比ヶ浜先生と真剣に向き合うと、そう伝えた。


「駄目よ!私に関わったら、前田君まで巻き込まれる可能性もあるのよ!?お願いだから……無茶な事はしないで!」


 そんな事を慎二の身を思ったか言っているが、由比ヶ浜先生は言葉とは反して泣いていた。


「じゃあ、なんで泣いているんですか?なんで助けて欲しいような「目」をしているんですか?……助けて欲しいなら、ただ「助けて」と言えば良いんですよ。それだけで貴方を助ける理由になる」


 そんなクズのような奴にこんな優しい先生が良いように扱われるなどあってはいけない事だ、だがら僕が必ず助けになってみせる。


「………なら…助けて……助けてよ!両親でも、他の人でも、駄目だった。もう頼れる人が誰も…いないの……」


 由比ヶ浜先生は今までに貯めていた想いを全て放出する様に慎二に伝えた。


 その想いを慎二はしっかりと汲み取る。


「その想い、しかと受け取りました。それに大丈夫、貴女は必ず僕が助けますから」


 助けると決めた慎二の目はやる気に満ちていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る