第5話 怠惰の力

 アメリカに飛行機で向かった桜夜たちだったが、その旅路は楽なものではなかった。まず飛行機がアメリカの領空に入った途端、操縦士たちが意識を失ったのだ。いや意識を失ったというよりは操縦する意欲を失ったといった方がより正しい。桜夜は舌打ちをすると操縦室に入って操縦桿を握った。そしてどうにかこうにか、空港に不時着することができた。しかしその空港は異様だった。空港には離陸するはずの飛行機が残されていた。中を覗いてみると全員放心状態だった。空港内も異様で誰も仕事をしておらず、パスポートを見せることもなく入国できてしまった。人はいる。だが何もしていない。まさに“怠惰”だった。アメリカに降り立った桜夜たちも、何とはなしに倦怠感を感じていた。


「空港に迎えが来ているはずだが……」


「来てないね」


「タクシーは……」


「見当たりませんね」


 桜夜、サイカ、リオはため息を吐いた。電話もつながらないし、手のほどこしようがない。


「仕様がない。拠点に行って待機するしかない。向こうは僕に恨みを持っているんだ。近くにいるとわかれば……」


 そう話している間にサイカとリオが倒れた。


「おい……!」


 桜夜がすぐに脈を診てみると正常だった。幸い頭も打っていない。しかし目は虚ろで、怠惰の力に飲まれてしまった。彼があたりを見回すと熊の毛皮を被り、片刃の剣を持った男が近づいてきていた。その男が近づくにつれ、倦怠感が強まっていく。鳳凰の神聖な神通力を身体に流すことでその倦怠感に対抗しながら、桜夜は男に声をかけた。


「お前が、“怠惰”か?」


 男は返事をするのもおっくうそうに剣を振り上げると桜夜に切りかかって来た。桜夜はそれを鳳凰の神通力で受け止め、弾き飛ばす。剣をのろのろと取りに行こうとする男に対して、桜夜は桜吹雪を取り出し、容赦なくその刀身で男の身体を貫いた。男は獣のような叫びを上げながら口から黒い何かを吐き出し、それは1つのカタチをなしていく。


「おいおい……デミウルゴスの力で地獄からよみがえったのかよ」


 桜夜の目の前にはあれだけ苦労して倒した、“フェニキア”が、いた。


to be continued

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