第3話 夏休み2日目
翌日。体調の戻った一同は、海に繰り出していた。かつて鷹司が所有していたプライベートビーチにパラソルを立てたのは昨日同様、海パンにアロハシャツ姿の桜夜だった。サイカはパレオ付きの黄色の水着、リオはその抜群のプロポーションを惜しげもなく晒す青のビキニ、あずさは子ども用のかわいらしい水着を着ていた。そして水が苦手なホムラはぶすっとした顔でTシャツ、短パン姿だった。彼女は桜夜がパラソルを立てるとその日陰で寝転がる。その横に桜夜が座る。
「ホムラちゃん、泳がないの」
「オレは水が苦手なんだよ」
ふんと鼻を鳴らすとホムラはそっぽを向く。海の方では、前世から泳いだことがないあずさをリオとサイカが泳ぎを教えていた。リオに手をもってもらってバタ足をするあずさをサイカが応援するという状況だった。
「オレのことは良いからお前も海いけよ。どうせ泳ぎも上手いんだろ」
「ホムラちゃんって僕のこと完璧超人だと思ってるの?」
ホムラは事実を指摘されたようで、少し顔を赤くしたが、なんとか反撃を試みる。
「じゃあカナヅチなのかよ」
「さて、それはどうでしょう?」
桜夜はナイショ話をするように自分の唇の前に人差し指を立てた。
「桜夜さーん! ホムラー! ボール遊びしましょー!」
浅瀬でビーチボールを持ったサイカが叫ぶ。
「わかったー。ほら、いこ、ホムラちゃん」
桜夜が立ち上がり、ホムラに手を差し出す。そんなことをされては水嫌いのホムラとしても、顔を真っ赤にして差し出された手を握るしかなかった。
◆◆◆
海あそびを楽しんだあと、一同は宅配ピザでお昼を済ませることにした。長い入院生活と四方院の質素倹約な食事に慣れているあずさはこれにも目を輝かせた。
「やっぱりイタリアで食べたのとは違うな」
食べながらホムラがつぶやく。
「イタリアのはフォークとナイフで食べるピッツァだからねえ。アメリカ生まれのピザとは違うよ」
そんな会話をする桜夜とホムラをしり目に、あずさはピザを両手に持ってパクパク食べては口元を汚し、サイカに拭かれていた。
◆◆◆
その夜は花火大会があり、打ち上げられる花火を別荘から見ていた。風情を出すために全員浴衣姿だった。桜夜は黒い浴衣を手慣れた手つきで自分で着付けたが、ほかの4人の着付けをしたのも彼だった。着付け中全員が聞いた。「なぜ女物の着付けができるのか」と。桜夜の答えはあっさりしたものだった。
「昔、女物の着物を着て潜入調査をしていたことがあるんだ」
そのカミングアウトに4人は食いつき、写真を「見せろ見せろ」の大合唱が始まった。桜夜は面倒くさそうにスマホをいじり、鷹司が面白半分で撮った写真を見せた。スマホを奪い取った4人は食い入るように写真を見る。
「これわたしたちよりかわいくない……?」
「ぐぬぬぬ。わんこのくせに……」
「いじめたくなるな……」
「さすが桜夜様、何をしても完璧ですわ」
4人は口々にこそこそと感想を述べるのだった。リオだけは恥ずかしさとは違う意味で頬を赤くしていたが……。
◆◆◆
花火を見終えた一同は、また桜夜と女性陣に分かれて浴場に行こうとしていた。しかしなぜかリオだけは桜夜の隣にたち、残りの女性陣を見る形になっていた。
「リオねえ、何してんだよ。早く風呂行こうぜ」
「ホムラちゃん、わたくしは桜夜様へのご奉仕があるから、今日は桜夜様と一緒に小浴場の方に入るわ」
「ご、ご奉仕……!? そんないかがわしいこと許すわけないでしょう!」
あずさが感情的に怒鳴るも、リオはニコニコとしたままだ。
「ふふふ、あずさ様はなにを想像されたんですか?」
「な、なにって……」
あずさがごにょごにょと口ごもる
「リオちゃん。桜夜さんの背中を流すのはわたしがやるから大浴場でゆっくりしていていいよ」
「いや、オレがやるからお前らは引っ込んでろ」
「あ、あたしが! あたしがやるもん!」
「いえいえ、これは秘書の勤めですから」
「今は夏休み中でしょ。主人の背中を流すのは許嫁の役目よ!」
女性陣が大もめにもめているのをしり目に、「今の内大浴場使っちゃおう」と桜夜は本気で気配を消してその場をあとにした。
その後女性陣にばれて大浴場に突入されたのは、また別のお話。
to be continued
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