第2話 ローマの平日 前編
「いやあ、やっぱりヴェネツィアはいいねえ」
桜夜は窓の外の風景を眺めながらそう言うと、誰かに電話をかけ始める。元々ヴァチカンとの交渉のためにイタリアにも拠点を置いたわけだが、ローマではなくヴェネツィアなのは完全に桜夜の趣味だった。
「そうかねえ。オレは水がいっぱいで苦手だ」
嫌そうな顔をするホムラに対して、リオは笑顔だった。
「ホムラちゃんはそうかもね。わたくしは水の精霊が元気で過ごしやすいわ」
桜夜は電話を終え、ワイシャツの胸ポケットに仕舞う。
「さて、あずさにはああ言ったが、僕は顔が売れすぎているからしばらくは待機なんだよねえ。みんなからの連絡待ち。どっか遊びにいく?」
桜夜はこんなときでも桜夜だった。そんな桜夜のやる気のない態度を見たホムラとリオは顔を見合わせたあと、ホムラは彼ににやりとした笑顔を、リオは上品に微笑みながら、桜夜をベッドに追い込み始めた。
「どうしたのかな? 2人とも」
「せっかくガキどもがいないんだ。大人の遊びをしようぜ」
「ふふ、そういうことです」
ヴェネツィアまで来てすることかねと思いながらも、桜夜は2人の誘いを断らないのだった。
◆◆◆
「ん……」
上半身裸で寝ていた桜夜はスマホの着信音で目を覚ました。自分の左右で寝ているホムラとリオを起こさないようにベッドから立ち上がり、寝室を出ながら電話に出た。
「はい、水希」
『た、たいへんです! 水希卿!』
「どうした。落ち着いて状況を報告しろ」
『せ、先代相談役が……』
「先代がどうした?」
『イグドラシル家の娘を誘拐しました!』
「はあ!? こんなときにあのじいさんは何を……。まあいい先代はこちらでも探す。追加の情報が判明したら伝えろ」
『は、はいっ』
はあ、と桜夜はため息を吐く。誘拐したと言っても、まだローマは出ていないだろうと、鳳凰をいくつもの小鳥の姿に変えて窓から放った。小鳥たちは一直線にローマを目指した。
◆◆◆
「おじさま、本当に大丈夫なんですか」
「任せておけって、これでも昔は……」
その頃先代相談役である鷹司はローマ市内をカーチェイスで逃げ回っていた。そのドライビングテクニックは一流であったが、多勢に無勢ついにタイヤに銃弾が当たり、車がすべっていく。それでも鷹司は揺れる車をコントロールし、裏路地に逃げ込んでいった。
「走るぞ!」
「はい!」
車から飛び降りたローマの路地裏を迷路のように利用し逃げていく。鷹司はスマホを取り出して、援軍を呼ぼうとするが、その右肩を銃弾が撃ち抜いた。
「ぐっ」
「おじさま!」
スマホを取り落とした鷹司は再びそれに手を伸ばすが、銃弾がそれを破壊する。銃を持った黒スーツの男は、そのまま鷹司に銃口を向ける。そんな鷹司をかばうようにリン・イグドラシルは男と鷹司の間に割り込み両腕を広げた。
to be continued
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