第6話 王家の騎士団
朝食を食べ終えて少ししたとき、桜夜のスマートフォンが電話の着信を告げるメロディーを奏でた。あまりに鳴らな過ぎて鳴るときは不幸が起きると言われているスマートフォンへの着信に、あずさ以外の顔に緊張が走る。桜夜は緩慢な動作で電話に出た。
「はい、水希です。はい、はい、承知いたしました。リチャード陛下の仰せのままに」
桜夜は電話を切ってスマートフォンをしまうと、リオの方を見た。
「リオ君、予定はすべてキャンセルだ。僕たち全員今すぐイギリスに向かう」
「はい」
リオは表情を変えずに返事をすると、関係各所に連絡するため桜夜の執務室に向かった。しかし状況を飲み込めないあずさは軽いパニックを起こしていた。
「えっ? えっ? リチャード陛下ってなに? 今からイギリスに行く?」
そんなあずさをなだめるように、ばたばたと準備をし始めたサイカとホムラを後目に、あずさに視線を合わせ、ゆっくりと話した。
「リチャード陛下は英国王だ。そして彼から命令が出たから僕たちはイギリスにいかなければならない。もちろん、あずさ、君も一緒だ」
「あたしも!?」
「リチャード陛下とは友人だからね。君を紹介したいんだ。小さなプリンセス」
「王様が友人ってどういうことよ」
「人生いろいろあったってことだよ」
桜夜はあははと笑いながら、自分とあずさの旅支度を始めるのだった。
◆◆◆
前世を含めて初めて乗った飛行機に感動するあずさを眺めながら、一行はイギリスに向かった。空港にはすでに迎えのリムジンが来ており、一行はそれに乗り込んだ。一行が案内されたのは郊外にあるリチャードの秘密の別荘だった。それは今日行われることが秘密裏に行われねばならないことを示していた。
「お召替えを」
運転手に促されて、一室に入れられる。そこにはさまざまな衣装が用意されており、桜夜は最初からすべて理解していたように、三姉妹とあずさに着る服を指定する。そして桜夜自身も自分の着る服を選ぶと、更衣室に入った。
◆◆◆
黒い騎士を思わせる軍服のような礼装に身を包んだ桜夜は、彼と同じデザインで色だけ白い服を着た30名ほどの国籍、年齢、性別もばらばらな人物を代表して、玉座に座る国王リチャードとその伴侶の前で片方の膝をつき、自身の刀(桜吹雪)をささげるように両手で持ち上げた。
リチャードはゆっくりと玉座から立ち上がり、腰から金の王剣を引き抜いた。そのまま階段を降り、桜夜の首筋に王剣を突き付けた。
「水希桜夜、そなたを王家の騎士団団長に任ずる。王家の騎士団を率い、イグドラシルをせん滅せよ!」
「はっ。謹んで拝命いたします。国王陛下」
桜夜がリチャードの目を見てそう宣言すると、後方に控えていた騎士たちが、剣を抜き、雄たけびを上げた。
そんな様子を少し離れたところで三姉妹とあずさは見ていた。白いドレス姿のあずさはその見慣れない光景に目を丸くしていたが、三姉妹に動揺はなかった。三姉妹も桜夜と同じデザインの騎士服を着ており、それぞれのパーソナルカラーで彩られていた。サイカは黒地に黄色のラインが、ホムラは黒地に赤のラインが、リオは黒地に青のラインが入った特別なもので、桜夜の親衛隊としての正装を意味していた。
任命式が終わると全員が別室に移動し、パーティーが始まった。桜夜はあずさを伴うとリチャードのところに向かった。
「リチャード陛下、マリア様。この度はご成婚おめでとう存じます。改めてお祝い申し上げます。またご紹介申し上げます。私のフィアンセです」
あずさの背中にそっと手を置く桜夜。
「し、四方院、あずさと申します。よろしくお願いいたしますわ。陛下」
四方院の娘として礼節の訓練を受けてはいるものの、いきなり一国の国王に挨拶することになるとは思っていなかったあずさは汗をかきながら、スカートを軽く持ち上げてお辞儀をしてみせる。
「よろしくレディ。しかし桜夜、おまえが女たらしなのは知っていたが、ジャパニーズロリコンまで発症していたとはな」
「リチャード陛下、お言葉ですが、陛下の若かりし頃の悪行をマリア様にすべてお話してもよろしいんですよ」
「まてまて、それはやめてくれ」
一国の王と親しげに話す桜夜の姿を物珍しいものを見るようにあずさは見る。
「あんたって、あんなに友達いなかったのによく国王陛下と仲良くなれたわね」
あずさの言葉にリチャードが反応する。
「余は寛大だからな」
「僕の方が寛大でしょうが、どれだけあなたのわがままに付き合わされたか」
「よいではないか。我が騎士よ」
王と一般人という立場を超えた友情を、あずさは不思議そうに見るのだった。
to be continued
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