第11話 2
「――ストップ! ちょっと刃先がブレて来たね。疲れた?」
ジュリアお姉様の言葉に、サラは木剣を振る手を止めて、首を振ったの。
「んーん。サラ、まだやれるよ?」
ちょっと腕が重いかなぁって思うけど、これくらいで挫けてたら、お父様やオレアお兄様のようになれないもの。
「サラちゃん、疲れたらちゃんと休む事も騎士になる秘訣なんだよ?」
「そうなの!? でも、お父様もお兄様も倒れるくらいやってたよ?
サラ、それくらいやらなきゃーって思ってたんだけど」
「――あはは。あの二人を基準にしちゃダメだよ。
あの二人は基礎ができてるから、その先を目指して倒れるくらいやってるんだ。
サラちゃんが今やってるのは?」
「――基礎の練習っ!」
サラは手を挙げて応えたよ。
あのね。サラはお父様とお母様が旅立たれてから、強くなるためにお稽古をお願いしたんだ。
サラはこーしゃくけ?――のお姫様らしいんだけど、お父様みたいに強くなりたいって思ったんだ。
それでね、お母様が悪い奴に襲われたら、助けてあげるの。
メイドのお姉さんが読んでくれたお伽噺の女剣士――銀華様みたいになりたいんだ。
そうオレアお兄様にお願いしたら、じゃあ一緒に鍛錬してみるかって言ってくれてね。
お兄様が見れない時は、ジュリアお姉様が鍛錬を見てくれる事になったの。
ジュリアお姉様はこの国ではじめての女の騎士なんだって。
はじめのうちは、とにかく訓練場を走らされたんだけど、訓練場を五周しても平気になったら、素振りしても良いことになったの。
今は素振り五百本の後に、オレアお兄様かジュリアお姉様が掛り稽古までしてくれるようになったんだよ。
お兄様がサラはさいのーがあるんだって。
よくわかんないけど、褒められてるんだよね?
「疲れてて素振りしても、型が崩れるだけだからね。
――少し休憩して、それから掛り稽古しようか?」
「ホント? やったぁ!」
掛り稽古大好き!
魔法ありなら、最近は五番に一番はオレア兄様から一本取れるようになったんだよ。
サラとジュリアお姉様は水場に行って、水をごくごく飲んで。
サラは革鎧を外して、上衣を脱ぐと、水場のそばに置かれた桶に水を汲んで、頭から被ったんだ。
「ああぁっ――おおぉぉ……」
「――サ、サラちゃん、なにそれ?」
ジュリアお姉様が聞いてきて。
「んふふっ……オレアお兄様のマネっ子っ!」
途端、ジュリアお姉様は困ったような顔をしたの。
「……オレア様……子供に良くない影響が……」
そう呟いたジュリアお姉様は、手ぬぐいでサラの身体を拭いてくれて。
「いい? サラちゃん。
女の子は人前で裸になっちゃだめだよ?」
「オレアお兄様はやってたよ?」
「オレア様は男の人でしょう? 女の人がそうしているのを見たことある?」
「んー……見たことない」
「でしょう? じゃあボクとの約束。
サラちゃんは守れるかな?」
「――はいっ!」
サラは手を挙げてお返事したよ。
ダメって言われた事はやっちゃいけないんだって、お母様も言ってたもの。
お母様、サラはちゃんと良い子で待ってるよ。
鎧を着け直して、もう一度お水を飲んで。
さあいよいよ掛り稽古ってなったところで、オレアお兄様とソフィアお姉様が訓練場にやってきた。
その後ろには、女の人に囲まれた金髪のお兄さんとその後ろにも、同じくらいの年のお兄さん達。
「……オレア様……本当にやるつもりなんだ」
ジュリアお姉様が苦笑して、サラを見たの。
「ねえ、サラちゃん。いつもはボクやオレア様と掛かり稽古してるけど、他の人とやってみたくない?」
「――いいの!?」
最近、じごくのばんけん隊のみんなにお願いしても、みんな逃げちゃうんだよね。
ジュリアお姉様やオレアお兄様とやるのも楽しいんだけど、いつも一緒でまんねりだと思ってたんだ。
「――じゃあ、あの金髪のお兄さんにお願いしてみてごらん?
きっと受けてくれるよ?」
「わかった!」
サラはジュリアお姉様が指差した、女の人に囲まれてるお兄さんに駆け寄ったんだ。
「――では、私が勝ったら、ソフィア殿にアプローチする権利を得られるという事で」
金髪のお兄さんはオレアお兄様になにか言ってたけど。
「――ねえ、お兄さん」
サラはお兄さんのシャツの裾を引っ張って、ここにいるよーって声をかけてみたの。
「む? なんだ? 魔属の娘がなぜここに……」
――ああ、この人。
サラ、お父様から教えられたから知ってるよ。
サラは魔属っていうので、人属とは違うんだって。
それでね、サラを見て、嫌な顔をするヤツは悪いヤツだから、ぶっ飛ばして良いんだよ。
「サラはサラ・ガルです!
お兄さん、サラと一番、掛り稽古してください!」
ぶっ飛ばす時は、相手に敵意を悟られないように。
すみやかに、さいだいげんのじつりょくこーしだって、お父様は言ってた。
「サラは私の従姉妹でして。これでもこの年で騎士も顔負けの実力を持っているのですよ」
オレアお兄様が褒めてくれてる。
んふふー。
お兄様が褒めてくれるのは嬉しいな。
「――こんな魔属の幼子が騎士も顔負けとは。
ホルテッサの騎士は鍛錬が足りないのではないか?」
金髪のお兄さんがサラを無視して、オレアお兄様にそんな事を言う。
「ねえ、お兄さん、ひょっとしてサラに負けるのが怖いの?」
お父様のマネッ子。
だいたいの人はコレで怒るんだよね。
「ラインドルフ殿下。
オレア殿下との仕合の前に、試しに胸を貸してやってみてくださいな。
後進を導けてこそ、真の腕前がわかるというものですわ」
ソフィアお姉様がそう言うと、ラインドルフって呼ばれた金髪のお兄さんは顔に笑みを浮かべたんだ。
「ソフィア殿がそう仰るなら。
サラとやら、腕前を見てやろう」
やっとお兄さんがサラを見てくれた。
オレアお兄様から木剣を受け取って、両手で構える。
サラはジュリアお姉様から教わった通り、片手で木剣を持って、半身に構えるよ。
「――では、はじめ!」
オレアお兄様の合図で、サラは左に跳んだ。
この人、イヤな目でサラを見てくるから、最初から全力でぶっ飛ばす!
すぐにステップを踏んで、右に跳んで、さらに右にジャンプ!
背後に回ってぇ――下から上に――えいっ!
「――ふごっ!?」
お隣の国の女剣士さんが生み出したという、対男の人用必殺技だよ!
ジュリアお姉様に教えてもらったんだ。
股で直接木剣を受けたお兄さんは、変な声をあげて前のめりに倒れ込んだ。
……なんかお兄さん、潰された蛙みたいにピクピクしてて気持ち悪い。
さっきまでお兄さんを囲んでたお姉さん達が、悲鳴をあげてお兄さんに駆け寄る。
「ねえ、オレアお兄様。
このお兄さん、弱すぎるんだけど?」
「……お、おう。
まさかサラがここまで容赦ないとは、俺も思ってなかった」
「すごいわね。もう歩法の<
オレアお兄様のは褒めてくれてるのか、よくわからなかったけど、ソフィアお姉様が褒めてくれてるのはわかったよ。
「んふふー」
「本当にサラはすごいな」
サラが胸を張ってみせると、オレアお兄様は頭に手を乗せて撫でてくれた。
サラ、お兄様に撫でられるの大好き!
「――ラインドルフ殿下。勝負はまた今度に、という事にしましょうか?」
オレアお兄様がそう言ったのだけど、金髪のお兄さんは手をヒラヒラ振るだけ。
「――お兄さん、もっとお稽古しないと、オレアお兄様には勝てないと思うよ?」
お兄様はあの攻撃、一度も受けた事ないもん。
オレアお兄様はね、お父様の次に強い人なんだよ?
勝負するなら、せめてサラにくらい勝てないと!
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