第2話 俺のカードになる奴に普通のキャラいない説①

 



『今夜もこの時がやってきた! 人型女の子モンスター限定バトル、キャットファイト! 可憐で麗しいモン娘たちが、華麗に、残酷に殺し合う! 最も美しく強いカードは一体だれなのか!

 実況は私、佐藤裕也(さとうゆうや)。解説は星四プロ、初代キャットファイトチャンピオンの登呂真黒(とろまぐろ)さんでお送りします。

 まずは第一試合の選手の紹介です! 赤ゲートから登場したのは斎藤秀介(さいとうしゅうすけ)選手! プロ志望の現役大学生冒険者、これまでの戦績は三戦三勝! 波に乗っている期待の大型新人だ!』


 観客の歓声と共に、二十歳ほどの青年が姿を現す。そこそこ整った顔立ちに、流行りのファッションと髪型。観客席に手を振り返すその表情には自信が満ち溢れていた。


『トロマグロさん、斉藤選手をどう思いますか?』

『いい選手だと思いますよ。

 パーティーは、CランクのセイレーンとDランクにアマゾネスとねこまた。耐久性に優れるアマゾネスがガード役で、ねこまたがトリッキーなアタッカー、セイレーンが上空後方からのサポーターという形ですね。

 基本的ですが、王道の手堅い構成だと思います。デビューしたての選手は気が逸る傾向があって、どうしてもアタッカー重視になってしまうんですが、斉藤選手は立ち回りにも落ち着いたものを感じますし、連携も良い。

 特にセイレーンは貴重な飛行型ですし、いずれ十勝してチャンピオン戦に行くのも十分可能性があると思います』

『なるほど! これは期待できそうですね! 続いて白ゲートから姿を現したのは北川歌麿選手! 学生トーナメントでの新しいカードのランクアップの方法と、鮮やかな逆転勝ちは世間の記憶にも新しいのではないでしょうか? 冒険者となってまだ半年程度にもかかわらず、星三という驚異の成長速度! それがまぐれや偶然ではないと証明するかのように、先日のデビュー戦では見事な勝利を飾りました!』


 実況の紹介に観客席の期待が高まる中、白ゲートのスモークと共に現れたのは何とも平凡な顔だちをした少年だった。

 観客のうち北川歌麿という人間を知らない者たちは、その一般人にしか見えない容姿に拍子抜けしたような顔を浮かべる。

 これが本当にニュースでも話題になった若手冒険者なのだろうか? と囁きあった。


『トロマグロさん、北川選手はどう思いますか?』

『そうですね。正直学生レベルではないですね。霊格再帰という破格のスキルを持つ座敷童にばかり注目が集まり隠れ蓑になっていますが、他のカードもなかなかの粒ぞろいです。本人の技術力や育成力も高い。プロのチームからスカウトが来てもおかしくないレベルかと』

『おおお! そこまでですか! それではトロマグロさん、この試合どちらが勝つと予想しますか?』

『ははは、そればっかりはなんとも。ただ、どちらにも可能性は十分にあると言っておきます』

『結果は自分の眼で、というわけですね! それでは試合開始です!』


 試合のゴングが鳴り、両選手が順番にカードを召喚する。

 斉藤選手が呼び出したのは、翼の生えた女の上半身と人魚のような下半身を持った美女、鍛え抜かれた肉体を蛮族のような毛皮で覆っただけの野性的な女戦士、猫耳と二つに分かれた尻尾を持つ獣人の美少女だった。


『おおお〜〜〜』


 肌も露わな美少女モンスターの登場に、観客席が色めき立つ。モンスターたちもクルリと会場を一周飛び回ってみたり、カメラに向かってセクシーポーズを決めてたりと、自分の魅力を思い思いにアピールしていた。

 モンコロ……特に女の子モンスター限定であるキャットファイトの試合では、観客と視聴者を楽しませるためこのようなファンサービスを行うのが恒例となっていた。


 続いて、観客たちの視線はもう一人の選手へと向けられる。

 どんな女の子モンスターを召喚するのかと期待が集まる中、まず呼び出されたのは美貌の吸血鬼であった。身に纏うのは、煽情的な漆黒のドレスで、病的に白い肌がよく映える。鮮やかで長い金髪には、よく見れば黒髪が何房か混じっており、それが魅力的なコントラストを描いていた。

 その危うさすら漂う妖艶さに見惚れていた観客たちのうち、彼女がかつてイライザと呼ばれていた元グールだということに気づいた者は、そのあまりの変わりように感嘆の声を漏らした。

 元々素材は優れていたが、グールの劣化した肉体によってその美貌に影を落としていたイライザ。

 それがいまや、魔の貴族とも呼ばれる吸血鬼へと進化したことにより、元の面影を残しつつも妖しいほどの美しさとなっていた。


 そんな観客たちを冷たい瞳で見渡していたイライザだったが、おもむろに笛を取り出すと奏で始めた。

 白魚のような指が笛の上を軽やかに踊り、幻想的な音楽が流れだす。

 思わず観客たちが静まり返り耳を傾ける中、次のモンスターが姿を現した。

 蝙蝠の羽、驢馬の尻尾、真鍮製の脚を持つ銀髪の少女——メア。身に纏うのは所々が透けたベビードールで、大人になりかけの肢体とあいまって、見てはいけないのに目が離せないような、そんな背徳的な魅力を放っていた。

 幼い夢魔は、揶揄うような表情を浮かべ観客たちへ向けて軽やかに踊り出す。

 女吸血鬼が奏でる幻想的な音楽と、幼くも淫靡な夢魔による踊りは、もはや一種のショーと言っても過言ではなかった。


 観客たちが見惚れる中、満を持して最後のカードが姿を現す。

 紅い和服を着崩し艶やかな黒髪をパンキッシュに跳ねさせた、どこか不良染みた雰囲気を持つ座敷童の少女——蓮華。

 世界で初めて公式にカードを使わないランクアップを成し遂げた存在であり、ちょっとした社会現象すら起こした有名カード。

 観客たちがどんなパフォーマンスをしてくれるのかと期待を集める中——彼女は高々と中指を突き上げた。


「くたばれ、変態どもが」


 ファンサービスなんざ知るか。

 どんな時でも己の道を貫くのが、この男前な座敷童の信条であった。




「——なぁ〜に見てんだよ」


 後ろから声を掛けられ振り返ると、画面の中と同じ顔がこちらを呆れたように見ていた。


「この前の試合を見てたんだよ」


 俺はそう言って、手に持っていたタブレットを彼女へと見せた。


 ——冒険者になって早半年。春を迎えて二年生に進級した俺は、当初の目標であった三ツ星冒険者となっていた。

 三ツ星冒険者ともなると、世間からはセミプロと見なされ、モンコロなどのTVに出る仕事なども依頼されるようになる。

 今俺が見ていたのも、先週放送されたモンコロ系TV番組『キャットファイト』の試合の録画だった。

 学生トーナメントでの優勝以来、俺の元にはこうしてちょくちょくTV局のオファーが来るようになっていた。


 ……実のところ、俺はもうモンコロに出るつもりはなかった。

 冒険者になった当初こそモンコロに出ることを目標としていた俺であったが、あの学生トーナメントで実際の試合の過酷さを知って以来、モンコロへの憧れは粉々に打ち砕かれた。

 簡単に言ってしまえば、ビビったのだ。

 なんせあの学生トーナメント、高校生以下の部では参加者のうち、約四割もの学生たちが廃業に追い込まれているのである。

 冒険者ギルドでの規定では、冒険者は一年以上Dランク以上のカードを未所持であった場合ライセンスを剥奪するとされている。

 学生の身分で再びDランクカードを買う余裕を持つ者は少なく、仮に両親に頼んだとしても、早々にカードを失った子供たちに再度買い与える親はまずいないだろう。

 結果、虎の子のDランクカードを失った選手のほとんどが、廃業確定となったのであった。

 これは結構な問題となって、ちょっとしたニュースにもなった。その後、冒険者でなくなった学生たちが学校で居場所が無くなったり、ショックで引きこもったりするケースが多発したことが明らかになると、さらに炎上した。


 かく言う俺自身も、結果的には最高の結末を迎えられたものの、一歩間違えれば蓮華たちを失っていた可能性が高かったわけで。

 こりゃあギャンブルにしても割に合わないと、もう二度とモンコロに出るつもりはなかった。

 が、TV局側としても、今が旬で出すだけで視聴率が取れそうな俺——正確には蓮華を始めとしたモン娘たち——を逃すつもりもなく、その勧誘は熾烈を極めた。

 これは最低でも一つは出ないと躱しきれないと悟った俺は、その中でも最も条件が良くリスクが低そうな『キャットファイト』を選んだのだった。

 数あるモンコロ系TV番組の中から『キャットファイト』を選んだ理由は三つ。コンセプトと、リスクの低さ、そして報酬である。


 『キャットファイト』では、選手が使えるカードを女の子モンスターのみと限定している。この女の子モンスター限定というコンセプトが、俺向きだったのだ。

 無数のカードの中から女の子カードだけしか使えないというのは、デッキを組む上でかなりのハンデとなるし、女の子カードの情報は世間に広く知られている為対策も立てやすい。

 また、女の子カードというだけで同ランクの他のカードよりも何倍も相場が高くなるため、以前戦った水虎のようなランク詐欺の強カードが出てくる可能性が低くなる。そのランクで最強クラスの女の子カードを買うくらいならば、上のランクの女の子カードじゃないカードを買った方がよほどお買い得だからだ。


 縛りなしのガチデッキと、女の子モンスター縛りのロマン系デッキ。どちらと戦いやすいかと問われればまず間違いなく後者。


 その一方で、俺の手持ちは初めからそのほとんどが女の子カードばかり。唯一ユウキだけは使うことが出来ないが、蓮華、イライザ、メアのレギュラー勢は健在だ。

 そのうち二枚はCランクカード、蓮華に至っては制限付きのBランクカードと言っていい。この二枚に比べて格の落ちるメアも、メインである蓮華とのシナジーがある。

 はっきり言って、セミプロクラスでは反則的な戦力であった。

 事実、この動画の試合では霊格再帰を使うまでもなく快勝している。


 第二の理由、それは『キャットファイト』でのカードのロスト率の低さだ。

 通常のモンコロ系番組では、どのカードがロストさせられるかも見る楽しみの一つである。

 互いに命を懸けて戦うからこそのヒリつくような緊張感。ロストする際のモンスターたちの断末魔。高額なカードを失ったマスターの絶望した表情……。

 悪趣味極まりないが、それをモンコロの醍醐味として楽しんでいる層が一定数存在するのも事実だった。

 また、賭けの結果を複雑にするという面もある。

 モンコロ系番組は、エンターテインメントである一方で国営のギャンブルでもある。単純に試合の勝敗を賭けるものから、その試合で何枚のカードがロストするか、勝った冒険者の残り枚数が何枚か等々、賭け方や倍率も異なってくる。

 単純にどちらが勝つかを賭けているだけでは、ギャンブルとしての伸びしろも少なく、飽きもはやい。よって少しでも結果を複雑にするためにも、カードのロストという要素は必要不可欠であった。


 その一方で、『キャットファイト』では事故を除きカードのロストはまず無い。

 これは番組制作側で『できる限りカードのロストは防ぐ』という方針を打ち出しているのが大きく、選手に裏で『できる限り相手のカードをロストさせないよう努力する』という誓約を交わさせてすらいた。

 なぜ、多くのモンコロ系番組とは異なり、『キャットファイト』ではカードのロストを防ぐ方針なのか。それは、番組の方向性の違いにあった。

 他のモンコロ系番組がモンスター同士の殺し合いとその結果に対するギャンブルがメインにあるのに対し、『キャットファイト』ではただただ単純に可愛い女の子モンスターが戦っているところを見たい、あわよくばエッチなハプニングとかあると最高! というのがメインにあった。


 つまり、『キャットファイト』の視聴者層にとってカードのロストとかどうでもよく、むしろ貴重なモン娘がロストするとか言語道断! というのが本音であった。

 また、お金の問題という世知辛い理由もあった。

 女の子モンスターの値段は、同ランクのカードに比べて数倍は高い。そんな高額なカードをロスト前提で戦っていたら、あっという間に出場者がいなくなってしまうというわけだ。


 第三の理由、それは単純に報酬が良かったことだ。

 モンコロにおけるファイトマネーは大きくわけて二つ。チケット代と、賞金である。

 チケット代については、売れた観戦チケットの内、何割かを選手が勝敗に関係なく受け取ることが出来る。

 この割合や、どれほど観戦チケットが埋まるかは番組や冒険者のランク、人気によってさまざまなのだが、セミプロ級では大体100万円前後が相場となっている。

 しかし、女の子モンスターの限定である『キャットファイト』ではこのチケット代が他の番組よりも高額であるにもかかわらず、毎回満席になるほど集客率が高い。

 つまり、その分選手に支払われるチケット代も高くなる。

 その額、なんと二百万円。

 チケット代は勝敗に関係なく選手に支払われるため、試合に出るたびに二百万円の収入を得ることが出来る。

 カードのロストの可能性が低い『キャットファイト』において、これは相当デカイ。


 次に、賞金について。

 これは、その選手に賭けられた掛け金の内いくらかを勝利選手に還元するというものだ。

 モンコロにおける収入の大部分はこの賞金であり、グラディエーター(モンコロを収入の中心とする冒険者)たちは、少しでも多く自分に掛け金を集めるべく、日々奮闘していると聞く。

 この掛け金については、カードのロストの危険性が高ければ高いほど規模が大きくなるといわれており、残念ながら『キャットファイト』はギャンブルとしての規模はさほど大きくない。

 その為賞金も他番組に比べて小さくなってしまうのだが、それでも一試合辺り三百万円ほどは貰える。

 この前の試合では、四百万円の賞金を得ることが出来た。

 チケット代と合わせて、計六百万円。

 それが、この試合において俺が得られた収入だった。


 一回試合に出るだけで、五〜六百万。正直、滅茶苦茶美味し過ぎる。

 ちなみに、Dランク迷宮の踏破報酬は一つ辺り63万から90万、道中のドロップアイテムをすべて売ったとして、収入は百万を若干超える程度だ。一つの迷宮を踏破するまでに、泊まり掛けで何日も掛かる……。

 片や命の危険もなく一日で五〜六百万円、片や命懸けで何日も掛けて百万程度。天秤にかけることすらできない、メリットの差がそこにあった。

 そりゃあほとんどのプロ志望が、プロフェッサー(迷宮中心に稼ぐ冒険者)ではなく、グラディエーターを志すというものだ。


 もちろん、グラディエーターだって簡単じゃあない。

 まず、セミプロ級はプロに比べて数が多いため、いつでも好きな時に試合に出れるわけではない。一つの試合枠に対して応募はその何倍もあるし、そのため営業専門のマネージャーを自費で雇ったり、グラディエーター系のタレント事務所に所属して仕事を貰う奴なんかもいる。

 とにもかくにも人気商売なので、キャラ作りのために変な言動や格好をしたり、デッキの構成をあえて偏らせてみたり、時には炎上商法をしてまでも世間の注目を集めたりもする。


 そこまでやって試合に出たとして、負ければ得られる金はチケット代のみ。カードが一枚ロストするだけで大赤字だ。それがCランクカードともなれば、取り返すまでに数か月はかかる。

 その気になればいつでも迷宮に行って稼ぐことのできるプロフェッサーに対し、戦いの場を用意すること自体が戦いのグラディエーターは、自由とはかけ離れた存在だ。

 俺だって、今は蓮華のおかげで人気にブーストが掛かっているが、いずれ世間からも忘れ去られて試合に呼ばれることもなくなるだろう。


 それ自体は、まあ、良い。

 本気でグラディエーターを目指す気は、今のところ無いからだ。

 むしろ、命の危険があってもカードたちと共に冒険をしていく、プロフェッサーの方が自分にあっているような気がしていた。

 とは言え、モンコロの収入が美味しいのも事実。

 飽きられるまでは、『キャットファイト』の試合でガンガン稼いでいきたい。

 そのためには、如何にお客さんたちの人気を得るかが重要となってくるのだが……。


「蓮華、お前なぁ。中指はないだろ、中指は」


 あれほどファンサービスをするように言ったのに、この不良座敷童ときたら……。

 俺の肩に肘をついてタブレットを覗き込む蓮華へと、ジト目を向ける。


「そーだそーだ! せっかく私とイライザが場を盛り上げてたのに台無しジャンッ」


 俺の言葉に乗っかるように蓮華を非難したのはメアであった。その顔は、公然と蓮華を非難できるこの状況に、喜色に輝いている。

 彼女とイライザは、あの試合のためにわざわざ曲と踊りを練習までしてくれていたのだから、まあこうして批判をする資格はあるだろう。

 が、当の蓮華と言えばどこ吹く風といった様子で。


「ヘッ、知らねーなぁ〜。なんでアタシが人間どもに媚びを売らなきゃあいけないんだ? そんな義務はねーな」


 出たよ、蓮華の人間嫌い。

 出会った時とは段違いに打ち解けてはくれたが、この座敷童は基本的に人間のことが嫌いなのである。

 特に、道具か何かの様にカードを使い捨てる冒険者や、カードの殺し合いを見て楽しんでいるモンコロの視聴者は、軽蔑の対象のようだった。

 正直、俺がモンコロの試合に出るのも面白く感じていないようなのだが、今のところそれについて何かを言われたことはない。

 それは『キャットファイト』がロストの危険性が低いことや、今後もグラディエーター一筋でやる気がない、というのが大きな理由なのだろうが、その根底には彼女のマキャベリストとしての側面があった。

 一見直情的で情も深い彼女だが、その一方で冷徹に損益を計算することもできる。

 十を活かすために一を切り捨てるのは勿論、時には6のために5を切り捨てることのできる決断力が、彼女にはあった。

 俺が学生トーナメントに出る時に反対しなかったのも、ヴァンパイアのカードとマスターである俺の成長というメリットを見越してのことであったし、決勝戦においては自分自身のロストすらも許容して俺の成長と言うメリットを取った。

 今俺がモンコロに出るのに反対しないのも、それによって得られるメリットがデメリットを大きく上回っているからだ。

 ……ではかといってメリットがあればすべて許容するのかと言えばそうではなく。


「テメェが下らねぇ試合に出るのも自由だし、敵がいりゃあ戦ってはやるが、人間どもに媚びを売るのまではアタシの仕事じゃあねぇな〜」


 どうやらそれが、この件に対する彼女の妥協ラインであるようだった。

 ……はぁ。まあ、仕方ない。昔の様にボイコットされないだけありがたいと思うとするか。

 それになにより。


「これ、意外とウケたしな」

「なんでだよ……」


 俺がそう言うと、蓮華はげんなりとした風にため息を吐いた。

 雰囲気ぶち壊しのファッキューポーズであったが、なぜか観客たちにはバカ受けであった。

 放送後のSNSでのコメントでも、『どんな時でも媚びない蓮華ちゃんの姿勢に憧れます』などと好意的なコメントが多かった。

 そんな人間たちの奇妙な反応を思い出したのか、心なしか気持ち悪そうな顔をする蓮華。何気にレアな表情である。

 ……ちなみに記念すべきデビュー戦のファンサービスについてだが、これについてはぶっちゃけ失敗している。ただイライザやメアに手を振ってもらったり軽く飛び回ってもらっただけだからだ。これについては、ファンサービスを甘く見ていた俺のミスである。なお、この際も蓮華はそっぽを向いて手すら振ってくれなかった。

 そのため二戦目である今回は事前に細かい打ち合わせをし、蓮華にもちゃんとファンサービスをしてもらうようお願いしていたのだが……このザマである。

 まぁ、結果としてウケたのだからいいのだが、このままではいずれ飽きられることだろう。その時までに何か対策を思いついておくのが、俺のグラディエーターとしての課題だった。


「もー、おかしくない? どうしてちゃんとやった私達より蓮華の方がウケるのよ」

「アタシが知るかよ。つか、知りたくねぇ」

「次は私たちもやってみる、イライザ?」

「頼むからやめてくれ、さすがに炎上する」


 そんな風に話していたその時。


「——何の話ですかぁ?」


 背後からどこかねっとりとした声が俺たちに掛けられた。




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