第160話 代理戦争

バッドエンドになってはゲームを再開し

『奇跡的に避ける』の選択肢を選ぶ作業を十回ほど繰り返していたら、

突如画面にシステムメッセージが表示される。



【イージーモードに変更しますか? 『はい』『いいえ』】



「中道先輩、これって……」


「よくわからないが、新たな選択肢が出てきたようだな」


「ゲームの方もようやく間違いに気づいてくれたみたいっすね」


果たしてそうなのだろうか……と思った火月だったが、

今は状況が変わったことにホッとしていた。

まだ恋愛をしていないのにゲームが終わるなんてあまりにも悲しすぎる。


「とりあえず、『はい』をクリックしてみよう。きっと何か変わるはずだ」


「了解っす」


要が選択肢をクリックするとゲームが再開し、

何度も苦戦しているシーンの『奇跡的に避ける』『避けない』の場面に移動した。


ぱっと見た感じ選択肢が増えたわけでもなく、

今までと何一つ変っていないように見える。


要が無言で『奇跡的に避ける』をクリックしたのは言うまでもない。



【いや、この絶体絶命な状況でも俺なら回避できるはずだ。

 前方に飛び込むような形で咄嗟に転がりこみ、

 女性との衝突を奇跡的に回避した……はずだった。


 しかし、女性は予想外の動きを見せる。

 まるでこちらが避けるのを見透かしていたかのように、

 急遽方向を変えて再びこっち向かってきていた。


 くそっ、このままだと正面衝突することになる……】



再び画面に『奇跡的に避ける』『避けない』の選択肢が表示された。

どうやら、イージーモードになったことでシナリオが少し変わったようだが、

相変わらずこの二択を選ばせることに変わりないようで、

開発陣のこだわりのようなものを感じた。


しかし、要も負けてはいない。

考え込む素振りを一切見せず、

『奇跡的に避ける』という選択肢を機械的にクリックしていた。



【闘牛……それは猛牛とマタドールの真剣勝負。

 そしてマタドールが使用する赤い布(ムレータ)のように、

 俺も彼女の衝突を寸でのところでひらりと回避する。


 だが、彼女は再び方向を変えて差し迫って来た。

 これじゃあ何回やっても埒が明かない。

 お互いに体力が消耗し、どちらかが尽きるまでこの連鎖は続くのだろう。


 入学式当日から、おもしれー女に出くわしたもんだ。


 だが、こちらもそう簡単にぶつかるわけにはいかない。

 俺には俺のプライドってもんがある。

 だから、とことん付き合ってやろうじゃねーか】



これは本当に恋愛ゲームなのだろうか……と思った火月だったが、

今は成り行きを見守るしかない。


もはや開発陣と要の代理戦争を彼らにやらせているような気がしていた。

主人公との出会いイベントを発生させるため、

絶対にぶつかるという鋼の意志のようなものを彼女から感じた。


結局それから十分近く彼らの攻防は続き、

最後の方には選択肢が出ることも無く、

主人公とヒロイン?が衝突してようやく出会うことになった。

正直、たった一つのイベントを起こすのにここまで苦戦するとは思っていなかった。


「ようやく、大学編が始まるみたいじゃな。

 いつまでもたっても話が進まないからそういうゲームなのかと思ったぞ」


「多分これで大丈夫だろう。あとはコツコツ進めれば問題ないはずだ」


「うむ。

 そういえば要、お主が好意を寄せている雌とはデートの日程は決まったのか?」


「もちろんっす! 十二月二十三日の午後に決まったっすよ!」


「ちょうど二週間後じゃな。

 とにかく、ゲームをクリアしない限り

 恋愛についての理解が深まらないみたいじゃから、

 これからは毎日このゲームをやりにきてもらうぞ。

 火月もそれで問題ないな?」


「ああ……」


この二週間は勝負の分かれ目と言っても過言では無いだろう。

恋愛の猛勉強期間が始まろうとしていた。

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