第149話 相談

予想していなかった人物の来訪に虚をつかれたが、

まずはこの状況について説明してもらう必要があると判断した火月は、

思わず口を開く。


「お前……何でここにいるんだ?」


「師匠にお呼ばれされたので来たっす!」


元気な返事が部屋中に響き渡る。

きっと要の言うことは本当なのだろう。

彼が嘘をつけるような性格じゃないのは理解しているので、

今の状況を作り出した張本人の方へ視線を向けた。


「まぁ、あれじゃ。

 お主が仕事に行ってる間、要の大学に行くことも結構あってな。

 そこで色々世話になってるんじゃよ。

 だから、たまには我の城に招待してやろうと思ったのじゃ」


いつの間にここがこいつの城になったのか、

小一時間ほどただしたいところではあったが、

今は疲れているのでやめておくことにした。


それにしても、ねぎしおが要の世話になっているとは知らなかった。

水樹さんの店にお世話になっている話は以前聞いたことがあったが、

やはり、同じ場所でずっと時間を潰すのは難しかったのだろう。


水樹さんも毎日こいつが来ていたら気が気じゃないはずだ。

それに、まるで知らない場所を勝手にふらつかれるよりも、

見知った顔がいる場所で暇を潰してくれるのなら、

こちらとしては有難い話である。


「そうだったのか。

 要、色々と面倒をかけてすまないな。

 お前もそういうことはもっと早く言え。

 事前にわかっていれば色々と準備もできただろうし」


「お気遣いは無用っす! 

 お二人には色々お世話になってるすから!

 それに、同じ修復者同士仲良くしたいっすからね!」


「なにぶん、急な話じゃったから伝えるタイミングが無かったんじゃ。

 じゃが、今後は我も気をつけるとしよう」


「大したものは出せないかもしれないが、ゆっくりしていってくれ」

そう要に伝えると、部屋着に着替えるためリビングを後にした火月だった。



――――――


――――――――――――



先ほどまで、ねぎしおと要が和やかに談笑していた空気は一変し、

今は火月とねぎしおの目の前に、背筋をピンと伸ばした要が正座している。

その表情は何処か緊張しているように見えた。


「お二人に相談したいことがあるっす……」


「そういえば、そんなことを言っておったな。

 確か、大学内じゃできない話じゃったか?」


要がこくりと頷く。

大学内じゃできない話……となるとやはり、扉関係の依頼だろう。


要の性格上、扉の修復は最優先で対応したいはずだ。

それが彼の修復者としての在り方であり、

誰もそれを否定することはできない。


だが、元田さんとの件があってからは、

基本的に他の修復者の依頼を受けないようにしていた。


それは、自分の実力不足はもちろん、

相手の命を背負う覚悟が自分には無いと思ったからだ。


二人で協力して扉を修復するのは、

効率が良いし成功率が上がるのはもちろん理解できる。


しかし、扉に絶対はない。


藤堂の時も要の時も、

言ってしまえばたまたま運が良かったから修復できたとも言える。


仕事として割り切れればそれが一番楽なのだろうが、

そう簡単に切り替えることができないのが正直なところだった。


なので、今後は今まで通りファーストペンギンとしての仕事を

細々と続けていこうと考えていた。


といっても、そのファーストペンギンの仕事ですら

ここ最近は全くできていないが……。


「実は……」


思い詰めた表情の要が次にどんな言葉を発するのか、思わず息を呑む。


「好きな人ができたかもしれないっす」

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