第100話 認識
激しい揺れと共に土煙が上がる。
部屋の端の方で火月と要を見守っていたねぎしおは、
彼らが怪物と戦っていた場所を見ながら呆然と立ち尽くしていた。
少し頭が混乱していたので、目の前で起こった出来事を整理する。
『確か……そうじゃ、怪物が上から落ちてきたんじゃ』
つまり、今の衝撃は二人が怪物の下敷きになってしまったことを意味していた。
いくら修復者であっても、あの攻撃には耐えられないだろう。
それは、
こんなことになるなら、
さっさと帰っておいた方が良かったと思い始めたねぎしおだったが、
直ぐに頭を振って、その考えを遠くに追いやる。
『駄目じゃ駄目じゃ。あやつらがいない今、頼れるのは自分だけ。
なら、我がやるべきことは……』
二人の懐中時計を回収しようと決めたねぎしおが、動き出そうとしたその時、
土煙の中から人影のようなものが飛び出してきたのだった。
――――
――――――――――
床をスライディングするような形で、火月と要が姿を現す。
「もう駄目かと思ったっす!」
興奮が収まらないといった様子の要が話しかけてきた。
「間一髪ってところだな」
何とか怪物の不意打ちを避けられたが、次はそう上手くいかないだろう。
結果的に、怪物の新しい攻撃パターンを見れたのは良かった……
と言いたいところではあったが、今回も逃げるので精一杯だった。
これじゃあ、一人で相手をしていた時と何も状況が変わっていない。
「お主ら、無事じゃったか」
ねぎしおがちょこちょこと歩いてきた。
「中道先輩の能力のおかげっす!」
「お前、今まで何処に隠れていたんだ?」
「べ、別に隠れていた訳ではないぞ。第三者視点で戦況を見守っておっただけじゃ」
物は言いようだなと思う火月だったが、
ねぎしおも戦闘に参加していたら無事では済まなかっただろう。
今回ばかりは、遠くにいてもらって正解だったかもしれない。
「それにしても、お主らの攻撃は全く当たらんな。
一体何処に目がついておるんじゃ」
相変わらず、人を煽る才能は天才的だった。
「怪物の姿と気配が消えるんだから仕方ないだろ。
姿がずっと見えているなら話は別だがな」
「
何度も天井に張り付いて、攻撃を避けておったじゃろうに。
さっきの攻撃も怪物が天井に飛び移ったんじゃから、
そのタイミングで注意しておけば、
今みたいにギリギリで避けることもなかったはずじゃ」
『何だ、この違和感は?』
会話が嚙み合っていないような、そんな気がした。
「もしかしてお前、怪物の姿がずっと見えているのか?」
「何を言っておる、当たり前じゃ。
何時までたっても攻撃が当たらんから、
我がわざわざアドバイスをしてやってるんじゃぞ」
胸を反り、自信満々にねぎしおが答える。
「師匠……それ本当っすか?」
要が信じられないといった表情をしていた。
自分が見えているものは、他者も見えているだろうと思い込んでいるように、
自分が見えていないものは、他者も見えていないだろうと思い込んでいたようだ。
自分の認識している世界が、必ずしも他人と一致するとは限らない。
ねぎしおとの会話の中で現状を打開する糸口を見つけた火月は、要に目配せする。
「思わぬ収穫があったな。これなら、まだ戦えるかもしれない」
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