第99話 翻弄

要のいる場所から、反時計回りに円を描くような軌道で棍が飛んでいく。


流石、腕力が向上しているだけのことはあり、

回転している棍から風を切る音が聞こえた。


これだけ広範囲な攻撃なら直撃とはいかなくても、

攻撃を当てることができるのではないかと期待していた火月だったが、

残念ながら棍が見えざる怪物に衝突する様子は見られなかった。


ブーメランのように手元に戻ってきた得物を片手で掴むと、

要が火月へ視線を送る。


「今のところ、手応え無しっすね」


「そうか……。

 怪物が消えた直後なら、まだ周りに身を潜めていると思ったんだがな」


当てが外れてしまい、どうしたものかと考え始める火月だったが、

この結果も貴重な情報であるのは間違いない。


少なくとも、姿が見えない状態の怪物へ闇雲に攻撃を仕掛けても、

意味がないということは分かった。


「おそらく、また直ぐに怪物が攻撃を仕掛けて来るだろう。

 要、お前の背中は俺に任せてくれ。だから、俺の背中は任せてもいいか?」


「はいっす!」


火月と要が得物を構えると、背中を合わせになって周りを注意深く観察する。


『何処だ……、今度は何処から来る……』


二人なら、どの方向から攻撃がきても対処できるだろうと思っていたが、

突如、頭上に怪物の気配を感じた火月は、急いで天を仰ぐ。


そこには、怪物が身体を大の字にして、

まさにボディ・プレスを仕掛けようと落下してきていた。


その様子がスローモーションで視界に映る。


『あの巨体に潰されたら、一巻の終わりだ』


要も同じように上を見上げており、

落下してきている怪物を迎え撃とうと棍を強く握りしめていた。


だが、こちらが攻撃を仕掛けるよりも先に押し潰されるだろう。

つまり、今できる最善策は回避しか残されていなかった。


『あの高さと落下スピードなら、まだ間に合うか?』


悩んでいる暇は無かった。

両足に力を入れた火月は要の腕を掴むと、一直線に走り出す。


「とにかく、前に飛び込め!」


いきなり腕を掴まれて驚いた様子の要だったが、

火月の意図を理解したのか小さく頷くと、

二人一緒になって前方へ飛び込んだのだった。

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