第98話 反撃

火月と怪物はお互い一歩も動かずに、睨み合っていた。


何度攻撃を繰り返しても当てることができないと察したのだろうか……

怪物はさっきまでの勢いを完全に無くし、

まるで事の成り行きを見守るかのように静かに佇んでいた。


だが、攻撃が当たらないという点においては、火月も全く同じ状況だった。

つまり、お互いが攻めあぐねている……謂わば膠着こうちゃく状態である。


『このまま戦闘を続けても、時計の能力の時間切れによって、

 怪物にやられるのが関の山だな』


一刻も早く攻撃を当てる術を考えなければと焦り始めた火月だったが、

思わぬ人物から声を掛けられる。


「中道先輩、遅れてすみません」

視線を横に向けると、棍をたずさえた要が火月と同じように怪物を見据えていた。


「とりあえず、生きていたようで何よりだ。

 まだ本調子じゃないなら実界へ戻るのも有りだぞ」


「お気遣いありがとうございます。

 でも、自分で決めたことなので中途半端なまま帰るわけにはいかないっす。

 それに、頑丈だけが自分の取り得っすから!」


心配をかけまいと空元気に振る舞う要の姿を見て、

無理をするなと言いたいところだったが、彼の考えを尊重することにする。


それは、要を説得できる気がしなかったからではなく、

要が覚悟の決まった目をしていたからだ。


「そうか……。なら、俺も最後まで付き合おう」


「助かるっす! 

 まずは、怪物あいつにどうやって攻撃を当てるのかが

 最優先課題ってことでいいっすか?」


「そうだな。

 一応、今わかっている怪物の情報も共有しておこうと思うんだが―――」


「姿を消したタイミングで、気配も消えるんすよね?」


「あ、ああ……。よくわかったな」


「さっき休んでいた時に、先輩が戦っているのを観察していたので」


「なら、話は早いな。

 お互い能力は発動しているから一秒でも時間が惜しい。

 二人で一気に仕掛けよう」


「了解っす!」


火月は右から、要は左から怪物を挟むような形で接近する。


正直、勝算がある訳では無かったが一人で攻撃するよりも二人で攻撃した方が、

何か攻略の糸口が見えるのでは?と思っての作戦だった。


先に怪物の近くへ接近した火月は、舌の攻撃を回避しつつ、

短剣で反撃を試みる……が、やはり直前で怪物の姿が消えてしまった。


「要! 姿は見えなくても、まだ近くにいるはずだ。

 何処でもいいから攻撃を頼む!」


「任せて下さいっす!」


走りながら右手で握った棍をバトンのようにクルクルと回し始めた要は、

そのまま、怪物が消えた場所を目掛けて勢いよく投げ飛ばした。

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