第58話 反攻

闇雲に探し回っていたずらに体力を消費するのは得策ではない。


まずは、逃げた怪物達の大まかな位置を把握するため、

近くにある高い建物をジャンプして駆け上る。


一番上まで到達すると、そのまま廃墟を見下ろした。


ほとんどの建物の屋根は無く、

まるで大きな災害に見舞われた後の村…とでも言えばいいのだろうか、

そんな感想を抱いた。


少しの間、眼下に広がる景色を眺めていると、

白いヒラヒラしたものが、四方八方に移動している姿が見える。

お互いに連携をとっているような様子はなく、各々が好き勝手に逃げているようだ。


ふと視界の端に、ねぎしおの姿を発見した。

どうやら一体の怪物を追いかけているらしい。


こう言っては何だが、子供たちが鬼ごっこをしているような印象を受けた。

これはこれで見物するのも面白いかもしれない…と思ったが、

自分の仕事を疎かにするわけにはいかないので、直ぐに次の行動を起こす。


この廃墟の地形については、ある程度理解できたので、

怪物が移動するであろう場所に先回りし、

出会い頭に始末する戦法を取ることにした。


壁を蹴り、一番下まで降りると建物の間を走り抜ける。

対面する怪物を、右手の短剣で流れるように処理する。


「一体、二体、三体…四体…」倒した数をカウントしていく。


このまま順調にいけば、全て片づけるのにそう時間はかからないだろう。

何も起きないことを祈りつつ、再び怪物を倒し始めた火月だったが、

十体目を倒したところで、残った怪物達に異変が起きる。


頭部と思われる菱形の透明な石の塊が、薄い赤に色を変え始めたのだ。


「こいつら、ちょこまかと動き回りおって我は好かんぞ」

別の怪物を追いかけまわしていたねぎしおと合流する。


「怪物の見た目の色が変わったな、何か攻撃を仕掛けられたか?」


「いや、何もされておらぬ。ただ…」


「ただ…?」


「今までは統率のない動きじゃったが、赤色になった途端、

 近くにいた別の怪物も同じ方向に動き始めた。

 まるで、目的地が決まっているかのようじゃった」


嫌な予感がした火月は、

異変のあった怪物の後を直ぐ追いかける…が、なかなか追い付けない。

先ほどよりも逃げるスピードが上がっているようだ。


数分の間、怪物を追いかけていると、目的地が何となく見えてきた。

先ほど廃墟を見下ろした時の地形を思い出す。


そう、確かこの先には比較的大きい広場のような場所があるはずだ。


廃墟の道を抜け、視界が開ける。


広場のような場所の中心には、水の通っていない枯れた噴水があり、

そこを目掛けて怪物達が集まっていた。


二十体近くの怪物は透明な石の頭を赤くし、

押し競饅頭くらまんじゅうをしているかようにギュウギュウとひしめき合っている。


その異様な光景に、呆気にとられる火月だったが、

後ろから遅れてやってきたねぎしおの声で我に返る。


「あやつら、あんなところで集まって何をしておるのじゃ?

 まぁい、我も走りっぱなしで疲れていたところじゃから、

 ここらで少し休憩とするかの」


ペタンと地面に座り込むねぎしおを横目に、

視線をすぐ怪物達の方へ戻すと、さらに状況が変わっていることに気づく。


怪物達の身体全体が、赤い光を放ち始めたのだ。

次第にその光は、明るさを増していく…。

肌がピリピリする程の強い気配を感じ、身体中に緊張が走る。


『もしかして、こいつら…』

最悪の事態を想定した火月は、瞬時に懐中時計の能力を発動させる。


「何でもいいから、早く物陰に隠れろ!」


ねぎしおに向かって叫ぶと同時に、

怪物達が集まっていた場所から、激しい光と爆音が鳴り響いた。

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