第57話 疑懼

「一気に囲まれると厄介だ。逃げ道を確保するぞ」


「任せるがよい。我の実力を披露してやろう」


赤煉瓦の地面を強く蹴り、比較的道がひらけてる方へ移動を始めると同時に

視線を左右に動かす。

逃げるのに必死だった前回の扉の反省点を活かし、怪物達への警戒も怠らない。


すると、十メートルほど前方に、例の怪物がふわふわと浮遊しているのが見えた。

周りを見た限り、どうやらあの一体だけのようだ。

一対一なら問題ない。


「このまま直進する。確実に一体ずつ仕留めていく」


「まずは、アイツからという訳じゃな」

ねぎしおも前方にいる怪物を視認したようだった。


火月達が向かってきていることに気づいたのか、

怪物が逃げるように反対方向へ移動を始める。


だが、時計の力で身体能力が向上している火月にとって、

怪物に追いつくのは容易なことだった。


手に握った得物で、まずは一体始末する。

手応えが無いのは相変わらずだ。


油断せず、周囲への警戒を強めると、ふとあることに気づく。

そう…、さっきまで大量にいた怪物たちの姿が見えないのだ。


「てっきり、全員で襲い掛かってくるのかと思っていたんだがな」


「どうやら、我らが動き始めると同時に

 あやつらも一斉に逃げ始めていたようじゃ」


「逃げる? あれだけの数がいて逃げるのか」


「理由はわからんがな。

 だが皆同じような見た目の怪物じゃし、大して強くもなかろう。

 たばになってかかってきても勝ち目がないと思ったのではないか?」


… 

 

……


何だろう、この拭いきれない違和感は…。


ねぎしおの言うことを信じたい気持ちはあったが、

修復者としての勘が、自分自身に警鐘を鳴らしていた。


「とにかく、扉の修復には、あの怪物達を全て始末する必要があるはずだ。

 最後まで気を抜かずにやるしかない」


「なら、ここからは別行動の方が良いのではないか?

 二手に分かれて探した方が効率も良いじゃろう」


「お前からそんな案が出てくるなんて、随分頼もしいな」


「我が頼りになるのは、今に始まったことではない。

 せいぜい、散歩でもしながら吉報を待っているがよい」

と言い終わるや否や、ねぎしおが荒廃した建物の中へ姿を消した。

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