第15話 報告

店の中は全体的に薄暗く、

壁に掛けてあるアンティーク調のランプが淡い光源の役割を果たしていた。


カウンター席がI字型に十席ほどあり、

その後ろには四人掛けのテーブル席が四卓配置してあるシンプルな内装だ。


店のオーナーと思われる女性と四十代前半くらいのスーツ姿の男性が

カウンター越しに話をしている最中のようだったが、

扉の開く音に気が付くと

「すみません、今お店の準備中で……って中道君か」

と女性が話しかけてきた。


「どうも……。

 準備中のプレートは見えたんですが、

 野暮用が出来たので寄らせてもらいました。

 取り込み中なら日を改めます」


「お気遣いありがとね。

 でも、もう話が終わるところだったから少しだけ待っててくれる?」


空いているテーブル席に座るよう勧められたので、肩にかけていた鞄を下ろす。


五分ほど待っていると「何かわからないことがあったら、気軽に連絡してね」という女性の言葉を最後に先客の男性が静かに席を立った。


帰り際に軽く会釈をされたので、こちらも小さく頭を下げると

一瞬驚いたような顔をしていた。


おそらく隣にいる鶏が気になったのだろう。

誰だって店の中に鶏を連れてくるような輩がいたら、気になるはずだ。

自分も二度見する自信がある。


「待たせちゃってごめんねー。

 中道君、お酒は飲めないから、はい烏龍茶」


飲み物が入ったグラスを渡される。


「ありとうございます。

 先ほどの方は新しい修復者ですか?」


対面に座った女性に質問する。

年齢は火月と同じか少し下くらいだろう。

肩まで伸びた白い髪に、

碧眼の持ち主である彼女はいつ見ても西洋人形を彷彿とさせた。


「ええ。契約が完了したから、基礎知識について色々レクチャーしてたの。

 今後一緒に仕事をする機会もあるかもしれないから、その時は宜しくね」

と屈託のない笑顔で言われたので、

「善処します……」と返事せざるを得なかった。


「それで、今日はファーストペンギンの仕事の報告に来たってことでいいのかな。

 少し前に扉が出来たみたいだったし」


「扉関係であるのは間違いないのですが、

 今回は修復の仕事が完了した件になります」


「へぇ~。中道君が修復の報告に来るなんて久々なんじゃない?

 ちょっと組織に問い合わせてみるから少し待ってて」


そう彼女が言い終えるや否や

カウンターに戻り、パソコンのような端末を操作し始めた。


「てっきり、傷有り紅一の扉かと思ってたんだけど、

 傷無し紅四なんて、よく修復できたね」

と感心した様子で彼女が席に戻ってくる。


「いつもの君なら絶対に手を出さない仕事だと思うんだけど、

 何か心境の変化でもあった?」


変に心配されてしまったので、たまたま気が向いただけですと答えておいた。


「今回の報酬は後で振り込んでおくからいいんだけど、

 話はこれで終わりじゃないんだよね?」

 と隣の席に座っている鶏を一瞥する。


「はい……。

 実はこの鶏についてなんですが、

 組織の方で買い取ってもらうことはできますか?」


予め考えていたことを簡潔に伝える。

彼女は一瞬驚いたような顔を見せたが、直ぐに冷静さを取り戻して話を続けた。


「それって怪物だよね……。本当に僅かだけど力を感じる。

 もしかして売るために実界へ連れてきたの?」


事の真意を確かめるかのように、彼女が真っすぐにこちらを見つめてきた。


「実界に怪物を意図的に連れてくることが、

 ルール違反ってことは重々承知しています。

 実は今回修復した扉と関係がありまして……」

と今までの経緯を最初から話し始めることにした。


時計の針は、もうすぐ深夜一時を回るところだった。

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