第79話 未来へ

 すっかり脱力して言葉も発さない公爵は、セフィリアともども守衛隊に連行されて法院を後にしていった。そんな彼らの姿を見届けた後、フィーナが私の元に近づいてきた。


「…」


「…」


 言葉を発する前に、私はフィーナに向けて自身の右手を差し出した。フィーナは一瞬だけ不思議そうな表情を浮かべた後、すぐに笑顔を浮かべながら自身の右手を差し出し、私たち姉妹は初めて握手を交わした。


――アース視点――


 法院における公爵との戦いは僕たちの勝利に終わり、僕はその余韻に浸っていた。それは僕だけじゃない。ここにいる全員にとって忘れられない議会となったのだろう、法院議会は終了が宣言されたにもかかわらず、ほとんどの人たちが退席せずに周囲の人たちと会話を繰り広げている。それはまるで劇場や舞台が終わった後に、隣の席の人と互いに感想を話し合っているといった状況のようだ。

 エステルはずっと前に自身の席を離れ、フィーナさんと話をしている。僕は僕で自身の席を立ち、ある人物の元へと向かった。

 その人物は笑顔で僕の到着を迎えてくれた。


「お前にしては、少し時間がかかったか?」


 まったくこの人は。僕らの気も知らず、会う早々好き勝手な感想を言ってくれる。


「はいはい。けれど父上だったら、もっと時間がかかってたと思いますよ」


 僕もまた笑顔でそう言葉を返す。


「はっはっは。しかしまさか本当に、前に私に宣言した通り公爵を沈めてしまうとは、お前はやはり優秀だったな」


 そう、僕がエステルと父上を会わせるのを待ったのはこのためだった。エステルとの婚約をすべての国民、貴族に認めてもらうには、タイミングが肝心だ。そこで僕が考えたのは、父上がすでに黒い噂をつかんでいた公爵を打ち取る事。帝国皇帝府のみならず、貴族にさえも矛先を向ける公爵の姿を皆に訴えれば、必ず皆が僕たちの味方をしてくれると僕は考えた。…けれど僕がこの作戦を選んだのは、決して僕が優秀からなんかじゃない。


「いえ、僕は決して優秀なんかじゃありませんよ。勝因はただ一つ、僕の隣にはいつもエステルがいてくれましたから」


 エステルが隣にいてくれたからこそ、この結果にたどり着くことができた。…それに、もはやこの場で公爵を打ち取ったのは他の誰でもなく、エステル自身だ。僕は彼女のような人と、帝国の未来をともに歩んでいきたいんだ。


――――


 その後、公爵はセフィリアともども法院にて有罪が言い渡され、二人とも貴族位は剥奪、帝国を永久追放となった。

 フィーナはカーサ皇帝府長の計らいで調査団の所属となり、今はディングさんにしっかり鍛えてもらっているらしい。彼女が帝国にとってなくてはならない存在となるのも、遠い話ではないだろう。

 メイラさんとスカイ君には、公爵がハント伯爵から奪い取った土地や資金が返還された。二人はそれらを元に貴族家を再建して、路頭に迷わせてしまったかつて臣下だった人たちを集めて伯爵の遺志を継ぐべく奮闘している。

 そして私たちは…


「ちょっとジンちゃん!かがんでくれないと二人が見えないじゃない!」


 ジンさんの背から、そう抗議の声を上げるバリアブルさん。


「うるせえばか!」


 そんなバリアブルさんなどお構いなしに、その席を譲ろうとしないジンさん。


「お二人とも、すっごく綺麗ねぇ」


 両手をほほに当てながら、うっとりとした表情を浮かべるメイラさん。


「お姉ちゃんおめでとー!」


 小さな手を大きく振りながら、暖かい言葉を投げてくれるスカイ君。


「…ようやく、ですね」


「ええ。私はこのために頑張ってきたのですから」


 拍手をしながら、互いにそう言葉を交わすカーサさんとイリエさん。


「本当に、おめでとうございます」


 二人の隣に腰かけるのはディングさんと、もう一人の調査団員…


「…おめでとう、お姉様…」


 私たちの婚約は帝国中から盛大に祝われた。そこにはもとより私たちの力になってくれていた人たちも、公爵派だった人たちも関係なく。


「な、なんだか恥ずかしいね…」


「これくらいで恥ずかしがってちゃだめだよ?これからもっとすごいことするんだからね?」


「へ???」


 アースは自身の手を私の頭に優しく添えると、そのまま自身の体の方へと力を込めた。


 大きな歓声と拍手に包まれながら、私たち二人は熱い口づけを交わした。

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孤独で虐げられる気弱令嬢は次期皇帝と出会い、溺愛を受け妃となる 大舟 @Daisen0926

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