第61話 新たなる謎

「僕はアース、これでも貴族家の長なんだ。こっちは僕の婚約者のエステルだよ」


「よろしくね、スカイ君!」


「よ、よろしく…」


 …なんだか忘れかけてしまっていたけど、アースの建前上の肩書は辺境の伯爵だったっけ。さすがにこの子に自身が皇太子だとはまだ言えないか。


「それじゃあ、行きましょう!」


 簡単な自己紹介を互いに終えた後、私たち3人は足を進める。しばらく進んだ所で、私はスカイ君に聞こえない程度の声でアースに言葉を発する。


「ねえアース、どうして彼がハント伯爵の子どもだって分かったの??」


 ああそれはね、とアースは私と同じく小声でこたえ始める。


「彼の右手を見てみて」


 私はそう言われて、スカイ君の右手に注目する。そこには特徴的な細い腕輪がつけられていた。


「あ、あれは…」


「あの腕輪、伯爵も同じものを生前つけていたんだ。だから、もしかしたらって思って」


「す、すごい…よく覚えていたね…」


 確かに特徴的な腕輪だ。…だとしたらあれは、もしかしたら伯爵の形見なのかな…?


「…伯爵は、本当に印象深い人だったからね」


 アースとそんなやり取りをしているうちに、どうやら目的地に到着したようだった。ある地点を指さしながら、スカイ君がその旨を言葉で発する。


「ここだよ。ここでお母さんと暮らしてるんだ」


 彼が指さしたその先には、どう見ても小屋にしか見えない建物が一軒あった…


「こ、これが…伯爵家…?」


 それが私の正直な感想だった。ここに来るまでにたくさん見てきた、いわゆる一般の人たちの家よりも数段簡素なものだった。…それはとても、貴族の家には見えなかった。


「…なるほど、それで彼は伯爵は殺されたんじゃないかって思ったんだ…」


 腕を組みながら、何かに納得した様子を見せるアース。


「ど、どういう事?」


 意図をくみ取れない私に対し、アースは自身の仮説の説明を始めた。


「伯爵が本当に病死したのなら、きっと相当な遺産が二人に残されるはず。だけどこれを見る限り、たぶん遺産は無かったんだろう。…いや、話を聞く限りはむしろ何者かに奪われたと考えるほうが自然じゃないかな…」


 そ、それってまさか…


「…つ、つまり伯爵は誰かに殺されて、伯爵の持つ資産は全てその人物に取られちゃったってこと…!?」


「…今の段階じゃ、何とも言えないけど…」


 アースが示す恐ろしい可能性に、私は少し体が震える。もしそれが本当だったら、いったい誰がこんなひどいことを…

 私たちが外でそんな会話をしていてしばらくたった時、先に中に入っていたスカイ君が私たちを中へと手招きする。私たちは彼に手招きされながら、中へと足を踏み入れた。

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