第49話 作戦会議
こうなってしまっては、私たちには一刻の猶予もない。しばらくみんなで話し合った結果、カーサさんは皇帝府に戻って関係筋からの情報収集に、フィーナは屋敷に戻って二人の出方を探りに、それぞれ向かう事となった。
「さあ、時間がない。僕たちは急いで資料作成だっ」
「は、はいっ!」
かつての皇帝府会議の時と同じく、私たちは忙しく動き回った。私たちに味方をしてくれている貴族の人たちに協力を求めて回ったり、相手の情報集めから資料作成まで。…とても大変に感じられたけれど、アースたちと一緒に過ごすこの時間は、同時にとてもやりがいを感じられた。
――――
「ジンちゃーん!この試算書、数値が飛んでるわよーー!」
「だーーかーーらーー!ジンさんだろうがーー!!!」
――――
「侯爵、二人はどういった手で崩しにかかってくると思われますか?」
「そうだな…ノーベ公爵は金銭にうるさい人だから、やっぱり財政関係が臭いか…」
――――
「アース!!こんなところで寝ないの!!」
「…あ、ね、寝てないって!寝てないってば!」
――――
「こことここは…はむはむ…一緒に書いた方が…はむはむ…いいかもね…はむっ」
「た、食べながら書かなくても…」
――――
「ここを見てくれ。公爵の告発文書、情報のソースは全部奴に協力してる貴族連中じゃねえか」
「…そこをつけば、切り返せる…のか?」
――――
「あーーー!!計算まちがえちゃったーーー!!!!」
「ばーーか。バリアブル、お前もエステルと一緒にアースから勉強教えてもらえ」
――――
「エステル!僕を蹴っ飛ばしてくれ!!眠気を吹き飛ばす!!」
「え?ええええええ!!??」
――――
「クスクス。これはこれは、妃さまを通り越してすっかり奥様でございますね」
ある日、私とアースのいつものやり取りを見ていたカーサさんが、楽しそうに笑いながらそうつぶやいた。
「わ、私はそんなつもりじゃ…」
まじまじとそう言われてしまうと、なんだか恥ずかしくなる。
「それでカーサさん、皇帝府の方はどうでしたか?」
私の横から現れたアースが、カーサさんに疑問を投げた。
「思った通り、皇帝府貴族の多くは今のところすっかり公爵派の人間で固まってしまっていますね。公爵は貴族を束ねる貴族院の院長でもありますから、想像に難しくはありませんが…これには皇帝陛下も手を焼かれておられる様子でした」
さすが、帝國のナンバー2の名は伊達じゃない。私たちの考え通り、彼らはあらゆる方面から私たちを追い落とす算段のようだ。
「それで、資料の準備の方はいかがですか?」
カーサさんの疑問に、現状を正確に伝えるアース。
「…正直、かなりぎりぎりだ…本当なら命じられた準備資料に加えて、向こうが攻めてくるであろう領域についての情報をまとめた資料まで作りたいところではあるんだけど…」
「んなこと、現実的に無理だな。そこらへんはもう、その場のアドリブで対応するほかないだろうな」
…そ、そんな裁判みたいな事をやらなければならないんだ…しかしカーサさんはこんな現実を目の前にしても、冷静さを変えはしなかった。
「分かりました。私も可能な限りぎりぎりまで探りを入れますので、なにかありましたらまた連絡を」
私たちにそう言い残すと、カーサさんは足早に去っていった。
「…さあ、立ち話してる時間はねえぞ。続きだ続きだ」
私たちは改めて体に鞭を打ち、作業に取り掛かるのだった。
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