第13話 お食事会

「す、すごい顔ぶれ…!」


 今日はアースが主催しゅさいした特別食事会の日だ。アースが認める一部の関係者のみ招かれた、小規模な食事会ではあるものの、集まった顔ぶれはすさまじいものだった。皇帝府の関係者から、貴族の関係者、さらには名の知れた芸術家の方まで。ついこの間まで、いじめられながら屋敷でひきこもりをしていた私には、息が詰まってしまいそうなほどに、まぶしすぎる光景がそこには広がっていた。

 そんな中でどこからか、アース達が話をする声が聞こえてくる。


「こ、これはすごい…」


「ああ…まさかこの帝国にこんな食事を作れる人がいただなんて…」


「そうだろうそうだろう♪エステルはすごいんだぞ!」


 私は足早にアースのもとに駆け寄り、言葉を発した。


「は、はずかしいからやめてよアースっ!私なんて全然なんだからっ…!」


 私は恥ずかしさのままに、アースの肩を軽く叩く。彼と一緒にいた二人はそんな私を見て、一瞬驚いた表情をした後、大きな笑い声をあげた。


「ハハハ!これは確かに、皇帝の妃様として申し分ないですなぁ」


「ええ、全くです。皇太子さまを叩ける女性など、帝国中を探したって見つからないでしょうなぁ」


 二人は満面の笑みを、私に向ける。それを見て、私は一段と恥ずかしさが込み上げてくるのを感じた。


「も、もぅ…からかわないでください…」


 顔が真っ赤になっているのが、自分でも分かる。


「いやいや、これは申し訳ない。あまりにも可愛らしかったものですから」


「私もです、クスクスッ」


 ただでさえこういった場には慣れていないのに、ますます体が小さくなっていく感覚…そんな時、不意に後ろから誰かに話しかけられた。


「あなたがエステル様ですね、はじめまして。私はカーサと申します」


「は、はじめまして…」


 ジンさんと同じくらいの背の高さはあろうかという男性が、そう私に言葉を発した。妙に緊張感を感じるその雰囲気に押され、私はどこかかぎこちない挨拶を返してしまう。そんな私の横から、アースが挨拶に加わった。


「カーサさん、お久しぶりですね」


「これはこれは皇太子さま。その節は大変お世話になりました」


 …二人とも笑顔で会話をしているけれど、私でも感じられるほどの殺気を互いに発している。…この二人の間には、過去に何かあったんだろうか…?


「…実は私、この後は別の仕事がございまして。恐れながら本日は、挨拶だけとさせていただきます。何卒なにとぞお許しを」


「気にすることはありません。あなたのお仕事は、私もよく存じておりますから」


 その言葉を最後に、カーサさんは簡単な別れの挨拶を告げてこの場を去っていった。緊張が少しほぐれた私はアースに向け、言葉を投げる。


「ねぇアース、あの人は?」


 私の投げた疑問に対し、少し言葉を選びながら答えるアース。


「ああ、彼はカーサさん。帝国を支える皇帝府の人たちを指揮する、皇帝府長こうていふちょうなんだ。優秀な人だよ」


 …決してそれだけではない何かを感じたけれど、ここで聞くのは無粋ぶすいな気がして、一旦私は飲みこむことにした。


「さぁ、それじゃあ食事会に戻ろう♪」


 表情を一層明るくし、私の手を引き足を進めるアースだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る