第9話 再会の準備

「ほう…わざわざ自分たちから乗り込んでくるとは、ご苦労な事だ」


 机の上に置かれた、セフィリアからもたらされた手紙をにらみつけながら、ジンさんがそう口を開いた。私の境遇きょうぐうやセフィリア達との関係については、ジンさんにももうすでに打ち明けている。


「それで、どうするんだアース。奴らを混ぜて一緒にパーティーでもやるつもりか?」


 ジンさんから言葉を投げられたアースが、ゆっくりと口を開く。


「それなんだけど…エステル、君は二人が帰るまで身を隠しておいた方がいいんじゃないだろうか…?」


「…」


 アースの提案はもっともだ…二人に深い因縁いんえんがある私を直接会わせてしまっては、私は自制がきかなくなってしまうかもしれない…震えて倒れてしまうかもしれないし、はたまた二人に殴り掛かってしまうかもしれない…

 …けれど私には、そうはならないという不思議な自信があった。目の前にいるアースもジンさんも、自分の使命から逃げ出さずに戦っている。私を助けてくれている。それなのに当の私が逃げ出してしまっては、二人と並んで未来を歩くことなんて絶対にできないだろう。

 私は意を固め、力強くアースに返事をした。


「…いえ、私も二人と会います。会わないといけないんです。…ここで逃げたら、これから先もずっと逃げてしまいそうだから…!」


 私の言葉は、ジンさんにとっては意外だった様子だ。少し目を見開き、やや驚いたような表情を浮かべている。一方のアースは、私の言葉を聞きやや笑みを浮かべた後に、こう口を開いた。


「…よし。君がそう決意したのなら、そうしよう」


 どこかアースは、私がそう決意をすることが分かっていたような様子だった。


「僕たちがいかに幸せな関係にあるのかを、見せつけてあげようじゃないか」


 そのアースの言葉に、私もまた笑顔でうなずき返す。…二人に会う事が全く怖くないと言えば嘘になるけれど、今の私なら絶対に大丈夫。だって今の私には、こんなに優しく頼もしい二人がついているのだから。


「やれやれ…別に相談する必要なんかなかったじゃねえか…無駄な時間取らせやがって…」


 私たちの後ろでばつの悪そうな言葉を発するジンさんだけれど、その表情はどこか明るく優しげだ。


「さあ、それじゃあ二人を迎える準備をしなくては。二人は僕の親族となる人々だ。僕の正体も明かすことになるだろうし、それを知った二人がどれだけ喜んでくれるのか、想像しただけでも楽しみじゃないか」


 アースのその言葉を聞き、私たちは終始明るい雰囲気で準備を進めるのだった。

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