片思いの想い
涙とその先輩はペア割引で、水族館のチケットを買った。
僕は一人料金でチケットを買った。
なんか、不公平だと感じつつも。僕には永遠にペアが見つからないから、どこに行こうと変わらないんだろうなと現実逃避する。
涙も水族館に入った頃は、後ろを振り向いたりしてたけど。先輩と一緒に見て回ってるうちに、僕のことをすっかり忘れたみたいで。後ろを振り返らなくなった。
楽しそうに水槽の中の魚を眺めては、キャッキャッウフフしてる姿に僕も嬉しくなる。
今この時くらい、先輩の涙を貸してもいいだろうから。学校じゃ僕が独り占めだからね。
「初めて見ました、凄いすごーい!」
始めてみる巨大水槽に目を輝かせて、あっちへふらふら、こっちへふらふら。
そんな涙に腕を引かれて先輩は連れまわされてるけど。その視線は魚ではなく涙に向いていた。
涙の笑顔が一番輝くのはやっぱり、あの先輩の隣だった。
僕に見せる笑顔より、先輩の隣で見せる笑顔のほうが綺麗だった。可愛かった。可憐だった。
僕に見せてくれる笑顔の何倍も、何十倍も輝いていた。
恋は女の子を美しくするってのは、嘘じゃなかったみたいだ。
恋する乙女ほど、美しいものはない。
「クラゲコーナーって書いてありますよ、先輩行ってみましょう!」
「おい先に行くな、迷子になるぞ」
涙と先輩は薄暗いクラゲコーナーに消えて行った。
消えて行った後姿を追うことはしない。結局のところ、僕は場違いなんだ。
巨大水槽の前で、一人で魚を眺める。
巨大水槽の中に縛られながらも、自由を満喫している魚たち。僕は魚にすら劣っている。
涙への片思いに縛られて、いや自らを片思いで縛り付けて。身動きが取れなくなるほどに、縛り付けて。何もできない。できることは眺めることだけ。声をかけることすら満足にできないんだ。。この思いを口に出すことすらできないんだ。
僕は臆病だ。
もっと早くにこの思いを告げていたら今頃は……
いや、もっと早くに思いを告げていたら。今の関係性すら壊れていたかもしれないんだ。そう考えると、やっぱり片思いのままでよかったんだ
あぁ、何度この問いかけを自分にし。何度同じ答えにたどり着いたんだろうう。
両手じゃ足りないほどに。自問自答の末、自己完結している。
ずっと、一歩を踏み出せなかった。
いつも涙の右後ろを歩くだけで、一歩を踏み出す勇気があれば……
今僕は、涙の隣を歩けていたんだろうか。
思考を繰り返すにつれ、出口のない迷路に迷い込む。自問自答をすれば毎回、出口のない迷路を彷徨う。
迷路の出口は自分で作らなければいけない。でも今まで僕が迷路の出口を作れたためしはない。
でも、毎回僕は迷路を抜け出している。それは、
「ねぇ、委員長ってば」
涙がこじ開けてくれるから。
「ん、ああ。おかえり」
「もう、後ろにいないから心配したんだよ」
「ごめん、二人の邪魔をしたら悪いかなって思ったからさ」
事実そう思ってここにいた。思考の迷路に迷い込んでたけど。
「邪魔なんてそんなことないよ。誘ったの私なんだから。ね、もう少ししたらイルカショーがあるんだって。一緒に見に行こう」
涙が僕に向かって手を伸ばす。
何時だってそうだ。僕が困っていたりする時、涙は手を差し伸べてくれる。しかも毎回無意識にだ。
知らず知らずのうちにそうやって助けるから、惚れるんだ。
多分、この先輩もそうなんだろうな。
「わかったよ。見に行こう」
そしてやっぱり、僕はこの手を掴んでしまうんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます