77.地雷を踏みまくって踊る道化
「マダム、私の来店を拒むなんてどういうこと?!」
お顔立ちや立ち振る舞い以上に強気な言葉で、マダムを責める女性。アルノルトは剣先を向けたまま。通常なら無礼に当たるが、この場面なら護衛として当然だろう。ましてや護衛対象は王族と並ぶ大公なのだから。
「本日は貸切でございます。ご遠慮くださいませ。ビッテンフェルト公爵令嬢様」
マダム・カサンドラはようやく立ち直り、自らの足で立った。金髪令嬢を押し留めていた店の従業員が頭を下げる。ちらりとこちらを見て、ビッテンフェルト公爵家のご令嬢は眉を寄せた。
「誰だか知らないけど、私は買いたい時に買うのよ。そこのドレス、全部私が買うわ。屋敷に届けさせて」
気に入ったから選んだのではなく、自分を不愉快にさせた相手から奪おうと考えたのが見え見えね。呆れてしまう。この国の公爵家は、揃いも揃って育児と躾に失敗したのかしら。
公爵家より上は王家のみ。だから自分が顔を知らない貴族は下位に決まっている。そんな態度で言い放ったところで、アルノルトが抜いた剣に気づいた。
「きゃぁあ! なんなの? 野蛮人が店内にいるなんて」
「マダム・カサンドラ。その品性の欠片もない成金令嬢は、どこの娘だ?」
アルノルトに礼を言ったマダムは、ひとつ深呼吸してヴィルへ深々と頭を下げた。
「大変申し訳ございません。ビッテンフェルト公爵家のご令嬢イザベル様でいらっしゃいます」
「知らんな。先日の夜会にも呼ばれぬ程度の女が、公爵令嬢を名乗るのか」
ヴィルの口調が大公様になってるわ。ムッとした口調で言い放ち、絶句した公爵令嬢へ視線を向ける。イザベル嬢は怒りに満ちた表情で叫んだ。
「私に無礼な口をきくとタダじゃ済まないわよ」
その言葉そっくりお返しする状況よ。まだ子どもみたいだし、容赦……はなさそう。ヴィルはにやりと笑った。その顔はレオナルドを罠にかけた時と同じ。徹底的に叩き潰すつもりみたい。
「侯爵様、お茶を淹れ直しますね」
時間がかかると踏んで、アンネがそう進言した。その言葉に勘違いしたらしい。無礼を通り越し、非礼な態度に出たイザベル嬢は、目上のヴィルを人差し指で指した。
「たかが侯爵程度が、公爵令嬢の私に逆らう気?」
ああ、これは……ただのお馬鹿さんだわ。私は大きく溜め息を吐いた。ちらりと窺ったヴィルは、口元の笑みを深めていく。もう取り返しが付かないわね。
「ヴィル、穏便にね」
「もちろんだ、二度と屋敷から出られなくなる程度で許すつもりさ」
穏便の意味をあえて曲解するヴィルに任せ、私はアンネが用意したお茶に手をつける。自ら墓穴を掘る公爵令嬢の肩書きが「元」になりそう。私はお茶を味わいながら、ソファに身を沈めた。
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